第39話 成敗
授業中にさっきの落書きを思い出しながら俺が考えたことは二つ。
誰があんなことをしたのか、そして何の目的でそうしたのか、だ。
そしてそれはあっさりと絞られていく。
つまりはゆきめの事が嫌いで貶めてやろうと考えているやつの仕業だ。そして直近でそんなことをするやつに心当たりがある。
遠坂アリアだ。彼女は何食わぬ顔で席について授業を受けているが、彼女の仕業かもしくは彼女の指示で誰かがやったことに違いないだろう。
俺はそんな彼女を、離れたこの席から見ていたがなぜかイライラしていた。
なぜだろう。少し前なら「遠坂さんグッジョブ」と叫びたくなっていたはずなのに、今は彼女が犯人だと思えば思うほど憎いとすら思ってしまう。
その感情は、匿名で他人の誹謗中傷をするやつが許せないというただの正義感からくるものなのか。
それとも……
休み時間になった時、ゆきめは俺の方を見てきた。
そして何も言わずに席を立って、すぐに遠坂さんの席の近くへと歩いていく。
「アリアちゃん、ひどいよねーあんなこと書く人がいるなんて。辛いから相談乗ってよー」
「ふん、自業自得なんじゃないの?私は知らないけど、ああいうのって被害者側にも問題あるケース多いっていうしね」
「冷たいねーアリアちゃん。でもいくら被害者側に非があったとしても、やっぱり一番悪いのは加害者だよね?」
「それはもちろんそうよ。誰も犯人が悪くないなんて言ってないわ」
「へぇー、そういうことはわかってるんだ」
「何が言いたいの?」
「別にぃー」
ゆきめは遠坂さんと話した後、また俺のところに戻ってくる。
「今日は私、部活休むから。先生には行っておくね」
「だ、大丈夫なのか?」
「うん、やっぱり悪い人は罰を受けるべきなんだよ。うん、そうだよ」
ゆきめは言い聞かせるようにそう話して、また席に着いた。
その後、昼休みも含めてゆきめと遠坂さんに目立った動きはなかった。
しかしクラスの人間からは、なにか視線を感じる。
それはゆきめに対する同情の目なのか、それともゆきめを疑う目なのか。
そんな他人の目など気にするわけもなく、ゆきめは淡々といつものように俺の隣にいる。
そして放課後、俺は不安を残しながらもゆきめを教室に残して部活に向かうこととなる。
「なあ、本当に大丈夫か?よかったら俺も」
「蒼君は練習しないとダメだよ?それに……別に心配なんかしてもらわなくても大丈夫なんだからね!」
今日のゆきめのツンデレは、照れ隠しや上機嫌からくるノリではなかった。
強がっているように見えた。
もしかしたら不安なのかもしれない。
しかしゆきめにさっさと追い払われたので俺はグラウンドに向かった。
今日はゆきめが休みだということで男子部員のテンションは下がりまくりだった。
それになぜか俺が責められた。何をしたんだ、とかお前がちゃんと彼女の健康管理しろなんてとばっちりを喰らいながら部活が始まった。
ゆきめがいないこともあって久しぶりに九条さんと話が出来た。
最も軽い挨拶程度のことだったが、気まずさが少し取れたことについては素直に嬉しかった。
その後はずっとゆきめのことを考えていた。
あいつがいない部活、というかあいつの姿が見えない時間がこうも不安になるのは、やはり今朝の件があったから、なのだろうか。
今日はあまり練習に集中できず、足に違和感があると嘘をついて部活を早退した。
そして着替える時に携帯を見たがゆきめから連絡はない。
まだ校内にいるかもしれないと思った俺はゆきめを探した。
見かけた生徒にゆきめの事を聞いたりもしたが誰も見たという人はいない。
代わりに遠坂さんが屋上の方に向かっていたという情報を聞いたので、それを頼りに俺は屋上へ行くことにした。
そして屋上の手前に到着するとドアが開いている……
俺は恐る恐る、立ち入り禁止と書かれたその扉の向こうを覗くと、誰の姿もない。
代わりに声が聞こえる。
「アリアちゃーん、この写真、ネットにバラまいてやるから覚悟しててねー」
「そ、そんなことしたらあんた、本当にみんなに嫌われるわよ!」
「いいわよ、私は蒼君を手に入れたから今更学歴とか興味ないしー。でも、あなたは一生この恥ずかしい姿をみんなに見られながら過ごすの。どうかしら?」
「や、やめて……お、お願いだからそれだけは」
「じゃああの落書きの件、みんなに謝ってくれる?」
「……だってあれは本当のこと、じゃない」
どうやらゆきめと遠坂さんが話をしているようだ。
どこにいるんだと扉の向こうに行くと、ちょうど入り口の手前からは死角になる場所で、椅子に座った遠坂さんと、その前に立つゆきめを見つけた。
「あ、蒼君。もう部活終わったの?」
「あ、ああ……お前何してるんだ?」
「え、私?彼女が悪いことしたからお仕置き。ちなみにアリアちゃん、今ノーパンだよ」
「え……」
よく見ると、遠坂さんは椅子に座っているのではない。括りつけられている。
そして俺の方を見ると慌てふためいていた。
「こ、来ないで!私、私今履いてないの!」
「え、いや……」
スカートの中身は見えないが、俺はとっさに顔を逸らした。
そしてゆきめが続ける。
「さーて、そのスカートの中身はどうなってるか帰ったら蒼君にも見せていいかな?」
「ダメ!それだけはやめて!」
「どうしよっかなー。私、無実の罪を着せられたのになぁ」
「あ、謝るから!」
「ダメ。謝って済むなら警察はいらないっていうじゃん。あ、いいこと思いついた」
ゆきめは遠坂さんの方に行き、耳元で何か話をしていた。
すると遠坂さんは「そんなことできるわけないじゃない!」と抵抗していたが、ゆきめに睨まれてあっけなく陥落した様子だった。
「じゃあそれで許してあげる。私って寛容だなぁ」
スルスルと遠坂さんを縛る縄をほどくと、彼女はスカートを抑えながら一目散に逃げていった。
「さ、帰ろっか」
夕陽を背にゆきめが笑った。
俺はその姿を見て鳥肌が立っていた。
一緒に階段を降りる間、何も話すことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます