この声を君に、この心をあなたに。
朱宮あめ
第1話
――夏休みが明け、登校初日。
色褪せたアスファルトを踏み締めて、僕は約一ヶ月ぶりの高校の門をくぐった。
「おはよー、
「あ、おはよ。
僕は上履きを履きながら、隣に立った男子に挨拶を返す。
僕の名前は蓮見
「なぁ蓮見〜。夏休みの課題ぜんぶ終わった?」
「まぁ、一応な」
「数学の範囲、めっちゃむずくなかった?」
「まぁ、たしかに簡単ではなかったけど」
でも、言うほどではなかったような。と、心のなかで思いつつ、僕は高野に目を向ける。
「高野は?」
「いやぁ、それが俺、ぜんぜん分かんなくてさぁ! マジで今日の実力テストヤバいかもって焦ったわ!」
と、どこかわざとらしく高野は言った。
その直後。
『……って言っておこ。テストの点数悪かったらかっこ悪いしな』
突然、どろりとした声が耳の奥に響いた。咄嗟に耳を押さえると、高野が不思議そうな顔をして僕を見た。
「どしたの?」
「あ……いや、なんでもない」
慌てて笑みを浮かべ、なんでもないふりをする。
「……まぁ、僕もあんまりやってないから実際焦ってるんだよね」
「だよなぁ。もう諦めだわ」
高野が大きなため息をついた直後、再び声が響いた。
『とはいえ蓮見よりはいい点取りたいな。こいつ、案外バカだし』
「…………」
あぁ、もうダメだ。息が苦しい。
「あー……そういえば僕、今朝先生に呼び出されてるんだった」
「え、そうなの?」
力任せにバタンと下駄箱を閉め、
「ごめん、先行くわ」と、言い終わる前に高野に背を向けた。
「お、おう……じゃあな」
「うん」
『……相変わらず掴みどころねぇやつ』
背中に高野の心の声を浴びながら、僕は逃げるように、小走りで教室とは反対側に向かった。
学生たちの
トイレに逃げ込み、鍵を閉めてから、僕はようやく息を吐く。頭がズキズキとして、思わずこめかみを押さえた。
「はぁ……朝から疲れる」
早く卒業したいなぁ。まだ、入学したばかりだけど。
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