第7話 焼き肉
「あの、一年二組のつゆちゃんと付き合いたいです」
「っふ」
赤髪に鼻で笑われた。
「それは、無理だな」
「え、どうして?」
「俺たちの中につゆちゃんのカップリング相手はいないから。それに、おまえみたいな見るからに陰キャがつゆちゃんと付き合うなんて無理。他の女生徒だな」
「そ、そうですか」
ひどい言われようだし、何気に言葉遣いがひどくなってません?
いや、なにげどころじゃないな……
「で、おまえのカップル相手は誰だ?」
「ぼくのカップル相手は副生徒——」
『助けてくれー‼』
いきなり助けを呼び求める声が後方からものすごいスピードで近づきながら、ずずずずーと床に何かが擦れる音が共に聞こえてきて、すぐ隣で歪な音が止む。
なんだ、今の音と助け声……
音が止んだ方向にパッと顔を向けるとロープでぐるぐるに巻かれた状態で横たわっている男子生徒が五人の男に押さえつけられていた。
なに、この状況……
ロープで巻かれている男と何かあったのか、と赤髪男子に聞いてみると、急に冷たい声で答えてくれた。
「こいつがクズ人間だからロープで巻いたんだよ」
クズ人間? 一体、彼は何をしたと言うんだ。
「こいつは、罪を犯した。一年一組の中美人さんという学年で五〇番目に可愛い女生徒とカップルあみだで当てた」
五〇番目って……微妙だなー……
とりあえず、相槌うって、気になることを聞くか。
「ああ、そうなんですね……それで、この男は中美人さんのくじを当てて何をしたのですか?」
「中美人さんと付き合うことだ。身の丈の合わない女子と付き合うなんて、言語道断、罪だ」
『理不尽だー。可愛い女子とあみだくじでカップリングしただけなのに、どうしてこんな目に』
ロープで巻かれている男は嘆いていた。
確かに、それは理不尽極まりないな。ロープ男に同情するわー。
「だから、俺たちはこの罪人の当てたくじを盗み、カップルあみだで落選した者に渡す」
ロープ男に耳を貸さず赤髪はたんたんとしゃべり続ける。
「あ、そうなんですね……」
なんだ、この恐ろしい男たちは……
「さらに、この男には中美人さんのくじを当てた罪として、今日一日を監禁と断食の刑に処す。空腹状態で俺たちがご飯を食べる姿をみているといい」
『うぅ……なんで俺がこんな目に……』
泣いているロープ男は可哀そうだな。
そんなことを思っていると、赤髪がうっすらとした目を開け鋭い視線をこっちに投げかける。
「ところで、あなたのカップル相手は誰ですか?」
「え……?」
この時、ぼくはものすごく不安を感じた。
正直に言ったら、ロープ男みたいにされるんじゃないだろうか?
怖いから仮の話を持ち掛けて確認してみる。
「あのー、もしも、もしもですよ、もしも。ぼくのカップル相手が桃香副生徒会長だったら、どうします?」
「っふ、そんなの決まってるじゃないか。おまえをロープで巻き、焼き肉パーティをする」
「ふーん、意外に罪が軽いんですね」
「そうだな」
意外だ。五〇番目に可愛い女子と付き合って断食なんだから、一番可愛いと言われる人と付き合うことになったら、もっとひどい目に合うと思ってた。
ロープに巻かれて焼肉パーティに参加って悪くないね。まぁ、悪い部分があるとしたら自分で肉を食べられないところだろうか。
焼肉をぼくの口に入れてくれるかな?
しかし、この考えは甘かった。
「確かに罪が軽い。おまえを焼き肉にして、焼き肉パーティをするのは罪が軽いよな」
え、今なんと……?
「本来なら精神的な苦痛を味あわせた上で焼き肉にするのが妥当なんだがそんなことはしない。それが俺たちの優しさってところだな。もしも、桃香様とカップリングしていたらすぐに焼肉になれる」
不気味な笑顔を向ける赤髪。
「……」
無言になるぼく。
え……焼き肉の材料はぼくっていうこと?
さらりとエグイことを言ってるけど、人権という言葉を知っているのだろうか……
……こいつら、果てしなくやばい。
んー、ここにいたらーぼく、死ぬと思うなー。
だから、何かを追及される前に、おとなしく退散しよう。
「それで、おまえは誰がカップル相手——」
『ッダ——』
赤髪が言い終わる前に、その場を全力疾走して、無事に逃げ出すことができた。その後は書記のつゆちゃんのくじを持っている男子生徒を探し回った。だけど、どこを探しても、つゆちゃんのくじを持っている生徒は見つからなかった。
一体、誰がつゆちゃんの相手『焼き団子』なのだろうか……
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