第2話 レーザー銃

 あっという間に初七日が過ぎて、忠人は一人ぽっちで夕方の河川敷から川の流れをぼんやり見ていた。

河川敷公園がすぐ傍に合ってブランコもある。

明希葉が幼稚園へ行ってた頃よく二人でブランコに乗って、喉が渇いたらベンチに腰掛けてジュース飲んでおやつを食べた思い出の場所でもあった。

――あぁ、もう明希葉とここで遊べないんだなぁ……

そんな事を思い出していたら、ガタガタとやたらうるさいフォードアの小型トラックが、猛スピードで砂埃を巻き上げながら穴だらけの川沿いの道を爆走していった。

車が激しく弾んで段ボール箱を河川敷に落して行った。

箱は斜面を転がり川の方へ落ちて行った。

数拍の間があってその車の後を追うように米軍の車やパトカーが疾走して行った。

――なんだ? 何か事件でもあったのかなぁ……

どのくらい時間が経っただろう、そろそろ帰ろうかと思い立ち上がると川べりにあの段ボール箱が転がったままになっていた。

あたりには誰もいなかったので忠人がその箱を拾って開けてみると、拳銃のようだ。発泡スチールに銃身とスコープとグリップと充電器? に分かれて収められているが、銃口に穴が空いていなかったので玩具かと思って箱と発泡スチールを途中で捨て中身と説明書だけを持ち帰った。

それをパソコン用バッグにしまっておいた。

 

 数日後、見るからにヤクザっぽい男が数人河川敷の草地一帯を棒でかき分けながら何かを探しているようだった。

忠人の傍に来て

「おぉ坊主、この辺で段ボール箱見んかったか?」

どすの利いた喧嘩でも仕掛けているのかと思えるほど威圧的で尖った訊き方をされた。

「いえ、知りません」

怖かったが正直には言えなかった。

あれがそんなに大事なものとも思えなかった。

「がき! お前家近くか?」

また、脅しのような喋りにびびったが

「はい、十分もかからないところに住んでます」

「この辺で段ボール箱見つけたら預かっとけ、そのうちまたこの辺に来るからその時言えな! 警察なんかに届けたら、ただじゃ済まんからな覚えとけ!」

怒鳴るようにそう言って男は立ち去った。

「あれは、ヤクザが使う何かだったのかな?」

忠人は声には出さず心の中で呟いた。

 

 別の日、今度は警察官とかアメリカ人とかがヤクザと同じように草地一帯を棒でかき分けながら何かを探している。

そして同じように

「きみ、この辺りでこれくらいの段ボール箱を見なかったかい」

手で大きさを示しながら警官の制服を着た警官だろう人に訊かれた。

かぶりを振って「いえ、知りません」とだけ言った。

「この前、ヤクザみたいな人も探してましたよ」と言いたかったが後々怖いのでその言葉は飲み込んだ。

警官が探すほど大事なものなのかと思い、家に帰ってあの説明書を読んでみようと思った。

 

 説明書は見事にすべて英語だ。

中学二年生の忠人にはまったく読めなかった。小学校から英語の授業はあったのに真面目でなかったと後悔もした。

仕方なく、ネットの英和辞書を見ながら単語の意味を調べていくと

「レーザー」、「銃」、「照準器」、……という意味の単語が書かれていた。

想像だが、レイザー銃とそれに装着する照準器だと解釈した。ゲームによく出てくる奴だ。

もっともゲームの中ではライフル大の銃身にスコープを付けるのだが、拾ったやつは全然短い。

拳銃にスコープを付ける? いままでそんなのはゲームの中には無かった。

あとはどう繋げるか図解を見ながら刺したりねじったしてみると案外簡単に組み立てができた。

充電器が有ったのでコンセントに差し込んでみると、グリップの小さいランプが赤い点滅を始めた。

充電中なのだろう。普通だと緑に変わると充電完了だ。

説明書を見ていくと確かに、「RED」とか「GREEN」とかの文字があるから間違いないだろう。

それまで放って置くことにした。

――なんか変? 拳銃にスコープが付いてる。射程距離が長いのか? ……

説明書を見ると「1000~2000」とか「1000」と書かれた数字はある。

千から二千メートルと感で解釈した。一キロから二キロが射程距離だとすればスコープが必要なのも頷ける。間違いない。

――はずだ……

 

 夜になってもまだ点滅は続いている。

夕食はカップの麺に冷凍の焼きおにぎりを三つ食べた。

テレビを見ているうちに寝てしまった。

まだ学校へ行ってないから起きる時間は気にしなくても良かった。

週末まで叔母さんも来ないからのんびりできる。

ただ、工場では従業員が動いているから、叔父さんとか従業員のおばさんやおじさん達が、たまに部屋まで来るので何時までも寝てはいられない。 

十時になってベッドから抜け出して銃を見るとランプが緑色になっていた。

「よし、これで試射できる」

ひとりほくそ笑んだ。

 

 こうなると時間の流は急に遅くなる。

昼はコンビニへ行って羊羹パンとコーヒー牛乳を買いおやつにから揚げとポテトを買った。

そして時間つぶしに河川敷でごろごろしながらポテトを食べていると、またあのヤクザがきた。

「こら、ぼんず! 箱無かったか?」

相変わらず乱暴な聞き方をするおじさんだと思いながらも怖いので「はい」とだけ答えた。

おじさんは、「ふん」と鼻で応じて去って行った。

「レーザー銃で頭ぶっ飛ばしてやるから、覚えてろ!」

忠人はにやつく顔を無理矢理不機嫌な顔に変えて心の中で呟いた。

 

真夏の夜はなかなか来ない。

何時まで経っても夕方のように空が赤い。

しびれを切らせて午後七時半、レーザー銃をパソコン用バッグに入れ外へ出た。

試射のターゲットは昼間から決めていた。

河川敷でも比較的背丈の高い草の一叢の中に分け入って自分の姿を隠し、公園に置かれているベンチの背もたれを狙う。

距離は二百メートルあるだろうか。

スコープを覗いてターゲットを十字の印に合わせる。右手の人差し指にゆっくり力を入れる。

ゲームと一緒だ。

ピッと小さな音がしたのと同時にベンチの背もたれがバギッと大きな音を立てて壊れた。

急いで銃をバッグに隠して辺りを窺う。

……静かに流れる川の音が聞こえる。

遠くに車の呻く声。

ベンチに近づいて壊れた部分を見ると焦げた臭いがして幅三十センチほど板が無くなっていた。

きっと吹き飛ばされたのだろう。結構な威力だ。

レーザーのパワーは中程度になっているから最強にしたら、きっと家でも破壊出来るんじゃないかと思うとちょっとばかりわくわくし自分が強くなったような気がした。

 

 翌日の夜は対岸にある公園のベンチを狙ってパワー最強で撃ってみた。そのパワーは、元の姿が想像できないほどベンチを破壊し、さらに背後にあった木の幹をも爆破し炎で包み込んだ、それほど強烈なものだった。

距離は五百メートルはあったはず。

銃の緑のランプはそのまま緑。

この威力で何回撃てるのだろうと思い、家に帰ってもう一度説明書を見る。

色々のアラビア数字が書かれていて、「1000」と書かれている部分があって、恐らく強さを中間にしたときの射撃可能回数だろうと都合よく解釈した。

――だと、想像するに最強で五百回、弱だと二千回か? ……

強盗犯を見つけたら真ん中の強さでも頭を吹き飛ばすくらいの力がありそうだからそれで復讐してやる、とこの時自分の頭の中に初めて「復讐」という二文字が強く湧き上がってきた。

その為には、学校へも行って土日も外を歩いて犯人捜しをしようと思うようになった。

 

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