第29話 復讐

 遠くに車が停まった。

「ここだっ! 来い!」男が叫ぶと、車から男が一人降りて岸壁に向かって走り出し姿を消した。

「待てっ!」数人が追いかけた。

忠人が引き金を引く。

追いかけていた男の一人の頭が爆発した。

傍を走っていた男らが辺りをきょきょろ見回す。

もう一人、頭が爆発した。

残り二人は腰が引けて銃を構えるが何処に撃って良いのか分からずぐるぐる回っている。

今度は加奈子の前に立つ男に照準を合わせた。

時刻は十時になったばかりだった。

その男が、「何処だ! 出てこい……」言いかけた時、頭が爆発した。

加奈子に銃を向けていた二人が銃を何処にいるのか分からない相手に向けて闇雲に発泡した。

「さっきの男を追えっ!」誰かが叫ぶとまた数人が岸壁の方へ走り出した。

レーザー銃の威力を中より弱めに変えて加奈子の隣の男を撃つ。

悲鳴を上げることもなく顔からアスファルトの道に倒れ込んだ。

「あきら!」もう一人が叫び滅茶苦茶に発泡しだした。

突然左肩に激痛が走った。

「うっ」呻いて屋根から滑り落ちそうになる。

爪先を屋根に立てて左手で屋根の頂きに掴まる。激痛で手がしびれる。

それでも角度のある屋根ではないので救われた。

ゆっくり天辺まで這って倉庫の方を覗く。

加奈子がうずくまっている。

銃のパワーを戻す。

男が二人加奈子に向かって何かを叫びながら近づいて行く。

一人ひとり狙って引き金を引く。

左手が思うように使えないので頭を外したが肩が吹っ飛び腕が落ちた。

「ぎゃっ」悲鳴をあげて肩を押さえて転がる。

もうひとりは映画のように腹にぽっかり穴が空いた。そいつは驚いたように大きく口を開いて自分の腹を見るように下を向いたまま頭からアスファルトに突っ込んだ。

駆け付けた男の頭が爆発してあたりに血液と脳漿を撒き散らせた。

その端が加奈子の足に掛かって甲高い悲鳴が夜空に木霊して加奈子は倒れ込んだ。

――気を失ったならその方が良い……

担ぐのは面倒だし重いから奴らは置いてゆくだろうと思った。

マイクロバスが二つ目の倉庫の陰からやってきた。

C三番の前で停まると銃を持ったヤクザが一人二人と降りてくる。

威力を最大にしてバスの前面を撃つ。

大音響を轟かせてバスが爆発し火柱は倉庫の屋根より高く立ち上った。バスも数メートル飛び上がって逆さに落ちた。

「ぎゃーっ!」、「うわーっ」複数の悲鳴と怒号が重なった。

そのバスから三人目は降りて来なかった。

人型の炎がばたりと倒れるのが見えた。

倉庫前に並んでいる五台の乗用車のボンネットに照準を合わせて順に撃つ。

五台とも爆発して炎上する。

炎が辺りを明るくして男の姿が良く見える。

銃のパワーを戻して生き残りの組員を一人ひとり頭や胸を狙った。

男らは殆ど悲鳴を上げない。上げる余裕もなく死んでいった。

その時モーターボートのエンジン音が暗闇の倉庫街に響き渡った。

直後にパンパンパン……何発もの拳銃の発射音がエンジン音を追いかけた。

エンジン音はその音を振り切って、忠人の左側から後ろの方へ進んで且つ遠のいて行った。

「本牧埠頭へ回れーっ」誰かが怒鳴った。

忠人はひとりほくそ笑んだ。

――計画通りだ。俺がボートで逃げたと思ってやがる……

忠人は梯子を下りてロープを垂らし右手一本で降りようとした。

が、体重を支え切れずに落ちた。

「痛てててっ……」腰を強かに打ってしまった。

我慢して腰を屈めて車まで走る。

後ろから「こら待て。お前だれだ!」叫ぶ声がした。まだ近くにいたんだ……もう恐怖心は無くなっていた。

忠人の方が圧倒的に強いと言う自信に満ちていた。

銃を腰に構えゆっくり振向いて撃った。

もう何十発撃ったことか、慣れてきて目標を外さなくなってきた。

声を掛けただろう男が小さく「ぎゃ」と呻いて崩れた。

ライトを点けずに車で橋を渡った。

奴らの待ち伏せは無かった。

渡り切ってから小路にはいり一旦停まって警察に電話を入れた。

「南本牧埠頭で銃撃戦やってる。女性が縛られて人質みたいだ。急いで助けて」

それだけ言って切った。

橋の見える位置でパトカーを待った。

その間に奴らが来たら全員撃ち殺す積りだった。

複数のパトカーが赤色灯を点けサイレンを鳴らしながら橋を渡ってゆく。

忠人はスナック「シカゴ」のちかママに電話を入れた。

「悪い、また例の病院に電話しといてくれないか、田中が行くって」

「えっ」一瞬誰か分からなかったのか沈黙があって「あぁ田中芳次郎さんだっけ?」

「あぁ頼む。一時間くらいで着く。頼む。怪我したんだ」

「わかった。すぐ言っとく」

 

「またあんたか、また灰塚とやったのか?」医者はそう言ってにやりとする。

そして忠仁の肩を診て

「なんだ。こんな傷で俺を起したのか。かすり傷じゃねぇか」医者が傷を診た瞬間毒を吐いた。

「えっ銃で撃たれたんだ。貫通してるってことか?」

「ははは、掠っただけだ。もう良いぞ」

消毒してバンソコを貼って、傷口をバシッと叩いた。

「いってぇ。怪我人に何すんだ」

「おーお、そんだけ元気ありゃ、傷もすぐ消える。ま、大事にな。五万に負けといてやる」

「え~これだけでそんなに取るのか? 前は数千円だった」

「口止め料だ」医者は偉そうに胸を張った。

そう言われては返せず、頷いて一枚多く金を払う。

「じゃ、世話になりました」

「殊勝な心掛けだ。来世にはきっと良いことがあるぞ」ふざけたことを言う医者だと思い眼を飛ばす。

「おや、お前さんヤクザだったのか? てっきり一般人かと思ってたぞ」

またバカにされた。

「ふん」鼻で笑ってそこを出た。

 

 

 市森はほかの刑事らと横浜に走った。横浜署にも南本牧埠頭へ急行するよう出動を要請した。

機動隊も動いているはずだった。

現場に着くと、そこら中に死体が転がっていた。

走っていると、警官が女性を介抱しているのが目に飛び込んできた。

駆け付ける。

「あなた、窪内加奈子さんですか?」と声を掛けた。

女性が市森を見て「あぁ探偵さんのとこで会った刑事さん。……いち・・・?」記憶が余りないらしいので「市森です」と名乗った。

「済みません。あの~忠人はいました?」

「えっ彼ここに来てたんですか?」

「えぇ私この人達に誘拐されて、忠人にここに来いって……」

「まだ発見されていません。生存者は五名しかいないんです。死んでるのは十五名と後バスの中に焼けた遺体もあるようなんで人数はっきりしないんですが……こいつら灰塚晃成会の組員なんですね?」

「良く分かんないです」

そこへ柴井が来て「植松忠人はモーターボートで沖へ逃げたと組員が言ってる」

「あっそうしたら忠人は生きてるんですね!」女性は目をキラキラと涙を輝かせて市森を見詰める。

「えぇきっとそうですよ」

「私が誘拐されなければ忠人自首するって言ってくれてたのに……こんな事になっちゃって……ねぇ刑事さん、忠人を助けて下さい! 自首する積りなんですから、この人達から守ってやって……」

女性は頬に幾本もの筋を作って市森にすがる。

「わかりました。出来るだけのことをします。彼の行先に心当たりは?」

女性はかぶりを振って「わかりません」小声で呟いた。

そしてケータイを取り出した。

 

 現場にいた数名の組員は誘拐、銃刀法違反などで緊急逮捕され警官に押されて護送車に乗せられて行った。

組員に相手は誰だと訊くと植松だ、と答えたと言う。

市森に署から電話がはいり、本庁からの回答がようやく来て米軍基地から盗まれたのは、レーザー銃だと判明したという。そしてその性能について資料が送られてきて、それによれば頭を爆破することはたやすいことらしい。

但し極秘扱いだと言う。

 

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