タイムパラドックス

 時間旅行のお話の鉄板ネタ。

 タイムパラドックス。

 直訳すると『時間的な逆説』とかになってしまいますが、要するに時間移動(主に過去)した際に、原因と結果が整合性が取れず、矛盾が発生することを指します。


 分かりやすい喩えとしては、ある人が過去に行って、自分の親を自分が生まれる前に殺してしまった場合、その時点で自分は存在しないはずで、しかし存在しないはずの人間がその親を殺したからこそ存在しなくなった……というわけのわからない状態になるというやつですね。

 逆説的ですが、この説明が不可能な故に、過去への時間移動は少なくとも観測範囲内では実現してないという説もどっかで見たことがあります。


 時間移動系のSFでは、この問題は常について回る問題でもあります。

 この手の解決策として提示される多いパターンの一つがパラレルワールドになるというもの。

 私がこれを最初に知ったのは(というか『パラレルワールド』という言葉自体を知ったのは)ドラえもんの大長編の五作目『のび太の魔界大冒険』でした。

 あの話ではもしもボックスでのび太が「もし魔法があったら」という世界を実現。しかしその結果、魔王まで生まれる世界になってしまったのを、もしもボックスで元に戻そうとして、戻した場合に魔王はどうなるのか、という説明でドラミちゃんがしたのが『パラレルワールド』という説明でした。


 つまり世界が分岐してしまうという設定。

 先ほどの親殺しの例で言えば、親が死んでいるという歴史と親が生きている歴史が分岐してしまう。

 そして親を殺した自分が帰れる世界は親が生きている世界。

 よって、過去に親は死んでいない。歴史は変わっていないのです。

 つまり、過去に干渉しても未来は変えられない、という設定が多いです。

 致命的な影響がない限りは変えられるという話もありますが。


 ちなみにタイムマシンが最も一般的に出てくる日本の代表作としてはドラえもんだと思いますが、あれは実はドラえもんが過去に行くことで、未来を変えてはいるんですよね。

 そして、最初に来たドラえもんがいた未来だと、のび太はジャイ子と結婚してて、その後色々大変な人生を歩む。それを変えるためにドラえもんが過去に来たというのが最初でした。

 が、普通に考えればこれは確実に過去改変。

 あの世界でいえばタイムパトロールに逮捕されること確実なはずなのですが……なぜか未来が変わっても何も起きてません。

 変わった未来ではのび太はしずかちゃんと結婚出来てるし。


 まあこの辺りはあまり突っ込んだら負けなので置いておきましょう(笑)

 多分あの改変は未来に影響を与えないものだったんだろう、うん。

 実際、のび太の孫のセワシはおばあちゃんがジャイ子だろうがしずかちゃんだろうが誕生してる。つまりのび太が二人のどちらと結婚しても、影響はなかったということ。言い換えれば、最初のルートではおそらくしずかちゃんは結婚出来てない、または子供がいないのであれば、確かに影響はほとんどないんですよね。


 それはともかく、この手の過去改変モノに多いのは、未来から来た人は『自分たちがいた未来は絶望だが、希望に繋がる未来を残したい』となるストーリー。

 これは非常に多いでしょう。


 他に時間改変系で有名になった作品といえば、シュタインズ・ゲートでしょう。

 あのゲームでの『世界線』という言葉は、一般用語化しましたからねぇ。

 あれも典型的なパラレルワールド方式ですね。

 ただ、あれは主人公の主観による『観測』が絶対なので、ある意味ではパラレルワールドともいえないのですが。


 あと多いのが、いわゆる『時間の修正能力』が大きいとする話。

 例えば上記例でいえば、親を殺すという行為自体が絶対に成功しない、あるいは何かしらで蘇生してしまい、未来は絶対に(大きくは)変えられない、というパターン。

 私がぱっと思いつくのはGS美神です。

 横島が死んだ時に美神の能力が発動して少しだけ過去に戻り、死亡した未来を改変したことがあります。まあ、その時点ですでに過去の時間に飛んでいた話でしたが。

 しかしのちに、時間移動能力はそれほど強力なものではなく、人の運命は改変できないと説明されていました。横島もおそらく何かしらの条件で蘇生できただろうと。

 もっとも、あの漫画の世界はこれとパラレルワールド方式両方採用してましたが。


 このパターンを採用する場合は、最初の例でいえば、たとえ自分の親を殺したとしても、なぜか生き返る、または近い血筋から子孫が続く等。

 どうやっても歴史を変えることができないので、こちらはこちらで『未来を変える』ことは出来ません。

 なので、歴史(時間)の修正力パターンはあまり使われることがないギミックだと思います。

 あるとすると、修正力が適用されない範囲で歴史を変える感じの話でしょうか。

 あと実際、なぜそんなことが起きるのか、という物理的な説明が難しい。


 なお、現在は物理的には時間遡行は不可能ではないらしいですが、科学者の共通見解として『未来は変わらない』というこっちのパターンが定説らしいです。

 言い換えるなら、『未来は変えられない』だそうで。


 やや特殊な時間旅行系の話だと、ロバート・A・ハインラインが1956年に発表した『夏への扉』という話がありましたね。

 あれは、過去には飛ぶことはできるのですが、未来には飛べなくて、未来に移動するのには冷凍睡眠を使うという話でした。

 ちょっと細かいところは覚えてはいないのですが、上手いこと時間問題と物語を組み合わせてた傑作だったと思います。

 というか、今から70年も前とはいえ、あれだけ時間旅行の話を当時書いたのはすごいとしか言いようがない。

 なお、表紙のネコが可愛いのです(笑)


 時間系の話は正直、詰めていくとどうやってもタイムパラドックス、つまり矛盾を発生させてしまいます。

 多分これは、三次元に生きる我々では概念的に解決不可能なのだろうとは。

 一般的に四次元は『時間』という軸が加わるそうですが、そうなるとまた違うのかどうか。

 まあ絶対に概念として理解できないのでどうしようもないですが。


 ちなみに、時間を越える技術でもこのタイムパラドックスが発生しないパターンがあります。

 それが、『過去を観測することと』『未来へ一方通行で行ってしまう事』の二つ。

 この二つは実現したとしても、タイムパラドックスは発生しません。

 過去を見たとしても、それで現在が変わることはあり得ません。

 また、未来に一方通行で行く分には、その人の存在が現在からは消失しますが、その消失も『過去の事実』となるので、その結果の未来に行くだけです。何の問題もありません。


 さらに言うと、理論的には過去を観測(見る)ことは、物理的には不可能ではありません。

 どういうことかというと、例えば今、アンタレスの近くから地球を観測すれば、そこで見えるのは550年ほど前の地球です。もちろん物理的に見えるかといえば現在の技術では不可能ですが、もし可能になれば過去を見ることはできるんです。


 また、未来に一方通行で行くだけなら、例えば前述した『夏への扉』などでも登場している『冷凍睡眠』を用いれば、事実上可能です。


 ちなみに本人が移動しなくても、例えば『未来を予知』するのもある種の時間移動系でしょう。

 ただ、この場合は本人が観測、あるいは予知した未来は現実のものとなっておらず、その未来は現在の行動によって変えることが可能とするもの。

 こちらは基本的にタイムパラドックスは発生しません。

 本人にしか観測されていない未来は存在しないとすればいいからですね。

 というか、これは現在でも普通に行われています。

 何かというと、『予言』『予知』というものがそれです。

 当然ですが、これらに科学的な根拠はなく(科学的な分析による天気予報や地震予知は別です)、あくまで現時点における推測、あるいは願望でしかありません。

 予知をそれが正しかったとするために陰謀を巡らせる話とかもありますよね。


 また、きわめて高度なコンピューターによる未来のシミュレーションなども、ある意味同じでしょう。この手のネタは結構昔からありますね。

 理論的には、ありとあらゆるパラメータを入力してそれを加速してシミュレーションした結果は、未来予知と何ら変わりはないでしょう。


 まあ、タイムパラドックスは、要は原因と結果が逆になってしまうことが問題なんだとは思うのですが、やはり難しいなぁ、と思います。

 ちゃんと整合性立てて説明しないと、おそらく頭がパニックになる。

 シュタインズ・ゲートとか、凄く考えたんだろうなぁ、と思います。

 あれは基本的には観測者を固定することで何とかしてた感じですね。


 個人的には扱いの難しい題材ではありますが、上手いこと作れればとても面白い話になるとは思います。ただ一方で、一度読者が理解できなくなると、確定で読者を置いてけぼりにする話になるので、そこも難しいですよね。


 

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