新文字体系に於ける子音

 多くのアルファベット同様、残り大多数の文字は子音である。母音とは異なり、子音では殆どの発音法が国際発音記号で記号化されている。しかし、実際の言語ではそれら全ての発音が採用されていない。この章では、類似した子音で比較検討しながら、実際にどういった文字が用いられるのかを示していく。


1. 唇音の破裂音、摩擦音

 唇音には3種類ある。両方の唇で鳴らす両唇音、唇に上歯を引っ掛けて鳴らす唇歯音、そして、舌を唇で挟んで鳴らす舌唇音の3種である。発音法は異なるが、実際に出てくる音は殆ど同じなので、新文字体系では表記を区別しないことにした。

 我々日本語話者にとって、両唇音以外の発音には全く馴染みがないものである。破裂音では[p][b]、摩擦音では[ɸ][β]がある。左は無声音、右は有声音を示す。以後、この表記法に倣う。日本語で言えば、「プ」「ブ」「フ」「ヴ」の音である。一方、英語で摩擦音は唇歯音である[f][v]を用いる。我々の感覚では、[ɸ]と[f]、[β]と[v]は実質同一である。その為、文字を区別しないことにした。破裂音、舌唇音でも同じことが言える。

 以下がこれらの発音を表す文字である。


Bʙ……[b]([b̪][d̼])

 ラテン文字「B」に基づく。

Vv……[v]([β][ð̼][ʋ][ⱱ][w])

 ラテン文字「V」に基づく。

Πп……[p]([p̪][t̼]) 

 ラテン文字で[p]は「P」としているが、基となったギリシャ文字、姉妹文字のキリル文字などではこれらは[r]を表す文字としている。多くでは「Π」として表記しているのでそれを採用。

Fꜰ……[f]([ɸ][θ̼])

 元々「Φ」としていたが、極力ラテン文字に準拠するため、「F」に変更した。


2. 舌頂音の破裂音、摩擦音

 舌頂音には幾つか種類がある。歯音や歯茎音とは、示されている口の部位に舌を当てて発音するものである。反舌音とは文字通り舌を反って発音するものである。日本語では前者のみが発音として存在するが、ヒンディー語などのインドの諸言語では両方区別して用いられている。新文字体系では同一のものとして見做す。

 ここで扱う摩擦音は歯擦音を除くものとする。摩擦音にも同様なことが言え、区別をしないこととする。また、有声音と無声音に関して、元々[ð]の為に「Δ」という文字を設けていたが、使用頻度に多く見込まれないことから削除した。

 以下がこれらの発音を表す文字である。


Dᴅ……[d]([ɖ])

 ラテン文字「D」に基づく。

Tᴛ……[t]([ʈ])

 ラテン文字「T」に基づく。

Θɵ……[θ]([ð])

 ギリシャ文字「Θ」に基づく。


3. 舌背音の破裂音、摩擦音

 舌背音には3種類ある。硬口蓋音とは硬口蓋に、軟口蓋音とは軟口蓋に、口蓋垂音とは口蓋垂に舌を当てて発音するものである。我々に最も馴染みがあり、日本語に唯一用いるのは軟口蓋音である。

 アラビア語などのアフリカ・アジア語族などの言語では軟口蓋音と口蓋垂音を区別している。一方でインド・ヨーロッパ語族の諸言語では口蓋垂音が鈍化し、同一の音と見做されている。ラテン文字歴史の章でも、「Q」を述べた際にもその解説が見られる。また、日本語などといった東アジアや東南アジアでは一切見られない。新文字体系では同一のものとして見做す。

 また、軟口蓋音の摩擦音に関して、アラビア語などでは有声音と無声音での区別が明確にされ、オランダ語では破裂音[g]の代わりに摩擦音[ɣ]が用いられている。元々[ɣ]の為に「Γ」という文字を設けていたが、使用頻度に多く見込まれないことから削除した。

 また、チェコ語などのスラヴ語派をはじめとする言語では、硬口蓋音と軟口蓋音とで区別が見られるが、こちらも新文字体系では同一のものとして見做す。

 以下がこれらの発音を表す文字である。


Gɢ……[g]([ɟ][ʝ][ɢ][ɣ][ʁ][ɰ])

 ラテン文字「G」に基づく。

Kᴋ……[k]([c][q])

 ラテン文字「K」に基づく。

Xx……[x]([ç][ʝ][χ][ɣ][ʁ])

 ギリシャ文字やキリル文字で「X」は[x]を表す文字であるため採用。


4. 鼻音

 鼻音とは鼻から声を発する音のことである。全くないわけではないが、無声音は一般的にあるものとは見做されない。日本語には鼻音のバリエーションが多い。これは「ん」に後続する発音によって、発音しやすいように、自然発生的に出来たものである。普段我々は全く意識をしない。日本語には[m][n][ɲ][ŋ][ɴ]の5種類の鼻音があるが、我々が意識的に区別するのは[m]と[n]だけである。

 新文字体系では2種類の文字がある。以下がその文字である。


Mᴍ……[m]([ɱ][n̫])

 ラテン文字「M」に基づく。

Nɴ……[n]([ɳ][ɲ][ŋ][ɴ])

 ラテン文字「N」に基づく。


 このように、唇音と舌頂音・舌背音で文字を分けている。元々[ɲ][ŋ]それぞれには別個の文字を用意していたが、使用頻度が多く見込まれないことから削除した。


5. 接近音、弾き音、震え音、側面音

 これらの音は舌や唇を接近させたり、弾いたり、震わせたりすることにより発音するものである。これらには舌の中央を上顎に接着して、側面から息を出すものもある。

 まず、唇音だが、接近音と弾き音はこれらは一部の言語で[v]の代わりに用いられる発音であり、実質的に同一視することができる。その為、[v]と同様の文字を用いる。

 唇音の震え音[ʙ]だが、これは唇破裂音と舌頂震え音を組み合わせれば表記ができるので、単独の文字は作らない。

 舌頂音に関しては、それぞれの発音を区別する言語は殆どなく、実質同じ発音として扱われるので、文字を統一することとする。例えば、英語の[ɹ]と日本語の[ɾ]は実質的に同一に扱われている。口蓋垂震え音もフランス語とドイツ語のそれに当て嵌めることができ、同一の文字とする。

 硬口蓋接近音は多くの言語で半母音として固有の文字にすることが多く、新文字体系もそれに従う。一方、軟口蓋接近音は区別する言語が幾つか見られるが、使用頻度を鑑みて削除した。

 側面接近音と弾き音に於いて、イタリア語やスペイン語などでは舌頂音と舌背音で区別が見られる。そのため、元々[λ]を表す固有の文字を作っていたが、使用頻度を鑑みて削除した。

 同様に側面摩擦音は使用頻度に多く見込まれないため、固有の文字は作られていない。文字化されているその他の摩擦音の文字と側面近接音の文字を組み合わせ、タイを付けて表すこととする。

 以下がこれらの発音を表す文字である。


Pᴘ……[ʁ][ʕ][ɹ][ɻ][ɾ][ɽ][r][ɽr][ʀ][ʢ]など

 ギリシャ文字やキリル文字で、「P」を以上の発音を表すのに用いられているため採用。

Jᴊ……[j]([ɥ])

 元々「Y」としていて、「J」は[dʒ]を表す文字にしていたが、前者を別の発音に置き換えたために変更。ラテン文字の歴史の章でもあったように、元々「J」は子音の「I」を表すために作られた文字であるため、より相応しいと考えて変更した。

Lʟ……[l]([ɺ][ɭ][λ][ʟ][ɫ]など)

 ラテン文字「L」に基づく。


6. 咽喉音

 咽喉音には咽頭音と声門音の2種類が存在する。それぞれの場所で発声することによってできる。破裂音は日本語でいえば促音のようなものであり、咽頭音と声門音を同一のものとして見做すことが可能である。また、摩擦音も同様のことが言える。破裂音に関して、アラビア文字などでは文字化されているが、アポストロフィや複合音字によって表記が可能なので新文字体系では文字化しない。有声音の摩擦音や震え音は実質[r]の1種として捉えることができるので、固有の文字を作らない。

 以下がこれらの発音を表す文字である。


Hʜ……[h]([ħ][ɦ][ʜ][ʍ])

 ラテン文字「H」に基づく。


7. 歯擦音

 歯擦音とは、両顎を閉じて、歯の隙間から発するものである。大きく分けて歯茎音、後部歯茎音、反舌音、歯茎硬口蓋音の4種があり、それぞれ有声と無声がある。これらは全て舌の形によって差別化される。英語やフランス語などでは歯茎音と後部歯茎音、日本語では歯茎音と歯茎硬口蓋音を用いるように、多くの言語では2種類用いられる。しかし、中国の諸言語やロシア語などのスラヴ語派は歯茎音、反舌音と歯茎硬口蓋音の3種類を用いる。私は当初3種類の歯擦音を文字化することにしていたが、新文字体系では摩擦音[θ]を文字化し、これ以上作る必要がないという判断をしたため、歯茎音と後部歯茎音の2つに絞った。

 以下がこれらの発音を表す文字である。


Zz……[z]

 ラテン文字「Z」に基づく。

Жж……[ʒ]([ʐ][ʑ])

 キリル文字「Ж」に基づく。一度は破擦音[dʒ]を単独の文字にしていて、「Ж」を採用したが、使用頻度を鑑みて、[ʒ][dʒ]両方を「J」に統合し、「Ж」を削除した。しかし、「J」を[j]を表す文字に改めたため、再登用。

Ss……[s]

 ラテン文字「S」に基づく。

Ww……[ʃ]([ʂ][ɕ])

 キリル文字では「Ш」という文字を以上の発音を表す際に用いる。できるだけ全てのラテン文字を使用したいがために、形状が類似している「W」を採用。


8. 破擦音

 破擦音とは、破裂音と摩擦音を同時に発することでできる発音である。非歯破擦音と側面破擦音は、破裂音を表す文字と摩擦音を表す文字をタイで結ぶことによって表せるため、新文字体系では文字化しなかった。一方で、歯破擦音は使用頻度が高く、多くの言語で単音字にすることが多いため、新文字体系でも文字化することにした。

 歯破擦音には4種類あり、それぞれ有声と無声があるが、歯擦音同様歯茎音と後部歯茎音の2種類に絞った。元々有声と無声で個別の文字を作っていたが、有声音が使用頻度に多く見込まれないため、削除した。有声音は非歯破擦音同様の工夫を用いることとした。

 以下がこれらの発音を表す文字である。


Cc……[ts]

 スラヴ語派や中国の諸言語のピンインなどでラテン文字「C」を[ts]を表す文字としたため採用。

Qч……[tʃ]([tʂ][tɕ])

 中国の諸言語のピンインでラテン文字「Q」を[tɕ]を表す文字としたため採用。システム環境により、小文字はキリル文字の「Ч」の小文字を用いているが、こちらは応急的なものであり、本来の表記はラテン文字大文字「Q」の小型版である。

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