第3話 こんな仕打ち

 帰りの道のりは近くの大きな駅までは電車で行くことになった。見たことがあることがある人が居るようないないような。そんな感覚に襲われた。

 

「元請けの人の顔を覚えてないとかないよねぇ。声掛けられないと私達帰れないんだってよ?」

 

 私は誰かに試されているようだった。こんな私にこの期に及んでまだ何かさせたい様だ。監視して私を嘲笑っているのだろう。そして、元請けの顔を知らない私を笑っているのだ。


 だから電車の中で見たことあるような人に声をかけたのだ。

 

「◯◯社の人ですか?」

「えっ? なんですか? それは?」

 

 声をかけた人にはそう言われた。外れたんだ。そう思った私はまた違う人に声をかけた。その人も違う。

 

 上司は私のその様子を見ていて「やめなよ」といいながらも「ホントにわかんないの? 家族より仕事が大事だろ」と呟いていた。


 仕事を大事にしないとこういう仕打ちを受けるのか?それはとても疑問だった。監視までして何が楽しいのだろうか。こんな私をいたぶって。

 

 大きな駅に着いた。ここからは新幹線だが、迎えに来ていた自社の社員と合流した。そして、今後どうするかを話し合うことになった。

 

 私はもうこのプロジェクトには居られない。無理だと伝えた。その社員も了承はしてくれた。だが、この会話を聞かれていたようなのだ。

 

 場所を変えて詳しく自分のスキルを話して次の仕事へと話をしていた。


 私の向かいに座っていた男が何故か私の言ったことを復唱しているのだ。携帯に向かって話している。誰に向かって報告しているのかはわからない。だが、明らかにこちらをチラチラと確認している。


 スキルを報告し終えた後だ。次の仕事の話をしてきると遠くから怒号が聞こえたのだ。

 

「帰るんじゃない! 仕事しろ!」

 

 それは何度も繰り返し複数人による怒号が響きわたり、私を恐怖させた。その声の後には駅員さんから「やめなさい!」と怒られている声も聞こえる。

 

 恐怖した私は新幹線とは反対の戻る電車に乗ろうとしたのだが、自社の社員に引き摺られて新幹線乗り場へと連れていかれた。

 

 新幹線に乗るとそこでも隣の人が私の様子を誰かに報告しているのだ。一体何なのだ。何が目的なのかわからない。目を瞑って寝る事にした。

 

「◯◯さん、◯◯さんのせいで死んだらしいよ」

 

 私のせいで同僚が死んだと誰かが言っていたのだ。なんだそれは。私はすぐ前に乗っていた社員へと問い詰めた。


 同僚が死んだのかと聞くとそんな報告は受けていないと言う。嘘だろ。そうやってまた俺を騙すんだ。

 

 息が荒くなった私はデッキで呼吸困難に陥った。新幹線を降りなければいけない。そんな衝動に駆られた。


 すると、車掌さんが現れたのだ。個室へと案内されて横に寝かされた。そこでも「ここでおりろ」と聞こえてくる。緊急停止ボタンを押そうとした。社員に力ずくで抑え込まれる。


 私はここで降りないと行けないのだ。私が殺したなら殺人じゃないか。

 

 何度かそのやり取りをして地元に帰ってきた。


 引き摺られるようにして、会社へ連れて行かれる私は何が面白いのか顔が笑っていた。脳に何かが住み着いている。笑うような状況ではない。会社に戻るが、まともに話せる状態ではない。

 

「何があった?」

 

 と聞かれたが、私は何も答えることができなかった。


 黙っていると妻が迎えに来た。連れられた私は実家へと行き。実家でも監視されている感覚に陥っていた。妻に「誰を家に入れているの?」と聞いたが家族以外いないと返答が帰ってきた。

 

 母の用意してくれた手作りの食事はとても温かくて美味しそうだった。ビールまで用意してくれて嬉しかった。いざ食べようと思った時だった。

 

「あの人のために用意したご飯じゃないのにねぇ」

 

 母の声だった。耳を疑ったが確実にそう聞こえた。腹は減っていたが、食事を食べられなくなった。少し食べると「ご馳走様」と言って風呂に入った。布団に入って眠ったが起きた後も何者かはずっと私を探しているようだった。

 

 何者かがずっと「最低野郎」「クソ野郎」と言って私を責め続けている。そうだ。仕事をしなきゃ。そう思い起きると子供が遊んでいた。


 私はどうやって子供と遊んでいたのだったか。この子も私のことをダメな人間だと思うのだろうか。子供をジッ、と見つめてしまっていたようだ。子供は妻の後ろへと隠れた。

 

 仕事にいかないといけない。その衝動に駆られて私はスーツに着替えて外に出た。食事もとらずに。少し歩くと車が目の前に止まった。父だった。病院へと連れていかれるようだった。

 

「俺はおかしくないよ?」

 

 そうだ。皆がおかしいんだ。そう思っていた。病院では独特の薬の匂いが立ち込め、変にフレンドリーな先生が話を聞いてくれた。もう誰も信用できなかった。適当に受け答えしたら別の病院に入院になった。

 

 入院生活でも監視され、私の脳には私に余計なことを話す魔物が住み着いていたのだ。

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