WOMAN

過去への扉を叩く

優しい音がした

悲しい音もした

人はどうして、過去の扉を

叩き続けるのだろう


あれから何度も晴美と会った

仕事帰りメインに、土曜と日曜も

嘘をついて会った


そして12月のある日だった

晴美からメールが入った


昨日も今日も明日も、会いたいよ

あとママの元彼との最後からの

2つのメールもやっぱり話したい


冬子の青いガラケイは

2月で終わっていた、そして

次のガラケイは薄い白に、変わっていたらしい

暗証番号も冬子の誕生日でなくなっていて晴美は青いガラケイでしか

もう小生と冬子を

知ることはなかった


土曜日、有楽町で待ち合わせた

そして丸井に入って、雑貨屋や

レディースのセレクトショップ

そして、ハンカチ専門店など

見てまわった

皆様はデートで、買い物付き合いは

苦手な方多いでしょう

が、小生は違った

第1章でも報告した通り

小生は視線が、好きなのであった

こんな可愛い美人な若い女性

そして今も衰えぬ、美貌と頭脳

さらに愛らしい少女の心も持つ

策略家奥様に、愛されてるのに

他の視線が、待ち遠しかった

晴美が店員に、話しかける

小生も店員と話す

そして見つめる

意味もなく見つめる

晴美にばれずに見つめる

それだけで良かった

高確率で女性は小生を見つめる

気持ち悪いなんて、思われる事は

決してなかった

相乗効果を利用した

晴美の美貌だ

こんな女性が、惚れてる男が

気持ち悪い訳なかった

でも本当は小生は、黒い天使が造る

最高傑作のクズで、さらに変態だった

そこがたまらなかった

最高傑作のクズが、救われる瞬間だった

可愛い店員からの2度見され、惜しまれながら晴美と、また違う店舗へと歩いた


あっ君が欲しがってた

あのハンカチ買ってあげるよ


えっほんと?


いいよ

君すごく迷ってたよね


だって高いんだもん

ハンカチで3000円は高いわー


いいよ

買ってあげる

もどろっ


わーい

おっちゃん大好き


()誰もが振り返る素敵な晴美よ

ごめんね

さっきの店の店員可愛くって

いつもより長く見つめちゃったよ

ごめんね()


土曜の昼下がり丸井の、1階フロアーは

人だらけだった

すごい人流を、かき分け2人は歩いた

セピア色の想い出の人や

明日もきっと楽しそうな

騒がしの若者達を、追い越し

ハンカチショップにもどった


ありがとうー


ブルーの深い色のハンカチだった

すごく可愛いいよ

満面の笑みの晴美だ


ダメだ

小生はホントにダメだ

愛しい晴美の微笑み想像してたら

涙がまた溢れてきた

そう、

書いてる今この小説を書いてる

こちら側の小生が泣いていた


少し休もう

この後のストーリーに支障がでる



そのハンカチ失くしちゃダメだよ


失くす訳ないじゃん!


いや

人はいろんなもの、失くしてゆくものだよ

大切なもの置き去りに

してゆくものなんだよ


じゃぁ見失なったらおっちゃん

一緒に

探してくれる?


そうだね僕の前に落としたら

また拾ってあげるよ


ひどーい

そんなの簡単じゃーん

もっと遠くても探して欲しい



それは無理かなー

でも遠すぎて君の、届かぬ夢になったらね

夢の欠片、拾ってあげるよ


ほんと?

ずっと拾ってくれる?


あぁ多分この先、きっとそうだよ

もともとハンカチ

拾って君と、知り合ったんだからね

ずっと拾ってあげるよ


届かぬ夢のような約束だった

ふと冬子との約束を…思い出した


高3の11月の終わり、あのドルフィンの帰り

中華街に2人で行った

かなり肌寒く、白い煙のような息を吐いて2人は歩いた


個人経営の小さな店に入った

四川麻婆豆腐が、辛すぎて冬子は

少ししか、食べれなかったけど

タン麺を美味しそうに食べた

今思えばあれは、遠い夢の始まりだった

髪をそうっとかきあげ、蕎麦をすする様

髪をかきあげた、耳元からの

うなじに高校生の小生は、見惚れてた

そして、占いの館や小籠包の店を

通り越してある雑貨屋へ入った

冬子はとても綺麗な指輪を、気に入った

三連のリングで、おもちゃなのに

とっても美しく、輝いてた

プレゼントした


とっても冬子は、喜んでくれた

でも2週間で、リングは1つ…ちぎれた

今オモイダシテモ…息が出来なくナルほど苦しくなる



あの時の約束

小生は言った

ごめんね

冬ちゃん

ちゃんとしたの、高校卒業して

アルバイトいっぱいして

買ってあげるね

ごめんね

冬ちゃん


届かぬ夢だった

卒業して、2人は…別れたのだから



丸井そばの晴美のおすすめの

有楽町電気ビルヂングの南側

ワイン倶楽部に入った


晴美は樽詰め生ワインのミオバールを

頼み小生は軽めの

ワインスカッシュを頼んだ

酔わないでおこう

小生の予感がそうさせた


アサリ、ムール貝、帆立の3種盛りの

アサリ蒸しとワインに合いそうな

チーズ達を晴美は、程よく見つけて頼んだ


小生は大人しく晴美に

勧められるがまま食した

普段は女性の目を、見つめるのが

得意なのにわざと、あまり見つめずに

少年のように、音を立てて食した


ほろ酔いで、ワインスカッシュを

2杯飲み始めた頃

晴美が切り出した


おっちゃんの奥さんも知ってたのよ


???何を


おっちゃんの奥さんも、ママと元彼が

まだ付き合ってたのを、知ってたみたい


なぜ?



晴美は青いガラケイを

小生に見せてくれた

2つの元彼とのメールよ

少しだけ長めのメールだった


()行ったり来たりの昔のメールだが分かりやすくLINE風に変えてます()



実はあの月曜日の

モスバーガー横の路地での

あなたとのキス

先生に見られてたの…


うん…

確かすごいトウコ

慌てて袖で、唇ふいてたよね


私は呼び出されて

停学覚悟と思ってたの

なのになにも、言ってこないの

確か先生、私がk君と付き合ってるの知ってたはず

一緒にk君と歩いて、帰ってるの見られてるし

他の学校の男子生徒とキスなんて

先生なぜなにも言わないのか

わからなかった


で、それから英語の授業の時

よく先生を注意して、見るようになったの

そしたらわかったわ

先生k君の事好きよ


嘘?本当に!


うん、間違いないわ

彼と話す時だけ、違うの先生

頬が緊張してるの

そして最後はすごい

柔らかい顔になってるの

でk君に言い寄る女ノコには、冷たい視線なの

授業中にわからないぐらいの

瞬間チラっとk君を見てるのも発見したわ


でね

確信したのはね

私を見る目よ

ガラス玉なの

私が見えてないの

私と話すときも、目はまるでビー玉

黒目も薄く、今にも、消えそうなの

多分先生には私を貫き

k君だけを見てるの

私の存在は先生にはないの


どうしょう


1つの元彼とのメールのやりとりはここで終わっていた


()そうだったんだ

少しわかったよ奥様

それであの卒業式の、次の日のテンパった告白だったんだね

通帳見せたり年収教えたり

格好悪いのにね

ただそばにいて欲しいって

有り得ないぐらい

僕に迫ってきたよね

それに冬子からの

突然の電話の後の号泣もね

冬子のキスのことも、僕に言わないなんて

ありがとうね

冬子から僕を守りたかったんだね


でもね奥様

冬子はそんな悪い女じゃないよ

誰だって、奥様みたいに強くて賢くて

綺麗じゃないんだ

他人の心なんて

図り知れないものだけどね

人は他に、依存してしまう生き物だよ

心のスーパースターが必要なんだ

それはロック・バンドだったり

アイドルだったり高尚絵描きだったりね

卓越した光のような、存在が支えなんだ


冬子にとって僕は、スーパースターに

なれなかった

ただそれだけなんだ


晴美が真面目そうな顔で、小生を見てた

そしてもう1つのメール、捲ってみせてくれた


元彼の長いメールだった



ごめんね

もう会えないわ

私やっぱりk君が好きなの


知ってるよ


ごめんね


あやまんなよ

はじめから、分かってたことだよ

あいつの事で、悩み聞かされて

またそこに俺が、割り込んだんだからね



ごめん



それにさ

俺、実は見たんだ

お前達が駅のホームで歩いてるの

多分トウコを送って、またあいつ戻って来ると思ったから

逆のプラットホームに、行ってあいつを待ったよ、

30分かな、あいつが電車に乗ってたよ

で俺も中に入った

あいつ

俺を知らないからね

俺だけが知ってる空間だった

あいつ

華奢だね

どうして女はあんなのに

惚れちゃうだろうね

悔しくてさ

俺…泣けてきたよ


悔しくてさ…

なんでってさ…

そしたらさあいつ

ずっと立ってた塾帰りかな?

10歳ぐらいの重たそうな鞄持った

男の子に席譲ってんの

誰にだって

あいつきっと優しいんだろうな


トウコさー

いっそさ

結婚してくれ

あいつと


俺はさ

ずっとトウコだけが好きだよ

中学の時からお前と、出会ってからさ

この先も変わらないよ


結婚してくれ

そしたら諦められるから


うん

ごめんね

それはまだわかんないけどね

k君…指輪くれるって…

卒業したら…一杯働いて

指輪くれるって…約束したの


良かったね



…うん



メールはそこで…おわってた

あとは冬子が消してた

元彼が最後何を伝えたのか

それはわからない


でもきっと元彼も

冬子を守りたかったのだろう


こんなアイラブミーな世の中

あの尾崎豊が

僕が僕であるためにという歌で

唄っていた


誰がいけないとゆう訳でもないけど

人は皆わがままだ

慣れあいの様に暮しても

君を傷つけてばかりさ

こんなに君を好きだけど

明日さえ教えてやれないか ら



晴美が泣いてた

ごめんね

こんなの見せて


ごめんね


ごめん

ごめんね



見せたかったんだろ

泣くなよ


ごめんね

…バパなの!


えっ…



元彼は私のパパよ

私の大好きな…いつだって優しいパパ



そんな…こと…



今も私にもママにも、変わらず優しいわ

この前なんか、大学の入学式まで来たわ

来なくていいって

言ったのに…


泣きながら晴美が、うつむいて喋る



私が小さな頃から、間違った事すると

ママよりもパパが怒るの

変なパパって思った

ママを悲しませるなよっ!て言うのよ

あの頃はそんなパパが怖くて

もっと泣いたわ

でもいつからか気づくの

パパは

ママが1番好きなんだって


うん…


だからメール読んでる内

分かってきたの

パパとママ中学からの、付き合いっての知ってたしね

それにトウコで呼んでるのよ

ほんとはふゆこなのに

ママが寒い名前って、嫌いなのって

ずっと知ってて

パパがあだ名つけたんだって


いいバパだね


うん…


ワイン倶楽部内

ジョン・レノンのWOMANが流れてた

かなり難しい歌だ

ジョン・レノンが、微妙にテンポを

ずらしたり、かなりの難易度満点ソング

出だしフォルセットからの、転調は天才としか言い様がないぐらいだ

美しすぎる曲

あの桑田佳祐もライブで

カバーしてるが桑田節でちゃんとは

唄えてないし

小生も、もちろん唄えてない




あっ

WOMANだ

この歌私大好き!


おっちゃんこの歌

ジョン・レノンはなんて、言ってるか知ってる?


もちろんだよ


僕は未だ

少年だ

君の愛が必要だ


って言ってる


なんか甘えてる

ジョン・レノンだよ


そんなことないわ

正直なだけよ


でも君のパパは絶対言わないね


そうかなー


ママ、時々に泣いてるの

ジョン・レノンとかなら

心地よく聴いてるのにね

浜田省吾…聞こえてくると…泣きだすの

夕食前とかの…夕方の忙しき時にだってよ


私もねそっとしておいてあげるの

ママはちょっと心が繊細な人だからね


きっとおっちゃんの事

今でも想ってるわ


知ってた?

ママもね

もうひとつの土曜日が

大好きなの

おっちゃん言ってたよね

子供の頃の子守唄だって


よく覚えてるね

そうだよ


ママね

よく唄うのよ

昨夜眠れずに泣いていたんだろう

彼からの電話待ち続けて

ってね


()

冬子に手紙で書いて貰ったことが

あるよ

晴美

もう手紙は無いけど

やはりそのまんま覚えているよ

()


もうひとつの土曜日の私の好きなとこ

教えてあげるね


週末わずかな彼との時を

繋ぎ合わせて君は生きてる


私そのものね

貴方と週末2人きり会えると元気になるよ


ずっと好きです

()


でも晴美には伝えなかった

これは冬子との…手紙だから

教えたくなかった…


長く2人はもう、何も頼まなかったから

ウェイトレスが、晴美のコッブに水を注ぎに来た

なんだか間を、繋げるように

小生はワインシャワーを、2つお願いした


またジョン・レノンのWOMANが

流れ始めた

きっと店内のお客が

気に入ってリクエストしたのだろう


WOMAN


親愛なるきみ もうとっくに知ってるよね

大人の男も中身は小さな子供さ

だからぼくの人生はきみのその手に任せたい

ああ親愛なるきみ 強く抱きしめてよ

心のすぐ近くでぼくを離さないで

どんなに距離が遠くても

僕らは運命の二人だと

星に描いてあるよ



ジョン・レノンは芳ばしいクズの薫りがした


天才とクズはきっと紙一重なのだろう










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