透明な箱
今朝は6時に起きた
警備員の仕事があるからだ
昨夜の奥様とのやりとりで、目が少しだけ腫れていた
愛しい奥様の寝顔を、今朝は見ないようにしてベットから起き上がり、昨日の夕食を頂いて出かける
今週は3日とも葛西臨海公園の水族館の警備を選んだ
交通整理よりも気を使わなくて済む
見学者達を眺めて、入っては行けない場所に立ってるだけの仕事だ
創作活動にはうってつけの仕事
しかも60分ごとに10分休憩だ
悪魔が囁く
お前は黒い天使が造った
最高傑作のクズだ
償うすべなどもうない
昨夜の奥様との濃い
愛の涙の契りよりも
1人での帰りの最終バスの
びしょ濡れ窓に映る
己ノコトヲ想った
PayPay3000、晴美に送って
時間も、風も、音も、止めて
びしょ濡れ窓に映る
小生は己に、酔いしれてた
そう最高傑作のクズ
だった
亀戸の帝国警備事務所に赴き
自分の好きな現場を選ぶという
お気楽な勤務パターンをもう、20年近くしてる小生だ
日当11000円交通費込みだ
しかもどこへいく時も原チャリでいく
雨も風も必ず原チャリでいく
1000円の為に原チャリでいく
こんな一途なセコい小生を
子供達はどう想うのか?
学校行事不参加もちろん、家事も不参加
ほとんど家に居るのに、ギター弾くか小説書くか筋トレしてるかの、どれかに時間を費やしてる父をどう思うのか
パパ歌上手いねと、褒められたときも
照れ臭くて無視をした
そこから夏子は、小生を褒めなくなった
馴染みの夏子の彼に、イケメンといじられた時も夏子はクスリとも笑わなかった
そして
怒った事も説教したことも、皆無だった
猿蔵が小学校の時、友達にヘッドロックされ苛められた時も、小生は1週間猿蔵をヘッドロックマンと呼んだ
あっそういえば猿蔵は難聴者だ
俺の人生は詰んだようなものだ
出来れば生まれ変わりたいと
猿蔵は昔
辛そうに呟いた
その時も小生は猿蔵を、励まさなかった
ただ奥様の知り合いの人を
ボロクソに貶した
あの人は見た目は堅調者だが
心が障害を受けてる
可愛そうだか
他にも一杯心の障害者はいる
見た目普通だけに、分からないのが厄介だ
なぁ猿蔵よ
奴らが1番のこの日本文化の被害者だ
お前の清らかな心で、彼達を救ってやれ
…
とお願いをしたのを、覚えてくれてるかい?猿蔵君
とにかく全く親らしい事はしなかった
期待も全く心から、ホントにしなかった
ルックスや庶民的才能なら
それなりに遺伝
するだろう
しかし飛び抜けた才能とは
神からのプレゼントだ
遺伝では無理だ
もちろん小生のプレゼントは
黒い天使からだから
誰も欲しがらなかったし
最高傑作なのに、小生も誰にもプレゼントしたくなかった
その他大勢の群れに紛れて
幸せ掴んでほしい…
小生も奥様と夏子と猿蔵と
群れに紛れて
とても幸せだったから
そう思った
いつの日だったか
昼寝をしてた
日差し柔らかく
隣の部屋では
小生以外3人の
笑い声
そんな景色の中
小生は
夢を見た
とても幸せだった
奥様にそろそろ起きて来たらと誘われた
でも無視して、寝たふりをした
夢が覚めるのが怖くて
寝たふりをずっとした
そんな午後のひととき
今も覚えてる
その時もやはり
山下達郎の
ずっとそばにいてくれるなら
何もいらない ほんとさ
紛れ込む 天使の音に
時間も風も止まって
愛しているよ 君だけ
山下達郎の
ひととき
奥様は何度もスピーカーから放ってた
幸せが怖すぎてまた小生はまた
目を瞑って寝たふりをした
定刻に葛西臨海公園水族館出た
急いで原チャリで、門前仲町へ向かった
2日連続で晴美だ
やめられない
やめれるわきゃない
街をスイングしてかっ飛ばす
突然の、メールだった
話があるの
会いたいの
お願い!
今日はPayPay3000いらない
少しだけ会えない?
懐かしいー
高校の頃
話がある
ってやつ
だいたい他愛のないやつ
友達か部活かなんか、そのあたりの日記のやうなもの女子からは、聞かされたものだった
初めのころは
ちょっと話があるの
放課後待っててね
とか深刻な顔で言われると
好きな男出来たのか?
俺を嫌いになったのか?
なんて思ったりしたけど
ほとんどの女子は
他愛のない
話があるの!だった
だから小生も
わかったよ
じゃ前に行けなかった、TruffleBAKERY(トリュフベーカリー)本店ねって返信した
名物白トリュフ海藻塩パン
幾つか袋にいれてもらい
原チャリおしながら
2人で公園まで歩いた
夕陽がそこまで来てた
とても分厚い秋の夕陽だった
そしてあるシーンが甦った
今も覚えてる
小生6歳江戸川の土手
母さんを何故か見失い
夢中で走った
夢中で叫んだ
母さんはふざけて
太陽の影に隠れてるだけだった
ごめんねって母さんにっこりした
見つけてほっとして
怒って母さんを叩いた
鼻水スカートに擦り付けた
とにかくほっとして
鼻水舐めながら泣いた
後世
笑い話となりなんどもネタにされた
あの頃の母さんにも僕にもさ
もう戻れないんだけどさ
言わせておくれ
母さん
貴方は罪な人だよ
いたいけな子供を騙して
泣かしてさ
あの時は本当にもう
母さんに会えなくなると
思ったんだよ
罪な人だよ
母さん
だから
もう騙さないでね
もう隠れないでね
あの頃にはもう…
もどれなくても
もういいからね
もう別れる事にするわ
私
公園にたどり着く道すがら晴美が
えっ
別れる?
そう
俺と?
違う!
彼とはもういられないよ
他愛のない
話でなかったー
なかなかヘビー
どうしたの?
なんかあった?
何もないよ
じゃあ
なぜ
おっちゃんが悪いんだよ
なんで?
キャラメルよ
キャラメル?
久しぶりに聞くwordキャラメル?
食べても取っても
捨ててもいないし
ましてや入れてもいないし
その目よ
えっ
おっちゃんのキャラメルよりも
もっと甘いその瞳よ
それかー
知り合って1年間半
ずっと見つめられて想ったの
見つめられてとっても暖かくて
おっちゃんと別れて帰って
1人
になった時
ふと泣いてたの
ボロボロね
どうして?
そんなのわかんない
幸せすぎて泣いてたと、初めは思ったわ
夢を見るように私を忘れても
いいから私に会ってねって
おっちゃんに
言ったの覚えてる?
うん、そだね、言ってたね
なのに
私が忘れられなくて、おっちゃんを
夢のように暖かくて
時がゆっくり流れて
そしたら時がピタって止まって
現実の私に、もどってるの
おっちゃんの暖かいキャラメルの瞳
そしてふあって、ちらついて
気づいたら私また泣いてるの
もう日はすっかり暮れて
公園はかなり冷えてきてる
ちょっと話があるのところの話では
もう無さそうで、身体も震えてる
寒さのせいにしたいくらい
震えてくる
それに喫茶店に行けば良かったとも
後悔もする
二十歳を通り越して高校生に
戻りたいと思う己を後悔する
ドルフィンの彼女と行った
帰り道の公園が、たぶったから
秋の夕暮れ少しだけ寒くて
背中から彼女を、抱き締めたから
あの頃は何もわからなくて
切なさと青春のエロが
心を支配してたから
小生は後ろから
ドルフィンの彼女の胸を掴んだ
それと同じ事を、したかったのだ
ごめんよ
皆様
こんな僕で
ごめんなさい
晴美が言う
だからもう彼とは、別れたの
彼は?
泣いてた
やばいねー
それにわざとよ
なにが?
ハンカチ落としたの
え…
私のママは42歳よ
え…
私の名前は?
山下晴美
そう
ママは自分の名前が寒そうで暗くて
嫌だったんだって
だから私に晴美ってつけたんだー
ママの旧姓は真中よ
えっ真中って
ママの名字よ
聞いた事あるでしょ!
えっ冬子?
そうよおっちゃんの昔の彼女よ
ママは真中冬子
震えは止まってた
寒さとか風とかなんにも感じない
冬子の娘が真っ直ぐに
こちらを見てたから
先ほど胸を掴みたかったドルフィンの彼女の娘が目の前にいた
奇跡だった
掴みたかった小生が逆に
思い切り胸を掴まれてた
運命とは自分で切り開くものだと
思う
偶然なんかあてにしてたら
瞳の奥に
消えてしまうから
おもちゃ箱
部屋のリビングね
TVの横にあるの
もう押入も一杯で、どこにもおけなくて
気づけばみんなのガラクタ置場に
なってたのパパやママの、今までのいろんなタイプの携帯とか、プリクラのスタンプとかね
で、ママの可愛い青いガラケイが
1番奥から出てきたの
ガラクタ達に隠れて隠れて
見つからないようにしてたのに
青いガラケイ私
引っ張りだしたの
電源いれてたら
待ち受けには若いママとおっちゃんが現れた
今のおっちゃんより少しだけ
若くて幼かったわ
とても目が綺麗だった
ママも可愛かったけど
比べ物にならないほどね
で
部屋に戻ってベット寝そべって
いろいろ中を覗いたの
写真とかメールとかね
ほとんどおっちゃんとのメールだったわ
ほとんどママが語って、おっちゃんはウン
か、だねーとか違うよー
とか相槌担当だった
で、最後にママに好きよって言われて
おっちゃん
俺もだよって
返してたね
私だんたん泣けてきてね
おっちゃんほとんど語らないのね
普通若い頃って、主張したがるのにね
なのに空っぽなの
なんか透明な箱の中いるみたい
限りなく空っぽなの
で、たまに他の男子にもメールしてるの
おっちゃんはそれを知ってたのかなー
って思った
しかもよく見たらその男子との
やりとりは日付が、かなりとんでるの
未送信なってたり途中で文面終わってたり
ママが敢えて消してるの
だから少ししか残ってなかったわ
知ってたよ晴美
その子はね中学の時
冬子が、付き合ってた彼なんだ
僕たちは私立高校で冬子とは
街が違ったんだ
だから同じ街の元カレだよ
彼は冬子のこと、1番好きだったんだよ
きっと僕よりもね
僕はね、高1で冬子と知り合って
次第に好きな感覚になって
映画や遊園地や繁華街の
ゲームセンターやレストラン
いろいろ行ったよ
でも学校帰りの公園が、1番好きだった
背中から抱きしめてるうちに
日が暮れてね
急いで2人でよく走って帰ったよ
で2年ぐらい過ぎた頃
会ってくれって言われたんだよ
中学の元カレに?
そう
でも会わなかった
どうして?
僕はドラマチックなのは
好きじゃないんだ
俺の女に手を出すな!なんて
女性は所有物じゃないんだしね
冬子に委ねたよ
あなたが1番好き
迷ってるの
冬子は泣いてた
でも僕は行かなかった
そのうち上手に、僕は彼女が1人2人と増えて行った
冬子とも変わらず付き合った
好きな男の腕の中でも
違う男の夢を見る
って歌あるんだけど知ってる?
わかんないよ
そうだよね
ふるい歌だよ
だけどそんな風に僕と冬子は
互いに日々を過ごしたんだ
そして前にも話したように
英語教師だった奥様に
口説かれ直ぐ結婚した
うん
そうもともと性格も、知っていたし
授業も、簡潔簡単上手だった
喉を震わしたり口を、横に無理に広げたりせずネイティブな英語が、心地良かった
だから直ぐ結婚した
それだけで?
声は大切だよ
言葉でなく態度で、表せとか言うけどね
嘘の行動かもしれないしね
あやふやなものだよ
態度はね
でも声はね
ずっと聞いてるとね
心の鏡
心電図だよ
奥様は素敵な声なんだ
私とどっちが好き?
もちろん君だよ
本当?嬉しい!
うん
でも同じこと奥様に聞かれたら
同じこというんでしょ?
……
いいよ、答えなくていいよ
嫌なこと聞いてごめん
あとさー元カレとママの
飛び飛びメール最後の方に
2つあったんだー
聞きたい?
言いたいの?
言いたくない
じゃいいよ
うん
ごめんね
いいよ
言いたくなったら聞くよ
2時間以上話してた
白トリュフ海藻塩パン、持ったまんま
紙の袋も、もうしわくちゃだった
全部晴美に塩パンはあげた
何にも食べたくなかった
僕達が見ていた
フェンス越しの黄昏はすっかり
街のネオンと化してた
門前仲町駅まで、晴美を送り
原チャリで葛西橋通りを飛ばした
途中飲酒検問に停められた
鉛のような目になってた小生に、警官は
ご協力ありがとうございます
と一礼した
ブリキのおもちゃみたいに
小生も頭を垂れた
兄貴は昔、風になると
家を飛び出したが小生は
未来のバイクみたいに
宙を飛んで走った
家路ついても
誰の顔も見ず
残業疲れたと、嘘ついた
家族の皆は銘々に動いて
小生の嘘など、無視した
小生もそれで良かった
それでほっと…した
家族の一員にもどれた
お風呂入ったらと
奥様に背中つつかれた
…
つつかれた背中が、…イタイ
時の残酷さを思いしる
まさか晴美が、冬子の娘なんて
でもなぜ小生に、たどり着けたのか
わざとハンカチを落とせたのか
あの名前も知らない冬子の元カレの最後との2つのメールも気になる
そこにつながるのか?
あーわからない
あー
公園で胸を掴みたいと思った
あの頃の冬子に、会いたいと思った
もうどこにいるのかも、しらなかつた
晴美は江東区森下だから
同じく冬子も森下
小生は奥様の自宅転がり込み系
江戸川小松川
かなり近くだった
20年以上も1度も会わなかった
それもまた運命だった
思い出たどっても
届かぬ夢のような運命
だった
次の週の始まり、日曜日の朝
久しぶり奥様と、早朝散歩した
かなり2人は歩いた
まだ営業してない、使い捨て
みたいなボロボロな
バッティングセンター
の角の小さな公園で休憩した
ベンチに座りそっと、奥様の手のひらに
左の中指を這わせた
汗で濡れていた
もう背中から抱きしめたりは、しなかった
発汗した身体を、ハンカチで拭い
少しだけお茶を、飲んで奥様が
何か問いかけたそうに
こちらを見つめてる
握り返した、中指も濡れてくる
昼間の反抗期、パレスの遅刻
先週の飲み会、残業等
山ほどあるのに、でも聞かない
もともと知っていた事と
後で知った事
移り気な小生のクズは
もともと知っていた事
そして結婚してから
後で知った小生の事
もともと奥様は、頭も顔も声も
素敵な女性だ
計算も万能な策略家だ
小生に聞くのは、得策ではない
と判断を下したようだ
そう知らなくて良いことが
世の中なんだ
そう心の偉大な神は
我等を罪深き、我等を許すように
奥様も小生を許したのだ
小生のように全てを知っても
どうでもいい
ぐらぐらな小生は弱虫だった
それさえも奥様は見抜いていた
透明な箱の中
我は身動きせず
パーブリんな夢ばかり見た
女神はそして
そんなパープリんを
指で押し潰した
あー
角のバッティングセンターの店主が
女もののつっかけ
履いたまんま、出てきた
面倒そうに、蹴散らして、出てきた
空き缶に店主は、コメディアン
みたいに転んで、つっかけが、飛んだ
ゴミ箱にいたカラスが、1羽
その女ものの、つっかけ目指して
くちばしを、つきさした
大きく湾曲した、上くちばしは
ずっと、ずっと…震えていた…
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