平均寿命について

※近況ノートからの転記+αです。


 知ってる人にとっては常識なのですが、知らない人には意外に思われることなので書いてみました。


 まず皆さん、例えば日本人の戦国時代の平均寿命ってどのくらいだと思うでしょうか。

 調べればすぐわかりますが、武士が42歳くらい。 庶民は30歳くらいだそうで。

 現代の感覚だと非常に短く感じるでしょうが……。

 では実際に、このくらいの年齢で人々がバタバタ死んでいたかというと、そんなことは当然ありません。

 この平均寿命というのは、正しくは『0歳児の平均余命』という統計でして、幼少時に死んだ、それこそ生まれてすぐ死んだ子でもカウントされ、それも一人。

 つまり100歳生きた人が一人いても、0歳で死んだ人が4人いたら、平均寿命は20歳。

 そして言うまでもなく、乳幼児死亡率というのは今とは比較にならないほど高い。

 七五三という風習は、『その年齢までは神様の子』であって生死はままならない、というところから始まってます。

 つまり、その年齢までは、子供は死んでも仕方ないと思われていたということになります。


 実際、当時の出生率は今とは比較にならないほど高いです。

 一人っ子なんてまずありえない。

 なぜかというと死んでしまうからです。

 徳川家康が非常に子だくさんなことで知られてますが、彼がそんだけ子供をもうけたのは、それだけ死ぬ確率が高いから。

 七五三の風習にあるように、七歳まで(言ってしまえば自分である程度生きられるようになるまで)生き残れる子供が少ない。

 ハレムという制度が出来たり、王族や貴族が正妻以外に側妾がいたりというのは、別に好色だからというわけでもないんです(無論そういう人もいますが)。純粋に後継者をたくさん作っておきたかったからです。

 王や貴族の当主の役目でも、後継者を作ることは最重要の一つですからね。


 しかし子供は死ぬ確率がとても高い。

 故に平均寿命という数え方をすると、著しく低下します。

 ですが、それを超えて生きてると、結構長生きはするんです。

 有名なところでは先ほど出した徳川家康は75歳まで生きてます。

 これでも病没とされてますから、もし病気にならなければもっと生きてたでしょう。

 ちなみに家康のブレーンとして知られてる天海僧正という人は、記録では108歳です。

 現代でもびっくりの長生き。

 さすがにこれは破格ですが、実際当時上流階級であった武士たちは、食事はいいものを食べてたし、体も鍛えていたしで現代人より健康的な生活をしていたのは確かで、ゆえに武士は長生きが多いです。

 戦場で死んだり、厄介な病気にならなければ、ですが。

 言い換えれば、生物学的な寿命というのは、おそらくここ数百年、ほぼ変化してないと思われます。

 実際に当時の生物学的な寿命を知りたいのであれば、死亡原因から戦死や災害関連死、流行り病等での死を除いて、さらに十歳くらいでの平均余命をから算出する方がいいでしょうね。


 ちなみに、このあたりの幼少期の異様な高さの死亡率が改善したのは、いわゆる衛生管理というのが行われるようになってから。

 この最大の立役者は、あの有名なナイチンゲールです。

 彼女は清潔な状態こそが人を健康にすると言って、病院や戦場での救護所を徹底的に清潔にさせました。

 今では信じられないかもですが、それより以前は、けが人と汚物が平然と放置されている病院が当たり前だったようで。

 むしろ血や汚物の汚れがこびり付いた処置室が『医者の経験の現れ』として誇られたとかいう話すらありました。今考えたらとんでもない話ですね。

 それ以後、細菌が発見されたりと目に見えない影響がわかってきて、現代の様に劇的に乳幼児死亡率が低下することになります。

 結果、現代の様に高い平均寿命が達成されることになるわけですね。


 実際のところ、清潔に保ちさえすればそれだけで乳幼児の死亡率はもちろん、成人以降の死亡率も大幅に下がります。

 それはもう確実に。

 衛生管理というのが行き届いているかどうかで大幅に変わるわけですが、例えば有名な話で、黒死病ペスト

 あれが大流行したのは、ぶっちゃけ不衛生だったからです。

 不衛生だからネズミが大繁殖して、それがペスト菌を運んで人間に感染しまくった。

 その結果があの地獄絵図。


 これも有名な話ですが、花の都と呼ばれたパリ。

 しかしそのフランスの中世での絶頂期であるルイ十四世の御世に、パリの汚物は基本垂れ流しでした。

 知ってる人もいるでしょうが、ハイヒールというのは『汚物を踏まないために』流行したそうですからね。

 そんな状態で街が衛生的であるはずがなく。

 必然的に細菌等によって乳幼児死亡率が高くなるわけです。

 戦争もほとんどないのに平均寿命は20歳代。

 乳幼児の死亡率は何と30%に届かんばかりです。

 そりゃあ平均寿命も下がるってもんです。

 このあたりが解消されるのは、本当に近世から現代にかけて。


 今ではそのあたりは常識とされて……いると思いがちですが、それは一部の国に限った話で。

 無論乳幼児の死亡率はある程度下がってますが、衛生管理が徹底されてる国なんてのはまだまだ限られてます。

 日本に住んでいると忘れがちですけどね。

 そもそも清潔な水がいつでも手に入らない人も、まだ世界には20%ほどいるとされてますし。


 まあ、いわゆる異世界系でこの辺りの問題に言及した作品はほとんどないでしょうけど。というか、上下水道はほぼ確実にありますよね……下水道にゴブリンが生息してるあたりまでがテンプレートですが(ぉ


 少し話はズレますが、現代日本人の死亡原因トップの悪性新生物、いわゆる癌。

 これが死亡原因のトップになった理由はいたって簡単で、人間が長生きするようになったからです。

 癌というのは、細胞増殖時にエラーが出て、異常な細胞が発生、それが増殖して起きるわけですが、このエラー、当然ですが時間が経てば経つほど、言い換えれば長く生きれば生きるほど発生率が上がります。

 人間の細胞は60兆個(最近は37兆個という説もある)とされ、脳細胞と一部の細胞を除けば、基本的に分裂しつつ新しい細胞に生まれ変わります。

 その過程で、エラーが生じて異常細胞が発生し、それが増殖して内臓などが機能不全を起こすのが癌です。

 つまり細胞分裂の回数が多ければ多いほど、その可能性が高くなるわけで、極論、人間の寿命が仮に無限になったとしても、いつか癌細胞が発生してしまうことは、(エラーの要因を完全にブロックしない限り)不可避なんです。

 さらに、本来であればこのエラー細胞は免疫細胞リンパ球によって駆逐される(健常者でも一日五千個くらいは癌細胞が発生しては駆除されているという研究もあるらしい)のですが、年齢を重ねるとエラー発生率は上がる一方で、対抗機能である免疫細胞リンパ球の働きが弱くなるというのもあるようです。

 これが、高齢になると癌になる人が多くなると考えられている理由です。

 老化の一種と云われることもあるようですね。


 ただ、かつては栄養状態その他から、70歳以上の高齢まで生きる人は多くなかったため、死因は癌以外の方が多かったのでしょう。

 しかし今は、たいていの疾病は治癒できてしまうか延命できるため、未だに根治が困難な癌で死ぬ人が増えた結果、癌が死亡原因第一位になってるわけです。

 言い換えれば、長生きの代償というべきか。

 もちろん若くして癌になってしまうというケースもあるし、それはおそらく昔からあったのでしょうが。

 将来的に、癌の治療方法、あるいは抑止方法が確立された場合は、理論的な生物限界である120歳まで生きる人が珍しくなくなる可能性はあります。

 もっとも、ほとんどの人は脳が限界に来ると思うんですが。

 銀河鉄道999の世界じゃないですが、脳そのものも何かに置き換えての不老不死の実現とか、未来で果たしてあり得るのかどうか。

 ま、SFの世界ですね。

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