第十八話 天文十一年一月上旬『家臣を探そう!』
「なんと……っ! おめでとうございます、姫様!」
「わぁ、すごいですね! おめでとうございます!」
下河原の屋敷に戻り加増の話をすると、ゆき、はるがわぁっと喜びを顔いっぱいに表現して、祝辞を述べてくる。
言葉だけではなく、彼女たちのわたしへの好意が感じられて、それは直に嬉しいんだけど……
「ありがと。でも、喜んでばかりもいられないのよねぇ」
はあああっと嘆息とともにわたしは炬燵の机に突っ伏す。
「しかり。この下河原程度であれば、それがし一人でも切り盛りできますが、一二〇〇貫もの大領となれば、明らかに人手が足りませぬ」
じぃがうむっと頷きつつ、ゆきの入れてくれた
「そーなのよねぇ」
実は今のところ、わたしには家来と呼べる人間が一人もいなかったりする。
ゆきとはるはわたしに仕えてはくれてるけど、あくまで古渡城に奉公に来ている身である。禄もそちらから出ている。
じぃも信秀兄さまから付けられた傅役であって、わたしの家来というわけではない。
村人たちも、家来ではなくてあくまで領民である。
「こりゃもう誰か雇うしかないわね」
さすがに急を要するし、贅沢は言ってられないけど、どうせなら有能な人間を雇いたいところである。
どっかに転がっていないかしら。
「ふむ、では、それがしの次男などはどうでしょう?」
「え? じぃの息子さん?」
「はい、まだ一六と元服したばかりで年は若うございますが、かなりの武辺者です。一二五〇貫の大身となれば、護衛の一人も必要でしょう。奴なら打ってつけです」
自信満々に推薦してくる。
んん? 佐々家で、次男で、年が一六で、武辺者?
「え~っともしかして、なんだけど、その息子さん、成経さんとかいったりします?」
「おお、よくご存知で」
「えと、ちらりと風の噂で」
「ど、どのような噂で?」
ぎくりとじぃが表情を強張らせる。
ん? なにかあるのか?
「え~っと、お強い、と」
とりあえず、質問に答えておく。
佐々成経は、弟の佐々成政に比べればもうめちゃくちゃマイナーと言わざるを得ないが、今から六年後に勃発する小豆坂の戦いで大活躍し、「小豆坂七本槍」と顕彰された勇将だ。
さすがに勝家殿とは比べるべくもないが、十分すぎるほどに強いはずだった。
「おお、そっちの噂でしたか。うむうむ、ならば話が早い」
じぃが嬉しそうに頷き、
「どうでしょう? 禄は五〇貫ほども頂けるとありがたいのですが」
やすっ!
なんかちょっとじぃの言葉に含みがあるのが気にはなるけど……小豆坂七本槍が年俸六〇〇万円とか絶対に買いだろう。
「わかりました。じぃの息子さんならわたしも大歓迎です」
「おおっ、ありがとうございます」
「いえ、ご紹介してくださり、こちらこそありがとうございます」
一二五〇貫もの大身となれば、当然、戦が起きれば与力することを求められるはずだ。
だが、わたしはまだ八つの子供。
代わりに兵を指揮する武将の存在は、絶対に必要だった。
「ただ……お恥ずかしながら学問や礼儀作法にはとんと興味がなく、後素行もちょっと悪いのですが、そのあたりは今後に期待と言いますか……」
じぃがポリポリと頬をかきながら、言いにくそうに付け加える。
了承をもらってから言うあたりが、ずるいといえばずるい。
とは言え、その辺、ある程度察した上で、こちらも了承したのだ。
「元から護衛として推薦されたんだし問題ないわよ」
気にしてないとばかりに、わたしはしれっと返す。
我が子可愛さからというのは、わたしも前々世で子を持った身なのでよくわかるところである。
それにじぃももういい年だし、ちゃんとした護衛兼移動用の騎手が欲しいところだったからちょうど渡りに船だったのだ。
「はっ、恐縮です」
「ただ急務の領内統治にはまた別に人が必要そうね」
「しかり」
「誰か他にこれはって心当たりはある?」
「うぅむ、残念ながら。名のある人物となるとやはりすでにどこかに仕えておりますし」
「そりゃそうよねぇ」
まあ、そう簡単に在野に優秀な人が転がってたら、苦労はない。
でもわたしには有難いことに、未来の知識がある。
とりあえず、某ゲームで織田家スタートした時の在野武将を頭に思い浮かべてみる。
いの一番に思い浮かんだのが、滝川一益だ。後に織田四天王の一角を務めるまさにSSRな有能武将である。
でもあのひと、わたしの記憶では織田家に来るのはもっともっと後だったはずだ。
尾張に来る前に摂津国(大阪)で鉄砲を学んでたって話だけど、そもそも鉄砲の伝来は来年である。
ちょっと期待できそうにない。
ん~、他に誰か……ああっ!
ちょうどいい人がいたじゃない!
内政能力高くて、弓の達人で、まだ誰にも仕えていなくて、しかも居場所もきっちりわかっている。
そんな有能で都合のいい人物がいたのだ!
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