第9話 ぼくの命
『ガラガラガラガラ』
「みんな、おっはよう~♪」
ふわふわな可愛い声を出す女はトテトテと教卓の前に立つのであった。
『桃香ちゃん!』
『副生徒会長!』
『桃香ちゃーん、今日も可愛い‼』
学園で一番可愛いと言われる副生徒会長が教室に入ってきた。ショートボブのピンク髪はあのあどけない童顔にピッタリで、誰もがその可愛さに惹かれるらしい。
っげ、副会長……なんでこんなところに来ているんだ?
こいつも会長と同じで一度もここに来たことがない人間だ。
『桃香ちゃん、どうしてここに来たの?』
「んっとね~、わたしのカップル相手に会いに来たんだ~」
『ええええーーー‼ 桃香ちゃんの相手がここにいるの?』
「そうだよ~」
ぼくの心臓がドキリとした。
『許せん、そいつはどんな奴なんだ』
『桃香様とお付き合いするクズ男は焼肉の刑だ』
心臓に悪い発言がちらほらと聞こえるせいでぼくは余計に焦る。
もしかして、ぼくの正体がザーサイだってバレてる?
いやいや、カップルあみだのサイトで本名を使っていないんだからバレるはずがない。
とりあえず、教室内で刺激を与えないように空気になろう。
無心になれー、無心になれー。
『トコトコトコ』
副会長の可愛い足音は最悪の状況を想定した場所に止まった。
「こんにちは♪」
「こ、こんにちは」
ぼくはオドオドしながら目の前のピンクの髪がふわふわ揺れる女に答えた。
「初めまして、副生徒会長の桃香です♪ さとしくんだよね?」
「はい、さとしです。初めまして」
「さとしくん、じゃなかった。ザーサイくん、これから卒業までお付き合いよろしくね~」
まだ冷え込んでいる日だというのに体全体から嫌な汗が次々とでてくる。
ぼくの正体がバレてる⁉
というか、なんで名前を言い直した?
『ガチャガチャガチャ』
後ろのほうから尋常じゃない殺気を感じ、何かを組み立てる物音がしていた。
首を回して後方を見ると、男子生徒たちが大型の焼き肉用機械をすごいスピードで組み立てている。
『焼き肉、焼き肉、焼き肉』
やばいやばいやばい!
モテない男子たちが、呪文のように焼き肉って言ってるよ‼
絶対にぼくの身体で焼き肉パーティをしようとしているよ!
自分の命が危ない、そう思ったぼくは急いで前を向いた。
「副生徒会長、人違いですよ。ぼくはザーサイではありません」
すると、急に後ろから殺気がなくなり、物音がおさまった。
助かったよー、ぼくの命。
しかし、ぼくの心臓の鼓動は変わらず早いままだ。それは、まだ最悪の状況を抜け出してはいないと思っているからだ。
早くどっか行ってくれー、心臓に悪いよー。
「そうなんだ~。ザーサイくんじゃないんだ~」
「はい、そうです」
「一つさとしくんに伝えたいことがあるんだけど、いいかな?」
さっさと、どっか行ってほしいので縦に頭をブンブンと振りまくる。
話を早く終わらせてー。
「さとしくん、カップルあみだのサイトを運営しているところって生徒会だってこと知ってる?」
「……‼」
「つまりですよ~。登録した人が誰なのか調べられるわけですよ~」
ぼくの汗が体中からドワッとでて、衣服が濡れる。
この子、ぼくがザーサイだと知っている……
アカン、ぼく、死んじゃう。
副会長と付き合うことがばれたら、後ろにいる奴らがぼくの肉で焼き肉パーティが始まってしまう。
生きるために何かを言わなければ!
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