第5話 喧嘩を鎮圧して巻き上げたお金で遊ぶ

 ハンスは人族の男に聞いた。


「なんでだと? こいつの顔がムカついてな。殴りたいから殴っているだけだ」


「なんて潔い回答……。じゃあ、なんで殴られているんですか? やり返せばいいのに」


「殴ったら、その倍で返される……。暴力はしちゃいけないと教わった……」


 殴られている獣族の男性は呟いた。


「なるほどなるほど。清らかな心を持っている方ですね」


「おい、ガキ……。騎士団にチクったらただじゃおかねえぞ」


 柄が悪い男がハンスのもとに近寄り、メンチを切る。獣族の男を掴んでいた二名の男もハンスの背後に回り、三包囲を囲まれた。


「別にチクったりしません。お金をくれれば黙っていますよ」


 ハンスは右手を差し出し、笑顔で言った。


「あ? ふざけるな!」


 柄が悪い男はハンス目掛けて鉄拳を打ち込む。


 ハンスは男の右手頸を右手で掴み、左手で敵の肘を関節の限界以上まで押し込み、折った。


「ぐあああああああああっつ!」


 柄が悪い男の右ひじが変な方向に曲がり、地面に転げた。


「あ、すみません。手癖が悪くて」


「おいっ! 何しやがった!」


 後方の男はハンスに蹴り掛かる。脚が最高速度になる前に腰で受け止め、右ひじで挟み、蹴りの威力を利用して膝の関節を外す。


「ぐあああああああああっつ!」


 男の右膝が本来絶対に曲がらない方向に折れ曲がり、激痛によって地面に倒れ込んだ。


「な、なにしやがったんだ、てめえ……」


 もう一人の男は後方にずり下がり、冷や汗だらだらの状態でハンスに話しかける。


「別に何もしてませんよ。ただただ正当防衛をしただけです。ほらほら、金貨一枚で手を打ちますよ」


「く、くっそ!」


 男は胸もとから金貨一枚を地面に投げ捨て、逃走した。


「収穫収穫。殴りかかってきた男達二名は拘束して騎士団に出せば懸賞金が貰えるかも」


 僕は金貨一枚を拾い、痛みをこらえている男達の手足をウエストポーチから取り出した縄で縛る。


「た、頼む。俺達も金貨を払うから、見逃してくれ」


「あー、そうですか。別に構いませんよ」


 ハンスは縄で縛るのを止め、男達の財布から金貨を一枚取り出し、その場を去ろうとする。


「あ、あの。この人たちを野放しにしていたら、倍にして返されますよ……」


 獣族の男性は立ち上がり、ハンスに話かけた。


「殺しに来たら殺し返すだけなんで」


 ハンスはにっこりと笑い獣族の男性と地面に転げる二名の男を身震いさせた。


 ハンスは裏路地から本通りに出て金貨が三枚手に入り、にこにこ笑顔が止まらない。


「これで、金貨五枚と銀貨一枚になった。ははっー、やった! やった! ミルちゃん、会いに行くからねーっ!」


 ハンスは銀貨一枚を使い、パンと水を買い、腹ごしらえをした後、川で体を洗い、汗や血の匂いを落とす。


 乾いた布で体を拭き、歯磨きをした後、風俗街へとルンルン気分で向かった。


 多くの風俗店がある中、ハンスはどの店にも目もくれず、風俗街の端の端にある、おんぼろのお店にやってくる。

 獣族の嬢のみが働いている獣族専門店だ。風俗街の九割九分が人族の店で、残りの一分が獣族や亜族の店だ。

 人族以外の店に需要が無いらしい。そのため、多くの獣族の娘が数店舗しかない獣族専門店で働いている。理由は色々あるが……、一番大きいのは人族が人族以外嫌いなことが多いと言うことだ。僕は大好きなんだけどなー。

 風俗街の中でも暴力事件が数件起こり、ハンスは笑いながら鎮圧し、金貨を巻き上げた。

 ハンスのお気に入りのお店『獣好き屋』に到着するころには金貨の枚数が一〇枚にまで増えていた。土木工事や冒険者をするよりも喧嘩を止めた方が儲かるのではと考える。


 午後九時『獣好き屋』に入店。


「こんばんわー」


「ハンスさん、今日も来てくださったんですか。誠にありがとうございます」


 黒服を着た獣族の店長は頭を何度も下げ、感謝してくる。


「そりゃあ、来ますよー。このお店で働いている嬢たちに辛い思いをさせるわけにはいきません。倒産したら、皆、路頭に迷ってしまいますからね」


「うう……、ハンスさん……。ありがとうございます、ありがとうございます」


 店長は頭を何度も下げ、感謝してきた。


「じゃあ、ミルちゃんをご指名お願いしまーす」


「承りました。では一号室でお待ちください」


 店長は頭を下げ、鍵を渡してきた。


「わかりました」


 ハンスは店長から鍵を受け取り、一号室に移動する。

 部屋の中に入り、ベッドに座る。五分ほど待っていると、扉が叩かれた。


「空いてるよ」


「失礼しまーす。あ、ハンス様。今日も来てくれたんですね。ミル、嬉しい」


 猫族のミルは素肌が多く見える下着を付けており、大きな胸をたゆませながら駆けてくる。そのまま、ハンスに飛びつき、頬にキスをした。


「ハンス様、今日もたくさんたくさん可愛がってくださいね」


「もちろん。今日もたくさんたくさん可愛がってあげるからね」


 ハンスはミルに口づけをしながら胸に手をあて、全て露出させる。


 ベッドがギシギシと軋み、猫の甘い声が部屋の中を何度も何度も反響する。

 ハンスが『獣好き屋』に訪れてあっという間に八時間が過ぎた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ミル、ありがとう。すごく楽しかったよ」


「はぁ、はぁ、はぁ……。わ、私の方こそ、ずっと気持ちよくて……、最高でした」


 ハンスとミルは抱き合い、互いの熱を交換する。三〇分の休憩をとった後、ハンスはミルにキスをしてベッドを降りた。


「ああ……。ハンス様、仕事にもう行っちゃうんですか。私、寂しいですー」


 ミルはベッドの上でペタンコ座りをしながら両手を内股に挟む。露出したメロン級の乳房を両腕の側面で押してながら強調し、ハンスに話かけた。


「ミル、そんな可愛く誘っても、これ以上延長料金を払ったりしないよ」


「ぶー、けちんぼー」


「はは、ごめんね。払いたいのはやまやまだけど、仕事をしないと生活がカツカツなんだ」


「絶対風俗に通ってるからですよね」


「そうだねー。ミルに俺の生活費の大半を吸い取られちゃったからなー」


 ハンスはサンドワームの皮で作られた避妊具の先を縛り、ゴミ箱に捨てる。水が張られた桶に布を入れ、しっかりと水気を絞った後、汗まみれの体を拭く。その後、服を着て防具をつけた。


「はぁー、またハンス様がいない半日を過ごさないといけないのかー。憂鬱だなー」


 ミルはハンスの寝ていた枕を抱きしめ、鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、ふっくらモチモチのお尻を突き出しながら尻尾を振る。


「ミルは昼間も働いているんだよね。夜、寝ないで動きまくって大丈夫なの?」


「もう、それをハンス様が言いますかー。私は昼間に人があまり来ない居酒屋で仕事をしながらうたた寝をしているので大丈夫です。逆に、ハンス様は大丈夫なんですか?」


「まあね。体力にだけはちょっとばかし自信があるんだ」


「ほんと、体力お化けですよ。あーぁ。私も研修期間が終わったら、ハンス様の相手を毎回できなくなっちゃうのかー。やだなぁー」


 ミルは枕を抱きしめながら猫のようにベッドの上でゴロゴロと転がり、呟く。


「仕方ないよ。僕は若手の嬢を育てる代わりに割安で遊ばせてもらっているんだ。ミルも、今の技術があれば、もっと給料が良い風俗店に移動できるよ。たくさん仕事をして家族を養うんでしょ。自分の感情は切り捨てないとね」


「うう……。ハンス様は女の子に愛を囁いてこれでもかってメロメロにさせた後、簡単にポイ捨てしちゃうから、女の敵なんて巷では言われているんですよ……」


「はは、簡単にポイ捨てなんてしてないよ。と言うか、昨日も獣族の冒険者さんに言われた。事情が事情だから、仕方ないんだけどな」


「ほんと、ハンス様は女たらしですね。ま、好きになっちゃった方が悪いんですけどね」


 ミルはハンスに枕を投げつけた。ハンスは手で枕を防ぎ、ミルを見る。だが、ベッドの上にはおらず、真下に迫っていた。ミルはハンスに抱き着き、営業のキスをする。


「ハンス様、行ってらっしゃい」


「これは無料かな?」


 ハンスは苦笑いをしながら、ミルに聞く。


「もう、そんなことを言ったら卿が冷めちゃいますよ。ほら、行った行った!」


 ミルはハンスの背中を押し、部屋の外に押し出した。


「はいはい。行ってきます」


 ハンスは着崩れたまま部屋を出て、歩きながら服装を正す。

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