第2話
僕には、だれにも話したことのない秘密がある。
それは――心の声を聞くことができるということ。
もちろんそれは、僕が自ら望んだことではない。中学二年くらいのとき、突然そういう体質になってしまったのだ。
教室にいても、電車の中でも、そして……家でも。必ずだれかの心の声が聞こえてくる。
それは大体気持ちのいいものではなくて、だれかの悪口だったり不満だったり、知りたくもない事実だったりする。
だれかの悪意を聞くというのは、思春期真っ只中の僕には耐え難いものだった。
親友だと思っていた友人の心の内。可愛いなと思っていたあの子の裏の顔。優しい先生の本音……。人を信用できなくなるには、十分過ぎるものだった。
簡単に言えば、絶望したのだ。人の醜さに。
僕は、この不思議な能力を手に入れてからというもの、ほとんどクラスメイトと接しなくなった。
中学生のときはこの能力に戸惑い、人間不信で不登校気味になっていた。
けれど、高校生になった今、少しは成長したのか、クラスからあぶれない程度にはクラスメイトたちとまともな関係を築けるようになった。
とはいえ、わざわざ深入りしようとは思わないので、基本的に学校外でのイベントの誘いは断るが。
誘いを断るときには相手が気を悪くしないように言葉に気を付けながら、それなりの理由を盾に謝罪をする。
……の、だけれど。
僕には今、気になっている人がいる。
クラスメイトの
斜め前の席の彼女には、感情がない。……いや、というか、一度も声を聞いたことがないのだ。彼女自身の声も、心の声も、どちらも。
花野はクラスメイトと話をしないどころか、目もほとんど合わせない。
つまり、高校生になって半年が経つのに、彼女はこの学校生活の中で一度も心を動かしていないということだ。
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