第43話 もらわれてあげる
ゆきめとミクは、ゆきめの部屋にいる。
俺は自分の部屋で一人でテレビを見ている。
告白、してしまったなぁ……
別に後悔もないし、なんならスッキリしたんだけど人を好きになるとこうも不安になるんだと初めて知った。
今日はもう晩飯も食べたし、ゆきめは部屋に来ないだろう。
ミクにゆきめを独占されるのがこんなにも悔しいなんてな……
今になるとゆきめの気持ちというのも少しだけ理解できる。
好きな人が今何をしているか知りたい、顔が見えなくて不安、誰といるのか心配。
そんな気持ちには誰だってなるものだ。
ゆきめの場合はそれを払拭しようとする為の行動力がありすぎただけなのだ。
俺だって度胸と行動力があれば、ゆきめの行動を知ろうとストーカーっぽい行動をとるかもしれない。
そんなことを思うくらいに今一人でいることが寂しいのだ。
ゆきめのやつは毎日ずっとこんな気持ちを抱えて過ごしていたのだと思うと切なくなる。
俺が悪いわけではない。
しかし俺にずっと片想いをしていたゆきめに今までずっと想い続けてくれたことへの感謝なんてものを柄にもなく考えてしまう。
やっぱり改めてきちんとした場所で告白を……それかせめて何かプレゼントでも……なんて考えているとミクからラインが来た。
「お姉ちゃん明後日誕生日だよ?プレゼント用意してないなら明日買い物付き合うよ」という内容に俺は初めて妹に感謝した。
ゆきめは自分のことは何も言わない。
もちろん俺が何も言わなくても俺の誕生日なんてリサーチ済みだろうが、俺はあいつの誕生日を危うくスルーするところだった。
ミク曰く、明日はゆきめの親がこっちにきて一緒に買い物に行くそうなので、その間にプレゼント選びに付き合ってくれるということだった。
そんな最高のタイミングに俺は少しだけ心が踊った。
初めてゆきめに何かしてやれる。そんなことが嬉しいなんて、先日までの俺が聞いたらなんと言うだろう。
早速ミクには「お願いします」と返してから、ゆきめのプレゼントをネットで検索しているといつの間にか眠っていた。
翌朝、ゆきめとミクは早くから俺の部屋にいた。
「私、今日はママとお買い物だからその間ミクちゃんと待っててね」
ゆきめはそう言ってさっさと準備を進めている。
そして朝食を食べた後、ゆきめは珍しく一人で出かけていった。
「さて、お兄ちゃんさっさと準備してよ。お姉ちゃんの誕プレ買うんでしょ?」
「ああ、でも昨日も調べたけど何買ったらいいんだ?」
「まっかせなさい。すでにお姉ちゃんの欲しいものはリサーチ済みよ」
自信満々にそう話すミクに俺は行き先を任せた。
そして二人で家を出て向かった先はアクセサリーショップだった。
「ここ?女の子ってまぁこういうの好きそうだけど」
「なんでもいいわけじゃないんだよ?ほら、こっちこっち」
ミクが案内してくれたのは指輪コーナーだった。
「指輪……ちょっと重くないか?」
「ペアリングなんて今どき普通だよ?それにお姉ちゃん昨日言ってたもん。指輪っていいなぁって」
「……」
別に値段云々とかの話ではなく、単純にゆきめとペアリングをするなんて事実が恥ずかしい。
しかしそれで喜んでもらえるなら俺の羞恥心なぞ捨てるべきだろう。
ミクにゆきめの指のサイズを聞きながら、イニシャルの入ったリングを二つ購入した。
いつ渡すか、ということについてまでミクはご丁寧にアドバイスをくれた。
今日の深夜、明日になるタイミングでさりげなく渡すのが一番効果があるよなんて話すミクを見ていると、どこでそんなものを覚えたのか不思議で仕方ない。
結局何から何までミクが段取りをしてくれた。
そしてふと思ったのだが、こうしてミクと二人で買い物なんて初めてだ。
ゆきめがいなければこうしてミクと出かけるなんて絶対になかったと思う。
やっぱりあいつが俺の環境を大きく変えた。
そんなゆきめはもう俺には欠かせない存在なのだと、隣にいるミクを見ながら改めて感じていた。
その後は二人で部屋に戻り、ゆきめの帰りを待った。
昼食は適当にミクが作ってくれた。
ミクの手料理はお世辞にも美味しいとは言えなかったが、まさかこいつの作ったものを口に運ぶ日がくるとは意外だった。
昼食を食べ終えて片づけをしているとゆきめが帰ってきた。
そしてゆきめと一緒にミクを駅まで見送ることになり、三人で駅まで向かった。
改札口で涙ぐみながらゆきめに別れを告げるミクを見ると、俺まで泣きそうになっていた。
そんなミクの姿が見えなくなった後、ゆきめは俺と手を繋いだ。
いつもなら半ば強引に絡めてきていた手を、今日は自然と俺が受け止めた。
そして部屋でゆっくりして、夕食を済ませた後に二人で一緒に風呂に入った。
あんなに目隠しをしたり逃げ回っていた入浴だったのに、今日は二人で背中を流し合ったりした。
それが楽しくて、嬉しいと思った。
風呂あがりに気づいたことは、いつのまにかクマちゃんの姿が見えなくなっていたことだ。
ゆきめに聞くと「もう必要ないから」なんて意味深なことを言ってきたが、そこまで気にならなかった。
そして夜の十一時過ぎ、あと一時間もしないうちにゆきめの誕生日になる。
ずっとベッドの枕元に忍ばせてあるゆきめへのプレゼントを意識しながら時計を見る。
ちなみに冷蔵庫にはミクが気を利かせてショートケーキを二つ買ってくれている。
あと少しで誕生日だというのにゆきめは何も言わない。
本当に自分のことなんて二の次、というのは頭が下がる思いだ。
そしてその時が来た。
「もうこんな時間だね、寝る?」
「……ゆきめ、誕生日おめでとう」
「え?」
俺は一言そう言ってから用意していたペアリングの片方をゆきめに渡す。
「これ……よかったら」
「私に?開けていい?」
「も、もちろんだよ」
よくよく考えたら俺はゆきめにいつもしてもらってばかりだった。
もはや押し売りではあったが、それでも確実に俺のためだけにいつもこいつは何かをプレゼントしてくれていた。
そのささやかなお返しとして用意したそれを見るゆきめのリアクションが気になって心臓が張り裂けそうだった。
「これ……指輪?」
「ど、どうかな……」
俺が聞くとゆきめはボロボロと大粒の涙を流し出した。
そして強がった。
「な、なにこれ別に嬉しくなんかない!嬉しくないし頼んでもないし、なんもしてほしいとか思ってないし!だから……だから」
こんな時にツンデレするなよと呆れながらも、そのグシャグシャになる顔をみて俺は一言。
「ゆきめ、誕生日おめでとう」
「うん、仕方ないからもらってあげる」
ああ、仕方なしでいいからもらってくれ。
俺も仕方なしにお前にもらわれてやるよ。
二人だけの空間にあたたかな空気が漂った。
そして今日、ゆきめと寝た時に初めて俺の方から彼女に手を出した。
お互い指にはめた指輪を時々指の間でかすめながら俺たちの幸せな夜は続いた。
◆◇◆◇
お知らせ
次回、最終話となります。
ここまでお付き合い頂きました皆様誠にありがとうございます。
最終話まで是非お楽しみください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます