第30話 リジンの素性

 森のダンジョンにいたシトラはハンスの顔を見た瞬間、目を鋭く尖らせ、言う。


「な、なにを言っているのかな……。俺は何も企んでないよー」


「嘘ですね。ハンスさんの顔が、何か楽しそうなんですもん……。私の勘が言っています。ハンスさん、絶対悪だくみしていますね」


「ひ、酷いなー。俺が悪だくみなんてするわけないじゃないか。そんなこと言ってないで、早く魔物を倒しに行こう!」


 ハンスはシトラをダンジョン内に押し込み、彼女の荷物持ちとなる。


 ――この時だけは純粋に楽しめるんだよな。




「あー、やっぱりシトラは可愛いなー。食べちゃいたいくらい可愛い!」


「ありがとうございます、ありがとうございます。何度も言われすぎて飽きちゃいました」


 シトラは尻尾を振りながら微笑む。


「俺、本気だから。シトラ、愛してるよ」


 ハンスはシトラの背後から抱き着き耳もとで呟く。


「ふっ!」


 シトラはハンスの股間に蹴りを入れ、ハンスを悶絶させる。


「よくもまあ、そんな軽口が叩けますね。反吐が出るのでやめてください。不愉快です」


「ほんと……、そう言うところも大好きだ……」


 シトラはハンスの口説きに全く落ちず、常に反発していた。


 ――まったく好みじゃないのに、好きなんだよな。訳がわからない。


 ハンスとシトラは反発し合いながら、ダンジョン内の魔物を倒し、魔石を手に入れてお金を稼いだ。


 ハンスはついでに安眠草を取り、準備を整える。


「じゃ、これが今日の報酬です。私は用事があるのでさっさと帰らせてもらいます。ハンスさん、危険な犯罪行動をしたら駄目ですからね!」


「う、うん」


 冒険者ギルドに到着したのは午後五時。ハンスはシトラから今日の報酬を貰い、頷く。彼女はさっさと帰ってしまった。


「ハンスさーん、むぎゅーっ」


 馬族の冒険者、マインが背後から抱き着いてきた。


「ハンス。今日は付き合ってくれるのよね」


 牛族のモクルはハンスの前から抱き着き、言う。


「ごめん、二人共。今日は用事が入っててさ。可愛がってあげられないだ」


「ハンスさんの用事なんて、他の女の子を侍らせてるだけなんじゃないんですかー」


 マインは頬を膨らましながら、頬擦りしてくる。


「そ、その女、私より乳がデカいのか……」


 モクルは胸を押し付けながら聞いてくる。


「いやー、今日はルーナと仕事の用事があってさ」


「る、ルーナさんじゃあ、仕方ないですね……」


 マインは潔く引き下がる。


「る、ルーナさん……。負けた……」


 モクルは乳の大きさに負け、ふさぎ込んでいた。


「二人共。今日から一ヶ月以内に俺を見かけなくなったら死んだと思ってくれていいからね。頑張って他の男を見つけて可愛がってもらうんだよ」


 ハンスはマインとモクルの頭を撫でる。すると、両者は立ち上がりハンスを揺さぶった。


「無理です無理です! もう、ハンスさんがいない生活なんて耐えられません!」


「そ、そうだぞ! お前がいなくなったら、私の鬱憤はどうしたらいいんだ!」


「二人共……。俺の死をそんなに悲しんでくれるんだね。嬉しいな」


「いや、それは全くありません。死ぬなら勝手に死んでください」


「ああ。ハンスが死んだところで悲しむやつはいないだろ」


「うえーん、ひどーい」


 ハンスは泣きまねを行い、マインとモクルを笑わせる。


「じゃあ、今日は仕事があるから、マインとモクルは別の男を誘ってみなよ」


「うう……。私達に優しくしてくれるのはハンスさんだけなのに……」


「私達は獣族だぞ。普通の男が了承してくれるとは思えん」


「なんでも挑戦だよ。良い相手にしておかないと失敗したら痛い目を見るから慎重にね」


 ハンスはマインとモクルの頭を撫で、冒険者ギルドを出て行く。そのまま酒場に向かった。


 酒場についた時間は午後五時三〇分。まだ人気は少なく、ルーナと店主しかない。


「ハンスさん。こんにちは。どうですか、私の服装。新しい服を下ろしてきました」


 ルーナはフリフリの白いワンピースを着ていた。ただ、巨体故にあまり似合っていない。胸とお尻が大きく無駄に太っているように見える。


「凄く可愛いよ。ルーナの雰囲気に合ってる」


「えへへー、ありがとうございます。ハンスさんなら褒めてくれるって思ってました」


「じゃあ、ルーナ、もっと可愛くなろうか」


 ハンスはテーブル席に置いてあったディナー用の白いシーツを手に取り、帯状に畳み、シトラの腰付近に巻き付ける。

 すると、胸の大きさとお尻の大きさが露になり、先ほどよりも綺麗に見えた。加えてひざ下まで伸びているスカートのすそを両方持ち上げ、帯に結び付ける。すると、前からは膝が隠れているのに、横を見ると下着がギリギリ見えないくらいまで露になった。


「は、ハンスさん。さすがに出し過ぎじゃ……」


 ルーナは股を閉じ、モジモジしていた。


「でも、その方が可愛いよ。ルーナのむっちりとした脚が露になってとても色っぽい」


「は、ハンスさんが言うなら……、このままでいいかなー」


 ルーナは微笑みながら抱き着いてくる。巨大な胸が顔に押し付けられ、窒息しそうになった。


「ぷはっ……。さてと……、店主、一杯貰おうかな」


 ハンスはカウンター席に座り、言う。


「はいよ」


 店主は緑色と黄色が混ざったようなお酒をグラスに入れ、伝票に乗せた後、差し出した。ハンスはお酒を飲み、伝票を見る。金貨一〇枚と書かれており、裏返した。


 『組織内名:リジン。本名:ユエン・ローリタ。年齢二八歳。

 仕事場:シラウス街の繁華街、八丁目八番地にある総合医療施設の理事長。

 素性:表の顔は誰にでもに優しく誠実そうな男。裏の顔は多くの臓器売買を行い、獣族などゴミ以下としか思っていない。加え、重度の少女性愛者であり、親御に病状が悪く、手術が必要などと嘘をつき、少女に卑猥な処置を行っている。処置後は殺害、又は臓器を回収し売りさばいている』


「なるほどなるほど。だいぶゴミだ。ここまで大きなゴミが立て続けに見つかるなんて運が良い。総合医療施設か……。よし、ルーナ。君は今から妊婦だ。わかったかい」


「了解しましたっ! つまるところ、私はハンスさんの妻と言うことですねっ!」


 ルーナは手を上げ、大きな声を出し、言った。


「まあ、そう言うことになるね。ルーナ、今日だけは俺の妻になってもらうよ。ふぅ、じゃあ行こうか。俺の子を産んでくれてありがとう。愛してるよ。ハニー」


 ハンスはルーナに抱き着き、椅子に座らせて背丈を低くさせた後、耳もとで囁く。ルーナは腰を抜かし、椅子から降りて膝立ちになった。


「こらこらルーナ。こんなんで腰を抜かしてちゃ駄目だよ。もっとラブラブ感を出さないと怪しまれる。もっと甘々な言葉をささやくつもりなのに、これじゃあお仕置きだね」


「はぅう……。しゅ、しゅみません……」


 ルーナはお尻を振りながらつぶやいた。


 ハンスは店主に金貨一〇枚を手渡したあと、ルーナの腕を持ちながら繁華街にある総合医療施設に向かう。


 道中から夫婦感を出すため、イチャツキながら歩いた。


「ハンスさんと街中を一緒に歩けるなんて夢みたいですー」


 ルーナはハンスと腕を組む。


「なにを言っているんだい。夫婦なんだから当たり前じゃないか」


「えへへー。ハンスさんと夫婦、良い響きですー」


 ハンスはルーナと共に総合医療施設前までやって来た。多くの人が使用しており、獣族もちらほらいる。だが、人族や獣族の数名は気が気ではない。


 前の方から黒いローブを羽織り、素顔はフードで見えないが、頬にガーゼが付いている者が歩いてきた。ハンスと肩がぶつかり、すれ違う。


「すみません」


 フードを被った者は頭を下げ、通りすぎた。


「…………」


 ハンスはズボンのポケットに手を突っ込み、折りたたまれた紙を取り出す。


 『エナが捕まりました。眠らされて八階の手術室に縛られています。このままだと、臓器を奪われると思います』


 紙に書かれていたのはエナの状態だった。


「なるほど。ルーナ、紙でも食べる?」


 ハンスはルーナの口もとに紙を差し出した。


「いただきまーす」


 ルーナはハンスの指ごと紙を口内に入れ、指をしゃぶりつくし、紙を腹に落とし込んだ。ハンスの指はルーナの唾液塗れ。


「すみません看護師さん、俺の愛してやまない妻からこんなドロドロの粘液が溢れ出してくるんです。何かの病気でしょうか。もう、心配で心配で仕方が無いので、先生に診てもらえませんか」


 ハンスは受付で涎塗れの左手を看護師さんに見せながら言う。


「え、えっと、具体的にどこからその粘液が出てくるのか教えていただけると……」


「ここで実演してもいいですか? 俺の愛する妻が暴れ出したら止まりませんけど」


 ハンスはルーナの下半身に手を持って行き、看護師に聞く。看護師は完全に引いており、場を流すため、紙を渡してきた。診察を行うための書類に必要事項を記入なければいけないらしい。

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