第31話 非道

「え、えっと、具体的にどこからその粘液が出てくるのか教えていただけると……」


「ここで実演してもいいですか? 俺の愛する妻が暴れ出したら止まりませんけど」


 ハンスはルーナの下半身に手を持って行き、看護師に聞く。看護師は完全に引いており、場を流すため、紙を渡してきた。診察を行うための書類に必要事項を記入なければいけないらしい。




「保険証の提示をしていただけますか」


「どうぞ」


 ハンスは偽造した保険証を差し出した。ただの看護師に保険証を見ただけで本人の品かどうかなどわからないため用意に信用を得た。書類も嘘しか書かず、やり過ごす。


「妊婦で下半身から大量の粘液が出てくると……。では、産婦人科がある八階の方へ向かってください」


 看護師はハンス達に最上階へと向かうよう言った。


 ――八階ね……。獣族を相手にする時は八階に集めるよう言われているのか。診察するように見せかけて多額の請求でもしてくるのか。はたまた、臓器を抜き取ろうとするのか。まあ、ルーナに刃や針が入るようならやってみてほしいけど。


「じゃあルーナ。八階に行こうか。今すぐ先生に見てもらおう」


「は、はい。もう、赤ちゃんが生まれちゃいそうでーす」


 ルーナは下手な演技をする。


「は、はは。お、お大事に」


 受付の看護師は心にもない発言をして、ハンス達を見送った。


 ハンスとルーナは昇降機に乗り八階に向かった。八階の待合室にいたのは獣族が多く、明らかに体調が悪そうだ。八階だけ明らかに衛生環境が悪い。なんなら、照明も暗く、お金をとことん掛けないようにしていた。


 産婦人科と適当に書かれた木板を見つけ、椅子に座って待っていた。


「オメコさん、診察室に入ってください」


 診察室の奥から男の声がした。


「は、はーい」


 ルーナは偽名に返事をして立ち上がる。ハンスも立ち上がり、中に入った。


 病室の中に入ると白衣姿の男が椅子に座っていた。あまりにもゴミ臭い。異臭が病室の中からぷんぷんする。


「どうぞ、どうぞ、そちらの席にお座りください」


 医者の皮を被ったゴミは汚らしい笑顔を浮かべ、ルーナを椅子に座らせた。


「旦那さんもどうぞ、椅子にお座りください」


 医者はハンスに話しかけ、椅子に誘導する。


「失礼します」


 ハンスは椅子に座り、微笑んだ。こちらもまたゴミみたいな笑顔だ。


「初めまして。ユエン・ローリタと言います。総合医療施設の理事長をやっております。オメコさんで間違いありませんか?」


「はい、オメコ・パッコリーナと言います。よろしくお願いします」


 ルーナは頭を深々と下げ、偽名で挨拶をした。その後、何ともゴミみたいな問診を行ったあと、ユエンは動きだす。


「旦那さん、今から企業秘密の治療をいたしますので、一度退室していただけますか」


「そうですか。わかりました」


 ハンスは立ち上がり、診察室の外に出る。待合室の椅子に座りながら待っていると。


「ポコチンさん、奥さんのことで大変重要なお話がございます。診察室にお入りください」


 ハンスはルーナがいない診察室に入り、おろおろしながら椅子に座る。


「あ、あの。ユエン先生。妻は。俺の愛する妻はいったいどこに行ったんですか?」


「オメコさんは大変危険な病に掛かっておりました。このままでは死の危険性があります。今すぐ緊急手術を行い、治療しなければ一〇〇パーセント亡くなるでしょう」


 ユエンは真剣な表情でゴミのような嘘をつく。あまりにも臭く、息をするのも辛かった。


「ええっ! そ、そんな! 妻は。俺の妻は大丈夫なんですか!」


「最善を尽くしますが……。手術の成功率は一パーセント未満になると思います。でも、安心してください。私はこのような手術を失敗したことは一度たりともありません」


「そ、そうなんですか。よかった。妻をよろしくお願いします」


 ハンスは頭を下げ言う。


「そうだ。ユエン先生の手術が成功するように、この品を使ってください」


 ハンスはウエストポーチから木製の容器を取り出し、ユエンに渡した。


「これは?」


「巷で噂の安眠草です。とてもとてもよく効いて、心を静める効果があるんですよ。ユエン先生も手術中に使ったら効果があると思います。一日以上効果が続いて女性と一緒に寝る時なんかも使うと効果抜群ですよ」


「ああー! これが最近噂に聞く安眠草ですか。こんな貴重な品をありがとうございます。私もこの品、欲しかったんですよ。奥さんの手術、絶対成功させますから、待合室で神に祈りながらお待ちください」


 ユエンは微笑みながら安眠草が入った木製の容器を握りしめ、下半身を無意識に触っていた。どうやら、話しを聞いただけでおっ立てているようだ。


「では、待合室でお待ちください」


 看護師が扉を開け、ハンスを誘導した。


「わかりました」


 ハンスは診察室から出て待合室の椅子に座らなかった。


「さてと。良い感じ良い感じー」


 ハンスは昇降機で一階に降りる。


 受付の看護師のもとに戻り、話しをする。


「すみません。小児科はどこですかね」


「小児科は地下一階ですよ」


 受付の看護師はハンスの顔を見ることなく、流しながら言う。


「ありがとうございます」


 ハンスは地下一階に到着し、排気口を見つけた。周りに誰もいないことを確認すると排気口を魔力で生み出したドライバーを使って外し、中に入る。

 匍匐前進で排気口を進んでいくと、あまりにも良い香りが漂って来た。迷路状に入り組んでいる排気口の中の答えを教えてくれるように、匂いを辿る。

 すると、天井に排気口が付いている部屋の上にやって来た。天井裏は案外動きやすい。音は経てず、常にずりずりと這うように動く。


「すー、はぁー、すー、はぁー。ああ、なんて良い香りなんだ。加えてこの絶景、たまらないな。あんな気持ち悪い熊女なんて手下に任せて俺は魅惑の甘い汁でも啜りますかー」


「ゆ、ユエン先生……。な、なにしてるの……。そ、そんなところ、汚いよ……」


「ぜーんぜん、汚くないよー。逆に綺麗すぎる。でも、病気を治すために必要なことだから、我慢してね。すぐ良くなるから」


 ユエンは五歳児程度の少女を手術台に乗せ、全裸の状態で両脚を広げさせていた。その姿を見るユエンはあまりにもゴミのような表情を浮かべていた。今すぐ掃除したいが、まだ手を出していないため、掃除出来ない。


 ――ユエンの周りに良い服を着た男が五名。まあ、どう考えても気持ち悪い少女性愛者貴族の手下か、臓器売買の相手か。まあ、ゴミには変わりない。掃除しないと。看護の服を着ている五人の男はユエンの手下か。


 ユエンは少女の性器を念入りに調べ、舐め、しゃぶり、害悪極まりない行為の数々を行った。

 その間、少女は泣き叫び、心の悲痛を訴える。

 だが、ユエンは治療だと言い張り、治療紛いな行為を続けた。


 少女が泣き叫ぶ力も無くなったころ、ユエンはズボンを脱ぎ、見た目は普通だが、印象が糞ほど汚れ切った男の象徴を露にした。


「はぁ、はぁ、はぁ。じゃあ、今から手術を開始するからね。すぐ終わるから、大人しくしているんだよ……」


 ユエンが本番に入ろうとした瞬間……。なにやら鈍い音が上の方から鳴った。


「ん。何か落ちたか? おい上の階を見てこい」


 ユエンは入口付近に立っていた男に言う。


「はっ! 了解しました」


 男の一人は扉を開け、外に出て行く。


「ああ、せっかく良い雰囲気だったのに。ちょっとした物音で治療が滞ってしまった。ごめんね、すぐに気持ちよくしてあげるからね」


 ユエンは人間の顔と思えない卑劣な笑顔を浮かべた。あまりにも狂気で、純粋な少女ですら恐怖を覚えている。


「う、うう……。ゆ、ユエン先生……。や、止めて……」


 ――そろそろ良いか。だが、このままじゃただの変態な男を掃除したに過ぎない。変態な男なんでこの世に何人もいるからな、まだ弱いか。少女の体を食うなんて貴族じゃよくある話しだしな。切り刻むところまで行ってやっと掃除を始められるか……。


 ハンスは飛び出したい気持ちをとどめた。一人の少女の悲痛の叫びを、奥歯を噛み締めることによって我慢し、独りでに動こうとする右手を左手で押さえた。


「うお、こりゃ凄い、最高だ。やっぱり子供は最高だぜー。おお、搾り取られる」


 ユエンが気持ちの悪い声を出したころ、少女は痛みと心の限界に達し、脳が感情を切った。

 そのせいで、光がともっていた瞳が真っ黒に染まっており、涙と鼻水出グチャグチャになった表情を曝していた。


 ハンスはあまりにも悲惨極まりない光景に、憎悪が湧く。噛み締めすぎた結果、内出血が起こり、口角から血が流れた。手の甲で血を拭い、息を整える。


「ふぅー、さてさて。綺麗な心と体を汚しまくって気分上々。早速ピンク色の綺麗な肝臓やら腎臓、魅惑の黒い瞳もいただこうかねー。血液もたくさんぬかせてもらうよー」


 ユエンは手下に用意させた医療器具の中からメスを手に取った。麻酔無しで治療を行う気なのか、少女の腹に真っ赤なアルコールを塗り、銀色に光るメスの穂先をつぷりを差し込む。

 その瞬間、ハンスは天井裏で飛んだ。そのまま、落ちる力を利用し、排気口を突き落とす。金属とタイルの床が衝突し、甲高い音が手術室に鳴り響いた。

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