第17話 『愛の女神』

「あー、いつぞやのお兄さん。どうしたんですかー。今日も潤滑剤を売り回っているんですか?」


 いつぞやの人族の嬢が話しかけてきた。



「今日はこの『愛の女神』店で潤滑剤の押し売りをしてみようかなと思ったんですよ。店長さんっていますか?」


「店長ですか? いると思いますけど……、どこにいるかはわからないんですよねー。あ、でもでも、私が買った潤滑剤の話しが上層部で出てたって上司から聞きました。上司に聞けばわかるかもー」


 嬢はハンスの体に抱き着き、放漫な乳を押し付ける。


「いくらですか?」


 ハンスは人族の嬢に聞く。


「九○分で金貨五枚。挿入したら、金貨一〇枚。私を満足させてくれたらー、上司に取りもって、あ、げ、るー」


 人族の嬢はハンスの耳元で囁いた。


「面白いですね。お願いしましょうか。まず、軽く挨拶から」


 ハンスは嬢に口づけをした。もちろんいきなりの深いキス。人族の嬢の口内を完全に把握し、犯していく。


「んんんんっ!」


 嬢は下半身を震わせ、腰を抜かせた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。な、なにすんのよ……。こ、こんなの……、ありえない」


「安くしてくれたら……、何度も飛ばしてあげますよ。他の男じゃ絶対に味わえない九○分にしたくないですか? 俺なら、あなたを世界一幸せに出来ます」


「…………きゅ、九○分、金貨二枚。挿入ありで、金貨五枚……」


「ふっ、素直な女性は好きですよ。さあ、行きましょうか」


 ハンスは嬢の腰に手を回し、ゴミ溜の巣へと入っていく。


 ハンスと嬢が『愛の女神』に入ってから九○分が経った。


 嬢はハンスに何度も愛され、あまりの心地よさに気絶。


 ハンスはベッドの上で気絶している嬢の頭を撫でていた。


「やっぱり、人族の嬢とすると相手の方が持たないよな。俺を楽しませてくれる体力満載の獣族は誰がなんと言おうと最高!」


 ハンスは体を拭き、服を着る。嬢の体をシーツで隠し、嬢の意識が戻るまで待った。


「あ、あぁ……、あぁぁ……、じ、じぬぅ……、こ、こんなの始めてぇ……」


「あ、目が覚めましたね。えっと、金貨五枚ですよね。お支払いします」


 ハンスは嬢の手に金貨五枚を渡し、しっかりと握らせる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ちょ、ちょっと待ってて……、上司を呼んでくる……」


 人族の嬢は体を震わせながらシーツを見に纏い、部屋を出て行く。八分後、黒い服を着たハゲ頭の強面を連れてきた。ガタイがよく、元傭兵と言っても過言じゃない。


「お客様、どうかなさいましたか」


 強面の男はハンスに頭を下げ、話しかけた。


「俺、潤滑剤って言う商品を売ってるんですけど、ぜひ、このお店でも使ってほしいと思いまして、店長さんに直談判しに来ました」


「潤滑剤……。今、巷で噂になっている品ですか?」


「巷で噂になっているかは知りませんけど、効果は保証しますよ。一本金貨一枚でどんな絶倫男でもあっという間に夢の世界に飛ばせます」


「な……、金貨一本って……」


 嬢は口を出そうとした。ハンスは自身の口に指を持って行くと嬢は口をつぐむ。すでに嬢はハンスの手ごまだった。


「なるほど。とりあえず、店長に実際に会っていただきましょうか。ついて来てください」


 黒服の男はハンスに背を向け、部屋を出る。ハンスは木製の箱を持ち、後をついて行った。


「お、お客様、また、ぜひ来てくださいね。今度はもっと安くてもいいですから」


「女性は自身の体を安売りするものじゃないですよ」


 ハンスは嬢にキスをして頭を撫でる。


「はわわ……」


 嬢は瞳をとろとろに溶かし、身を震わせていた。


 ハンスは微笑みながら、男性の後ろを歩いていく。吹き抜けの昇降機に乗り、鉄製の柵が締まる。滑車の音が鳴り、上階へと向かった。


 最上階の一八階に到着。シラウス街を一望できるほどの高さで、大きなガラス窓が大量に使われている部屋に招き入れられる。

 ドルトは金を相当持っていると思われた。


 ――金貨一枚の品なんてそこらへんに落ちているゴミとしか思ってないかもしれないな。


「社長。会議で上がっていた潤滑剤を売っている者を連れてきました」


「ご苦労。君が巷で噂になっている潤滑剤を売っている者か?」


 高そうな革製の椅子に座り、葉巻を吸っている男が話し掛けてきた。


 ――服装は黒い紳士服。金色の短髪。釣り目で眉間に皴がより、だいぶ老けて見えるが三八歳なんだよな。身長はざっと一八〇センチメートルってところか。武器は剣に拳銃(リボルバー)。銃火器を使うってことは剣に自信が無いんだな。


「はい。初めまして、ハンス・バレンシュタインと言います。今日はこの街一番の風俗店である『愛の女神』にて私が解発した商品を買ってもらおうと思い、惨状いたしました」


「噂では天にも昇るほど心地よくなれるらしいが、本当に効果があるのか?」


「社長自らがお試しになられたらいいかと」


「それもそうだな。一本いくらだ」


「金貨一枚です」


 ハンスはボッタクリの値段を提示する。


「そうか。まあ、構わん」


 ドルトはポケットに手を入れ、金貨一枚を取り出すと、投げる。


 ハンスは右手で金貨一枚を手に取り、木箱から木製の容器をドルトの前に置かれている高級そうな仕事机に置く。


 ドルトは木製の容器を手に取り、立ち上がった。


「部屋に嬢を一人よこせ。出来るだけ下手な奴にしろ。その方が効果がわかりやすい」


「了解しました」


 黒服の男は頭を下げ、部屋を出た後、数秒後に人族の嬢を連れ、ドルトが入った部屋に移動させる。


「あのー、俺はどうしたらいいですかー」


「社長が出てくるまで待っていてください」


 黒服の男は部屋の前に立ち護衛の役割を担う。


「あのあのー、獣族の嬢っていますかね? 最近、買い占めてるようですけど、綺麗な子がいたら紹介してください」


 ハンスは黒服の男に声を掛ける。


「当店では獣族の嬢はおりません。なにやら質の悪い噂を聞いたようですが、当店が獣族に予算を裂いたりしませんよ」


 黒服の男は嘘をついた。後ろめたい事実を隠している。


「そうですか。残念です。でも、俺はどうしても獣族の可愛い女の子とイチャイチャしたいんですよ。他の風俗店から買った人族の嬢と獣族の居場所を教えてください」


「な、何のことかさっぱり……。私は経営に関して深く拘わっておりませんので……」


「わかりました。知らないと言うのなら、仕方ありません。別の人に聞きましょう」


 ハンスは黒服の前から退き、部屋の中にいる黒服の男達に話しを聞いてくる。


「すみません。他の風俗店で買った嬢の居場所を教えてください」


「し、知りません。私はただの護衛ですので……」


「本当に知らないんですか? もし知っていて嘘をついているのなら神は容赦しませんよ」


「か、神に誓って知らないです……」


 黒服の男は声を震わせ、体を硬直させていた。


 ハンスは八名ほどいる黒服の男全員に話し掛けた。


「そうですか、じゃあ、俺の思い違いだったようですね。仕事中にすみません。変なことを聞いてしまって」


 ハンスはドルトの机の前に戻る。


 ――全員、獣族の細かな毛が紳士服に付いていた。毛の一本も見逃さない俺の眼、やっぱり冴えてるな。人族の毛と獣族の毛は絶妙に違うんだよ。とりあえず、獣族と何か拘わりがあるとわかった。あとは居場所だな。どうやって知ろうか。


 ドルトが部屋に入り三〇分が経った。部屋の奥から甘い声が響き渡る。鳴りやんだと思ったら、ドルトが服を着直しながら部屋から出てきた。


「ふぅ……。なかなかの良品だな。是非とも買わせてもらおう。毎日一〇〇本でも一〇〇〇本でも持って来てもらおうか。その都度金は払おう。現に今ある品全て買わせてもらう」


 ドルトは革製の椅子に座り、葉巻を吸いながら言う。


「わかりました。では、九九本になりますから、金貨九九枚です」


 ハンスは木製の箱から木製の容器を九九本取り出し、机の上に置いた。


「中金貨九枚と金貨九枚だ」


 ドルトは銅貨でも出すように革袋から金貨を取り出す。


「ありがとうございます。助かります」


 ハンスは金額を貰い、頭を下げた。


「社長。噂で聞いたのですが、人身売買をしていると言う話しは本当ですか?」


「誰から聞いた」


 ドルトはリボルバーをホルスターから引き抜き、ハンスの眉間に向ける。


「すみません。俺も一枚嚙んでまして……」


 —―とりあえずほんとっぽい嘘をついてと。


「リジンの指金か……」


 ドルトは知らない名前を口にした。


「はい。そうです。この品もリジン様から名を受けて社長の店に降ろすよう言われました」


「そうか。なら納得の品だな。で、お前はこれを売りつけに来ただけか?」


「そんなまさか。仲介者の私が、ただお金儲けのためだけに来るわけないじゃないですか。商品を受け取りに来ました」


「……なら、付いてこい」


 ドルトは部屋を出て行く。

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