二 ふたりぼっち
ーーーーーー!
ーーーーーー!!
シャラシャララララ……
妖精同士が互いにかち合って鳴らす柔らかな音とは比べようもない振動に、風鈴からパタタと飛び出したエイラは、そっと窓を覗いた。
カーテンが閉まっていて様子が伺えない部屋。だが確かに聞こえた大迫力の調べに興味を持った。エイラはコンコンと窓を叩く。
もちろん小さな音だから、泣きじゃくる少年が気づくはずも無く。
気になるエイラは家の周囲を飛び回る。
なんだろう? 今の音。
何が、どうやったらあんな音になるのかしら?
妖精とは興味の塊。
換気のために開けてあっただろう高い小窓を見つけ、薄暗い家の中に入っていく。音の出所は二階の通りに面した部屋。
⁂⁂⁂ ⁂⁂⁂ ⁂⁂⁂ ⁂⁂⁂ ⁂⁂⁂ ⁂⁂⁂
( はは、情け無い。こんな時に吹ける曲がファンファーレしかないなんて。)
うずくまって一人、
「こんにちは、ヒト! わたしエイラよ! ねぇさっきの曲はなあに?」
急に声が聞こえ、いや、半透明の小さな物体が目の前に現れ、鼻息で飛びそうな距離で声を発したことに面食らったキトは、ズザッと壁に後退りする。身体の底から湧いて出てきた嗚咽がピタと止まった。
「…………」
「聞こえてる、よね? さっきの音、何? すごい迫力! 吠えたの?
アクアブルーの瞳をキラと輝かせ、白銀の柔らかな髪をしならせてくるくると飛び回る妖精に、キトはそっと手の平を差し出した。
「吠えてなんて……。あの、君は……?」
「エイラって言ったよ。雪の妖精。知らないの? じゃあ今知って! ねぇヒト、さっきの音、出して!」
「……、ヒトじゃなくて、キト。僕はキトだ」
グシュグシュに乱れた顔を袖で拭って、不相応に金に輝いているトランペットに手を伸ばす。
「……、トランペット。さっきのは……。うん、本当はこんな曲なんだ」
すくと立ち上がってふぅと大きく吐き出した息。目線を合わせてパタタと飛ぶエイラに頬を緩め、銀のマウスピースを丁寧にはめ直す。
『ほらほら、顔を上げて吹かなきゃ。キトだけ、元気がなさそうで心配しちゃった』
ーー初めてのコンクールであの人が言った言葉が蘇る。
『嬉しかったわ。一つ一つの音は聴き分けられないけど、ちゃんと音が出てるって伝わった。上達したのねぇ』
ーー翌年のコンクールは頑張って金賞を獲ったのに、上位大会には出られなかったっけ。
いつだって、僕のことを見ていてくれたのに。くだらないと気を引き締め、どうでもいいと心に蓋をし。僕は意識してベル(先端)を上げた。
♪ タータタターターター
タータタターターター………
有名なゲームのファンファーレ。いざ冒険に行かん、そんな士気を盛り立てるあの音楽。
楽譜をもらった時の喜び、初めて吹き切った時の達成感、そして……コンクールで金賞を手にした時の歓声、抱き合った友の固い肩。
ツツと頬を流れる熱いものも、ググと締め上がる喉も、絞り取られる腹力も、今のキトには関係がなかった。
ただ無心に、渾身の力で吹き切ったキトは乱れた呼吸そのままに、エイラに悲しい笑顔を見せてベッドにうつ伏せた。
粉雪のような星々がほのかに光を
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