第16話 ゴミは全て掃除しないとすぐに溜まる

「なんの話しをしているのか、全くわからないわね……。まあ、気にしないけど。にしても、ここのケーキ美味しすぎない? 酒場でしょ。なんでケーキがこんなに美味しいの?」


「ほんとですよ。このショートケーキもお菓子屋さんで買うより美味しいです」


 モクルとマインはケーキをパクパク食べながら言った。


「店長の趣味がお菓子作りなんですよ。なので、本格的なお菓子が楽しめちゃうんです。店長! ケーキが美味しいそうです! 良かったですね!」


 ルーナは大声で言う。



「そんな大声で言わなくても聞こえとる」


 店主はグラスを拭きながら答えた。


「銅貨五枚でこんなに美味しいケーキが食べられるのなら、毎日来ちゃいますよ」


 マインはショートケーキを食べきり、暖かい紅茶を飲む。


「ぷはー、幸せ。他の料理もおいしそうだし、モクル、今度からもっと来ようね」


「そうだな。獣族の店員さんがいてくれるだけで親近感がわくし、また来たくなった」


「二人とも、ルーナに酷い対応をされたのに、懐が広いんだね」


「さっきは私も悪かったし、恩人を罵倒されたら誰だって嫌がる。それくらいわかるさ」


「ルーナさんのハンスさんへの気持ちが本物なのは見て取れるので、逆にあんなにはっきり言えてカッコいいなって思いました。私なんて、友達が殴られてても助けに入れなかった弱虫ですし……」


 マインは視線を下げ、呟く。以前の喧嘩を引きずっているようだ。


「是非是非、また来てください。大歓迎ですよ。って言いたいですけど、ハンスさんは私のものですからね」


 ルーナは再度抱き着いて来て、言う。


「る、ルーナ。俺は誰の者でもないよ。あんまり束縛が強いと面倒だからさ、お互い気楽に生きようよ」


 ハンスはルーナの腕を叩き、締め付けを弱くするよう言う。


「うう、ハンスさんが獣族にモテモテなのはわかりますけど、私の前に連れてくることないじゃないですか。私はハンスさんが大好きなんですから、束縛しちゃいますよ」


「熊族は案外愛情深いからさ懐かれると大変なんだよね。二人は彼氏にしない方が良いよ」


「できないから!」


「できませんよ!」


 モクルとマインは同時に言った。


「マイン、もう行こう。こんな女たらしと長話しても意味が無い」


 モクルは立ち上がる。


「ちょ、モクル。まだお金払ってないよ」


 マインはモクルの手を掴み、止めた。


「いいよいいよ。ここは俺が払うから。二人は気にしないで」


「お前に借りなんて作りたくないからな。私は自分で払わせてもらう」


 モクルは銀貨一枚をテーブルに置き、お店の外に出て言った。


「もう、素直じゃないだから! ハンスさん、ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。今回の話しはまた折り入ってお願いします」


 マインは頭をペコペコ下げ、モクルがテーブルに置いた銀貨一枚を持ち、外に出ていく。


「むむむ……、あの馬族の子はハンスさんをちゃんと立ててくれましたね。良い子です」


 ルーナはハンスを隣の椅子に座らせ、机の上の品を片付けた後カウンターに持って行く。


「ハンス、金欠じゃなくなったんだな」


 店主はグラスを磨きながら言う。


「まあ、ぼちぼちだよ。さて、楽しみな方からにするか、面倒な方からにするか」


 ハンスは考えた末、手を上げて言う。


「ルーナ、裏メニュー!」


「はーい! わかりました!」


 ルーナは床が揺れるほど力強く走り、ハンスのもとに来る。


「ハンスさん、今日の裏メニューは大盛りですけど、大丈夫ですか?」


「問題ないよ。逆に、今夜は沢山動く予定だから、大盛りの方がありがたいかな」


 ハンスはルーナに抱き着き、安心感と恐怖を覚える。彼女が本気を出せば、一人の人間なんて肉塊に出来るのだ。

 生半可な打撃が入らない肉体、斬撃すらも骨は立ちきれず、急所の攻撃以外ほぼ無傷。そんな化け物みたいな種族だが、彼女の心は女の子なのだ。男に甘えたくなる時くらいあるだろう。


「じゃあ、裏メニューを美味しくいただこうかな」


 ハンスは満面の笑みを浮かべ、ルーナに言った。


「は、はい。たくさん、たくさん召し上がってください!」


 ハンスとルーナはお店の別室へと向かう。


 ハンスとルーナは四時間ベッドの上で過ごした。

 汗と体液でどろどろになったルーナは体に抱き着き、口づけをしてくる。


 ハンスもキスを返し、ドロドロの深いキスをした。


「はぁ、はぁ、はぁ。ハンス様の子供、欲しいです……。私を孕ませてください。私、ハンス様の赤ちゃんだったら何人でも生みますから。だから、どこにも行かないでください」


 ルーナはハンスに抱き着きながら息を荒げ、呟いた。


「ルーナ、ありがとう。そう言ってくれてすごく嬉しい。だからと言って孕ませるわけにはいかない。それはどちらも幸せにはなれない選択だ。俺はずっとこの街にいるわけじゃないし、たまたまいるだけに過ぎない。いずれ別の街に旅建つ時が来る。だから、ルーナに重荷を背負わせる気は無いよ」


「うう……。わかってます……。わかってますけど……」


「俺はルーナの気持ちだけで十分だよ。ルーナは俺よりも相応しい相手を見つけるんだ。幸せはそう簡単に見つからないかもしれないけど、探せばあるよ」


「ハンス様はずるいです……。女の子たちをメロメロにさせる癖に、ハンス様にとってはお遊びでしかない……。ま、まあ、ハンス様が相手をしてくれるおかげで発情せずにいられるので、感謝してもしきれませんけど……」


「ルーナが同種族の相手を見つけて幸せになれるよう、俺は祈ってる。この街にいる間、俺はルーナの相手をする。俺がいる間は暴走せずにすむから、安心して」


「うう、ハンス様がどこかに行っちゃうなんて考えただけで委縮してしまいます。私、また人を傷つけちゃいそうで怖いんです。ずっとずっと怯えながら生きていくんですかね……」


「ルーナなら大丈夫だよ。自分なら大丈夫って何度も言い聞かせるんだ。怖いと思ったら自分に大丈夫と唱える。いい?」


「わかっています……。ハンス様に教えてもらったことですし、そのおかげで耐えられてきましたから、私は大丈夫です。うう……」


 ルーナは大丈夫と言ったあとに涙を浮かべる。


「もう……。全然大丈夫じゃないよ。戦闘力はピカイチなのに、心が乙女なんだから」


 ハンスはルーナの頭を撫でながら優しく抱き着く。


「ハンス様、ハンス様……。大好きですぅーっ」


 ルーナはハンスを思いっきり抱きしめる。


「うぐぐぐっ、ぐるしいい……」


 ハンスはスイカ級のおっぱいに顔を埋め、窒息寸前までルーナに抱き枕代わりにされた。ハンスはブラジャーを付けたルーナの胸の谷間に金貨一枚を入れる。


「ハンスさん、逆に私がお金を払いたいくらいなんですけど……」


「なにを言ってるの。ルーナは体を売ってるんだよ。俺がお金を払うのは当然でしょ。いつもかつかつの生活をしてると思うし、たまには肉でも食べたいでしょ。鬱憤を溜めたら爆発しちゃうから、たまには発散しないと駄目だからね」


「鬱憤は今の時間で全部晴れちゃってるんですけど……。でも、ありがとうございます」


 ルーナは頭を下げ、感謝した。ハンスは彼女の頭を撫で、愛でる。


 午後八時頃、ハンスとルーナは部屋を出て食堂に戻る。すでに、お客さんが増え始めており、ルーナはハンスに口づけしたのち、仕事に取り掛かった。


 ハンスが持ってきた木製の箱は店主がカウンター裏に片付けており、彼が手招きしている。


「店主、いつものをお願いします」


 ハンスは店主の前のカウンター席に座る。


「はいよ」


 店主は透明すぎるグラスに二個の氷と緑色の液体を入れ、コップ敷(コースター)代わりの厚紙の上に乗せ、差し出してくる。


 ハンスはグラスを持ち、グイッと一気に飲み干した。その後、コースターを手に取り、裏を見る。


 『愛の女神』の社長名『ドルト・ルドーラ』年齢:三八歳。性別:男。性格:金のためなら何でもする。残虐非道。最近は人身売買を行っている模様。借金まみれの嬢を実験や臓器提供に無理やり協力させ、大金を巻き上げている。敵の数八○名以上。被害者多数。


「……なるほど。だいぶゴミだ。ふふっ、楽しくなって来たね」


「なにが楽しいんだか。無駄に手を出したら死ぬだけだぞ」


「別に死ぬ気は無いけど、生かす気も無いので、ちょっと掃除してきます」


「はぁ……、お前に死なれたらルーナの手が負えなくなる。社長だけにしておけよ」


「ゴミって全部掃除しないとすぐに溜まっちゃうので綺麗さっぱり片付けてきますね」


 ハンスは金貨三枚を厚紙の上に置き、席を立った。表情は軽く、店主から木製の箱を受け取る。


「じゃあ、ルーナ。また来るよ」


「はい、お待ちしております!」


 ルーナは頭をペコリと下げ、ハンスを見送った。


 ハンスは酒場を出て風俗街へと脚を運ぶ。


 今回は一目散に『愛の女神』店へと向かった。他の店とはあまりにも風格が違い、ド派手でそこら中に魔石の照明が使われていた。周りのお店など子供の遊びと言わんばかりに輝いている。人族の綺麗な女性が大量に呼子をしており、大量の男が愛巣の中に連れ込まれる。


「あー、いつぞやのお兄さん。どうしたんですかー。今日も潤滑剤を売り回っているんですか?」


 いつぞやの人族の嬢が話しかけてきた。

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