第19話 情報収集
男はリボルバーの引きがねを引き、ハンマーを動かし、薬莢の雷管に撃針を打ち込んだ。火薬が爆ぜる。その瞬間、男もろとも爆ぜた。弾は爆発の反動により、ハンスの頭上を通り、硬い天井に直撃していた。
「ああ……、肉塊になっちゃった。全く。空気が濃い場所で火なんか使うから」
男の下半身がどちゃりと音をたてながら倒れる。上半身は木端微塵に吹き飛び、原型が無かった。ハンスは服についた肉や血を見て萎える。
「は、ハンスさん……。いったい何がどうなって……」
シトラは目を見開き、今、何が起こっているのか理解できていない様子だった。
「俺の手品で男が立っていた位置の空気の濃度を高かめたんだ。その中で火を使ったから一気に燃えて爆ぜちゃったってわけ。わかるかな?」
「そ、その原理を聞いているわけではなくて……。どうしてここに来て人を殺しているのかと思って……」
「仕事……、趣味……、使命……、そんなところかな。でも、シトラが捕まっている時に助けに来れて良かった。人身売買なんてされていたら、もう元の生活には戻れないよ。助けられてよかった」
ハンスは鉄製の輪に複数の鍵が付けられた品を血だまりから見つけた。
檻に合う鍵を見つけ、檻の中に入れられた人族や獣族を解放していく。
「はいはい、皆さん。逃げてください。俺に出来るのはこれだけです」
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「この御恩は一生忘れません! 本当にありがとうございました!」
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます!」
ハンスは多くの者から感謝され、女性から熱いキスをいくつも受け取り、笑っていた。
「は、ハンスさん。ここで逃がしても、多くの者がまた捕まってしまいます」
「別に捕まっても殺されるわけじゃない。ちょっとした騒ぎがあったほうがしやすいこともあるよね。ほらほら、シトラも逃げた逃げた。今度からは相手の力量をしっかりと見計らわないと駄目だよ」
ハンスはシトラが入っている檻に入り、華奢な腕をもって立ち上がらせる。そのまま、背中を押し、檻から出した。
「ありがとうございました。でも、例え相手が酷いことをしていたとしても、ハンスさんに裁く権利なんてありませんよね。人を殺したら犯罪ですよ」
「シトラ、なんて健気な子……。やっぱり尊いなー。んー、可愛い!」
ハンスはシトラを抱きしめ体を撫でまくった。
「ちょ、ベタベタ触らないでください。助けてくれたことには感謝しますが、人を殺したことに関しては怒ってますよ! 犯罪者を捕まえて騎士団や政府に引き渡すのが先決です」
「俺は人の形をしたゴミを排除しただけだよ。シトラは捕まっている時に、俺がゴミを排除している場面をたまたま見てしまったと言うだけ。気にせずに逃げたらいい。あ、靴裏に血を付着させないように移動した方が良いよ。あとあと見つかったら厄介だからね。ついたら水で洗いながらしてダンジョンにでも捨てておけばいい」
「ハンスさん、あなたはいったい何者なんですか。魔物もスライムしか倒せないあなたが、人族を八名も瞬殺するなんて……。訳がわかりませんよ。ちゃんと説明してください!」
シトラは思ったよりも正義感が強く、ハンスが着ている服の襟首を掴み、体を振るってくる。
「ちょっとちょっと体が震えるから、止めてー。俺はただの人間だよ」
ハンスは体を振られ、目を回しながら呟いた。
「ただの人間が屈強で拳銃すら持っている相手に怪我無く倒せるとか、ありえません!」
シトラは吠え、ただ一人ハンスと共に部屋に残っていた。他の獣族や人間は逃げ出したのに、彼女だけハンスを叱りつけながら怒っている。
「うう、シトラは俺のことをしっかりと叱るほど思ってくれているんだね。ありがとう」
「悪いことをしたら怒るのが当たり前じゃないですか。私は助けてくれた恩人だからって容赦なく怒りますっ! 今回は助けてくれたことに免じて見なかったことにしてあげますが、もう人殺しなんて悪いことは止めてください。このままじゃハンスさんはいつか捕まっちゃいますよ」
シトラは襟首から手を放し、腕を組んで言う。
「俺は捕まるようなへまはしないよ。安心して」
「って! まだ人殺しする気満々じゃないですかっ!」
「俺は人殺しじゃなくてゴミを掃除してるだけだってば。ゴミを排除して綺麗な街にするのが趣味であり、仕事であり、使命なの。わかった?」
「全然わかりませんっ!」
シトラは両手を振り上げながら怒る。
「まあ、別にわかってもらわなくてもいいけど、この世界には多くのゴミがいることを知ってほしい。弱者と強者がいてゴミと聖者がいる」
ハンスはシトラをお姫様抱っこで部屋から連れ出し、階段で一階に移動。
「さあさあ、逃げた逃げたっ!」
ハンスはシトラを窓から投げ捨てる。
「ちょっ! ハンスさんっ!」
シトラは草むらに落ち、立ち上がろうとする。ハンスはシトラが戻ってくる前に窓を閉める。
「さてと。もう少し掃除しますか」
ハンスは伸びをした後、昇降機に乗る。
『愛の女神』内で働いている嬢や利用している客は獣族や人族が逃げていても何ら不信に思っておらず、金と乳にしか興味を示していなかった。
ただ、昇降機に乗っていると黒服の男が乗って来た。嬢に仕事をさせている黒服の男達は何かしら違和感を覚えているらしく、上司に連絡を取ろうとしていた。
「先輩っ、先輩っ! 返事をしてくださいっ!」
黒服の男は連絡を取り合える魔石が搭載された魔道具に話し掛け、情報を得ようとしていた。
「あのー、すみません。ちょっと良いですか?」
ハンスは迷わず話し掛ける。
「あ、はい。どうしましたか?」
黒服の男は作り笑顔を見せ、受け応える。
「リジンについて教えてください」
ハンスは笑顔で言う。
「……くっ!」
黒服の男は右腰に付けたリボルバーを握ろうと手を引く。
「させないよっ!」
ハンスは黒服の男の右肘を反対方向に折り、使えなくさせる。左手に持っている魔道具も叩きつけて破壊。
「さ、リジンについて教えてください。教えてくれたら何もしませんから」
「な、何も知らない。本当に知らないっ!」
男は首を振り、答える。
「んー」
ハンスはネックレスを持ち、宝石が青色から赤色に変わる。
「あなたはリジンに付いて知ってますよね。嘘をついたら穴二つって言葉知ってますか?」
ハンスは黒服の男が持っていたリボルバーを持ち、安全器を下げた後、男の右肩と左脚を撃った。
「ぐあああああああああっ!」
男は叫び、逃げようと床を這う。
「あなたは何人の悲鳴を聞いてきましたか?」
「た、頼む。見逃してくれ。家族がいるんだ。俺が養わないといけないんだ」
「……だからなんですか? 俺はそんなこと知ったことじゃありません。じゃあ、最後に好機をあげましょう。あなたは人や獣族を一〇〇人以上殺しましたか?」
「こ、殺してない。そんなことするわけないだろ……」
男は頭を振りながら言う。
ハンスが持つネックレスの宝石が青色から赤色に光った。
「ああー、なんで嘘つくんですか。助かる好機だったのに……」
「し、仕方なかったんだ。命令されて仕方なく殺したんだ。り、リジンさんについて話すから助けてくれ……」
「ま、聞いてからにしましょうか」
ハンスはリボルバーのハンマーを引き、引きがねに指を掛けた状態で話しを聞く。
「り、リジンさんは裏社会で人身売買と臓器売買、麻薬の密輸もしている男だ。教会や領主とも繋がってるらしいが、嘘かほんとかは知らない」
「それだけですか?」
「あ、ああ。それだけた。い、言ったんだから助けてくれるよな……」
「まあ、いいでしょう。見逃してあげます」
ハンスは立ち上がり、リボルバーを男の右手に握りらせた。
「ま、待ってくれ。止血を……」
「見逃してあげるので、後はおひとりでどうぞー。俺は忙しいんで先に行きますね」
「ちょ、ま、まってくれ……。だ、だれか……、だれか………、さ、さむぃ……」
ハンスは黒服の男を昇降機から人気の少ない階に出す。そのまま、昇降機で最上階まで向かった。最上階の扉の前に、黒服の男が二名立っており、ハンスは近づいていく。
「おい、ここは立ち入り禁止だ。さっさと下に降りろ」
黒服の男が言う。
「すみません、迷ってしまいましたー。どうしたら、良いですかー」
ハンスは辺りを見渡しながら黒服の男に言う。
「まったく、こっちも忙しいんだ。昇降機で下の階に降りればいい」
「そんなー、ここのお店の人は皆親切って言う話しだったのにお客に対する態度が悪いんじゃないですかー。そんな接客じゃ、もう、二度ときませんからねっ!」
「ちっ……、面倒臭い客だ……」
一名の黒服の男がハンスに近づいていく。
「いやー、すみません。自分、方向音痴でしてー」
ハンスは黒服の後ろに立った。そのまま、ホルスターからリボルバーを抜き取る。
「うわー、本物の銃だ。かっこいいー。俺もほしいなー」
「なっ! お前、何をするっ!」
男はハンスからリボルバーを奪い取ろうと手を伸ばす。
「ここをこうやって」
ハンスは安全器を下げ、リボルバーの引きがねに指を掛けたあと男の眉間に銃口を向ける。
「まっ!」
男が声をあげる前にハンスは引き金を引き、鉛弾を一発放った。そのまま、引きがねをひたまま、銃口を扉の前にいるもう一人の男に向け、ハンマを左手で叩くように動かす。
すると、引きがねがずっと引かれていた影響で回転弾倉が動き、鉛弾がついている薬莢に撃針が打ち込まれる。二発目の銃声が鳴ったのは一発目の銃声を撃った瞬間だった。
誰が銃声を聞いても一発しか撃ったと思えないほどの早打ちを見せる。
扉の前にいた男の眉間も綺麗に打ち抜かれ、ハンスは二名を一瞬で射殺した。
「まったく。店の中で発砲するなと言っただろ……。つっ!」
ドルトは一発の銃声にしか聞かなかったため、黒服の男が一般客を射殺したと思ったのか扉から出てきた。
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