第46話 おまけ 三

 ハンスはシトラのあまりの可愛さに鼻血を吹き出し、額をテーブルに打ち付けた。


 ――天使すぎて手が出せない! お爺様、俺はどうすればいいんですか! 慈愛の女神様! 俺はどうすればいいんですか!


 ハンスは自問自答を何度も行い、結局自分が羽織っていた黒色のローブをシトラの肩に掛けるだけしか出来なかった。




「スンスン……。あぁ、ハンスさんのにおいがしますぅ……。この匂い、好きですぅ」


「あぁ……。天使……」


 ハンスはシトラのつぶやきで心臓を八発は軽く撃ち抜かれ、床に倒れる。


 マインがすぐさま駆け寄り、頬をぺちぺちと叩きながら起こした。


 その日は午後一一時まで飲み、シトラはエナが眠っていた部屋に隔離された。


 ハンスとモクル、マイン、ルーナ、ミルはもっとも広い部屋に移動する。この時間になると客足が減るため、店主だけで店を回すことは可能だった。


 夜中、一室で四名の獣族の鳴き声が響き、人族の高笑いが混ざり合う。


 ハンス達が部屋に入ってから七時間後……。


「はぁ、はぁ、はぁ……。さすがに、大盛り料理、四人前は厳しかったか……」


 ハンスはベッドの上で息を切らし、気絶している四名を見る。皆、幸せそうな表情をしていた。厳しい世の中でもこの一瞬が幸せであってくれたらいいなと胸に秘める。


「ハンス……」


 骨抜きになっているモクルは小さな声で囁いた。


「ハンスさん……」


 うつ伏せになり、大きなお尻を震わせているマインは寝言を呟く。


「ハンス様ぁ……」


 眠っているミルは横向きになり、微笑みながら言う。


「ハンスさぁん……」


 うたた寝中のルーナは両手を広げ、まだまだ元気そうだ。


「皆、愛してるよ」


 ハンスは笑顔で嘘を言った。


 愛を囁かれた獣族達は皆微笑み、安らかに眠りにつく。


「さてと……。仕事仕事」


 ハンスはモクルの胸、マインのお尻、ミルの胸、ルーナの胸に金貨一枚を挟み、シーツを一名一名に掛けていく。

 長ズボンと長袖を着て革製の防具を身に着けた。左腰に剣を掛け、右腰にウエストポーチを付ける。ベルトをしっかりと締め、ズボンがずれ落ちないようにした。その後、部屋を出る。


「ローブはシトラのところか」


 ハンスはシトラがいる部屋の前にやって来た。鍵はハンスが持っており、鍵穴に鍵を差し込んで捻る。

 金具がガチャリと鳴り、鍵が開いた。持ち手を下げて引く。すると、部屋の中からシトラの良い匂いが広がった。

 すでに七時間も運動した後でフラフラなのだが下半身が熱い。一瞬で臨戦状態になってしまう。彼女の体臭に媚薬のような効果があるわけないのだが、あるようにしか思えない。


「うぅん……。はんすさぁん……。もぅ、のめませぇん……」


 シトラは防具と上着、短パンを脱いでおり、キャミソールと下着を身に着けているだけの状態になってベッドの上で眠っていた。

 平坦な胸は逆に魅惑に見え、可愛らしい丸っこいお尻が見える……。

 廊下に取り付けられたオレンジ色の照明が木製の板を反射し、部屋の中を照らす。


 反射した光はシトラの真っ白なショーツも照らし、彼女の純白は肌と相性抜群で、ほぼ全裸に見えた。

 太ももがふっくらと柔らかそうで挟まれたい。だが、あのルーナの剛腕に勝ってしまうほどの怪力を持っているので振れるのは危険だ。なら、目に焼き付けるしかない。毛が一切生えていない美脚がすらっと伸び、足の先すら綺麗で、あの足で踏まれていたのだと思うと興奮した。


「う、うぅん……」


 シトラが寝返りを打つと、モフモフの尻尾をこちらに向ける。尻尾が持ち上がり、くるんと丸まっているおかげでもっちもちのお尻が丸見えだ。

 天使が眠っている姿を見るなんて罰当たりだが、天罰をくらっても良いと腹をくくり、凝視する。鼻から止まることがない出血があるものの気にせず、お尻から背骨を舐めるように見つめ、ほっそりとしたくびれと寝返りの際に持ち上げられた腕のおかげで汗ばんだ脇が露になる。


 ハンスのローブはシトラの顔もとにあり、匂いを嗅いでは口角を軽く上げ、尻尾を横に振っている。


「だ、駄目だ……。こ、これ以上近づくことができない……」


 ハンスはフラフラになりながら、部屋を出て扉をすぐに閉める。背を扉に当て床に力なく座り込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……。トラス、ローブを容易してくれ……」


 ハンスは鼻血を止め、呟いた。


「かしこまりました」


 黒いローブを羽織った者は目の前の部屋から姿を現し、ささっと動いて黒いローブを差し出す。


「ありがとう」


 ハンスは黒いローブを羽織る。


「エナ、情報収集は順調かい?」


 ハンスは隣の部屋の方を見て言った。


「はい! もちろんですっ!」


 黒ローブを羽織った者は扉から出てきて尻尾を大きく振りながら、敬礼した。


「シトラの借金の件、どれくらいの情報が集まった?」


「シトラさんが育てられた教会を調べたところ、シラウス街の教会で間違いありません。シラウス街の教会はプロテスタントです。それにも拘わらず、シトラさんに借金を追わせている者が所属している教会は似非教会です」


「やっぱり、ただの詐欺じゃないか……」


「ですが、似非教会は正教会の紋章を持っているとわかりました。どうやら、正教会が一枚噛んでいると思われます」


「なるほどね……。糞親父が正教会に命令したか、はたまた正教会自ら行ったことか……。どちらにしろ、獣族に多額の借金を背負わせているのは金を巻き上げるためで間違いないな。親がいない孤児の獣族を狙って金を一生生み出し続けさせるなんて……許せねえな」


「ですが、ハンス様、教会に手を出すと言うことは教会の信者も敵に回すことになります」


 トラスはフードを取り、虎耳と頬の深い傷を露にさせて喋る。


「大丈夫。糞親父は似非教会なんてすぐ切り捨てる。不祥事や失敗を起こしたら助けるどころか、その似非教会に濡れ衣を着させて自分たちは悪くないと言い出すさ。それがあいつら糞のすることだよ。さて……、エナ。似非教会は何て名前?」


「ドリミア教会だそうです。彼らが言うに、正教会の傘下にある教会だそうです。後方に正教会が付いていると言う恐怖からしたがってしまった可能性が高いですね」


「ドリミア教会ね。ゴミの臭いがする。シトラ以外に被害にあっている獣族はいるの?」


「シラウス街ではシトラさんだけだと思われます。他の場所は調査できていません」


「はぁ……。プルウィウス王国が敵を送り込んできたって言うのに、自国内でお金をむしり取る害虫が湧き出ているとか……。ほんと、この国は大丈夫なのかな」


「大丈夫じゃないから、ハンス様が動いているんですよね。前国王もゴミは自ら排除すると言っておられましたし、掃除は王の使命だと言うのにも拘らず、魔法が使えないからと言う理由で職務を果たさない現国王はどうかしています」


 トラスは握り拳を作り、イライラを募らせていた。


「糞親父は魔法が使えないから掃除していないわけじゃない。面倒臭いからしていないだけだよ。ほんとお爺様の頑張りを無駄にするようなことしかしてない。糞親父のせいで何万人の獣族が苦しんでいると思っているんだ……」


 ハンスも手を握りしめ、怒りを覚える。


「エナ。ドリミア教会の根城はわかる?」


「現在調査中です。シラウス街のカトリック教会に協力してもらい、ドリミア教会幹部のにおいを追跡しています。今回はドジを踏んでいませんっ! 褒めてください!」


 エナは鼻息をふんっと吐き、堂々と言う。


「お、珍しい。じゃあ、おいで」


 ハンスは胡坐をして太ももを叩く。


「はいっ!」


 エナは尻尾を盛大に振り、ハンスに抱き着く。


「俺が予想していた座り方と違うんだけど?」


「えへへ。私、この状態で褒めてもらったら溶けちゃうんです。尻尾振り放題、ハンス様の匂い嗅ぎ放題。抱き着きまくれますっ!」


 エナはハンスに抱き着きながら匂いを嗅ぐ。


「むむむ……。たくさんの雌のにおいがします……」


 エナはハンスに身を擦りつけ、自分のにおいを残す。


「はぅ……。ハンス様と私のにおいが混ざり合ってますぅ……」


「まったく、半年前は辛そうな顔をしていたのに、今ではずいぶんと幸せそうな顔をするようになったね。でも、今の顔の方が俺は大好きだよ」


 ハンスはエナの両頬に手を当て、唇を奪った。エナは身を震わせ、尻尾の先まで痙攣し、快楽の底に落ちていく。


「ご、ごくり……」


 トラスはハンスとエナが淫らなキスをしている場面を眺め、内股を狭める。両手を握りしめ、奥歯を噛み締めているのか、表情がやや硬い。


 ハンスはエナの唇を奪いながら抱きしめ、左手を後頭部、右手をパンティーに潜り込ませたあと軽く愛撫する。それだけでエナは蕩け、伸びた。


「あぁ……。は、はんすさまぁ……。わたし、すごくしあわせぇ……ですぅ……」


「よかったよかった。頑張ったら頑張った分だけご褒美を上げるよ。失敗したらきつーいお仕置きだ。どれだけ辛い日々でも、俺が幸せにしてやる」


 ハンスは凛々しい表情で言う。


「は、はい! 頑張ります!」


 エナは下半身を濡らした状態で立ち上がり、満面の笑みで走り去っていった。だが、腰が抜けた状態だったので、ずっこけ、お尻を突き出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る