第8話 焼き団子

『ピロロロローン』

 スマホのメール着信音が鳴った。

 見てみると、表示されていたのは『副生徒会長』と書かれていた。

 っげ、副生徒会長からだ。

 どうしてぼくのメールアドレスを……

 あ、そうだった。カップルあみだでメールアドレスを登録したんだった。それで、メールができたのか。

 どうしようか、無視でもしようかな……

 とりあえず内容を見るだけ見てみようかな。

『こんにちはー、副生徒会長の桃香でーす。ザーサイくん、お願いことがあるんだけど、クラスと本名を教えてくれるかな? 明日、会いに行くのにザーサイくんの情報が必要なんだよね。連絡を待ってまーす♪』

 ……ふー、返信するか。

『ザーサイです。クソ副会長に教える情報なんてありませーん。付き合いたくないので来ないでくださーい。ぼくの情報を手に入れたければ、入れてみろー、バーカ! まぁー、できないと思うけどなー!』

 これで、よし。

 あとはメールアドレスをブロックしておいて、と。

 それからぼくは家に帰った。


 翌日の昼休み——

 いつものように弁当をカバンから取り出し、ご飯をつつく。そして、視線を左に向け、窓側の席を見る。つゆちゃんの本を読む姿がそこにはあった。

 んー、今日もなんという素晴らしい黒髪天使なんだろうか。

 しかし、この昼休みからぼくの平穏がぶち壊されるのであった。

『ガラガラガラガラ』

 教室のドアが開くと同時に女子たちの爆音のような声援が室内に響き渡る。

『『『キャーーー‼ 生徒会長様ーーー‼』』』

 相変わらずの人気者だな、あいつ。

 この生徒会長はアイドルのような容姿端麗で整った銀髪は王子様のようだと言われる。さらに、天才、スポーツ万能、性格も爽やかだから、学園の内外から絶大な人気を誇る男である。一年生にして生徒会長の座を手に入れている実力者だ。

 まぁ、一言でいうと、紳士な陰キャぼっちであるぼくとは別世界の人間ってこと。

 そんな会長がなぜこの部屋に来たんだ? 

 一度も教室に来たことがないはずなのに。

 声援の中、会長は教卓の前に立ち要件を話し出した。

「皆さん、おはようございます。生徒会長の星川達也です。今日は個人的な用事があって来ました。ですから、みなさんと話す時間が残念ながらございません。大変申し訳ありません」

『生徒会長様ー! なんですかー? 用事って?』

 外野が尋ねる。

「用事はですねー」

 一息ついて、窓側に顔を向け歩き出した会長。タン、タン、タン、と心地よい革靴の音が響き、窓側の一番後ろの席で止まる。

「つゆさん、今日からお世話になります、焼き団子と申します」

「‼」

 驚いているつゆちゃんの前で彼は爽やかにお辞儀した。

 ん……待て……焼き団子って言ったよな。

 もしかして、あいつ!

「今日から彼氏としてお付き合いをします。よろしくお願いします」

 つゆちゃんのカップルあみだの相手、焼き団子だった。

『『『えええーーー‼』』』

 教室内はパニックになっていた。

『私たちの生徒会長様が女性とお付き合いするなんて……』

『達也様……うえーん‼』

『書記ちゃん、羨ましい……』

 女生徒たちは涙を流し、失望の声をだす一方で男子生徒は嘆いていた。

『僕のつゆちゃん』

『焼き団子は生徒会長だったのか……これは、逆らうことはできないな』

『焼肉にはしないっと』

 マジかよ……つゆちゃんと会長がカップルになるなんて……

 絶望を感じてたいたぼくにさらなる苦難が降り注ぐのであった。

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