第4話 今後の人生を変える会話

 ——誰もいなくなった放課後の教室。

「どうして! どうして、誰もチョコレートをくれないんだー‼」

 ぼくの机をバンっと叩いた。 

 え? 絶対におかしいでしょ?

 なんで、ぼくがチョコレートを貰えないわけ?

 え? 女生徒のみなさん、もしてかして、今日をエイプリルフールと勘違いしていらっしゃいますか?

 今日はエイプリルフールじゃなくて、バレンタインだよ?

 こんな、ドッキリ企画なんてぼくは望んでいないよ?

 いや、一旦、落ち着けぼく。

 もうちょい待ってあげよう。

 もしかしたら、チョコレートを渡すのを恥ずかしくて躊躇っているかもしれない。廊下の隅のほうでバレンタインチョコレートを持ちながら深呼吸をして緊張を解いている五〇人の女生徒が今にも目に浮かぶ。

 だから、そんな彼女たちの為にも待ってあげよう。


 ——しかし、教室でいくら待とうが一人もここに来ない。

 おかしい……何かがおかしい……ぼくがチョコレートをもらえないなんて。

 一度、今日一日を振り返ってみよう。

 休み時間とか、誰もチョコレートを渡しに来ないから、いつもより女生徒の周りを行ったり来たりして目が合ったのにもかかわらず、誰もチョコを渡す素振りもない。

 それと! 授業後も黒板消しで人のために尽くすできる男アピールかつ黒板をわざとゆっくりと消して、誰かがぼくに気づくように仕向けたのにも関わらず、誰も見向きもしない!

 他にも色々とアピールをしたのだが、誰も反応なし。

 どういうことなんだ……

 ポツンと廊下側の自分の席に座っているぼくは悲しみに暮れる。そんな時であった。ぼくの今後の人生を変える会話が廊下にいる二人の男子生徒によってなされる。

『おまえ、チョコレートをもらえたか?』

『いや、もらえていないよ』

『おまえも貰えなかったか。だったらカップルあみだでもやるか?』

 カップルあみだ、なんか聞いたことあるなー。

 確か、バレンタインデーの日に彼氏彼女がいないうちの学校の生徒だけが参加できるサイトで、インターネット上のあみだくじでカップルを決める。強制的に付き合わなければならないし、別れることができないと聞いた。

 ぼくたち一年生と上の二年生が付き合うことだってあるってことだよね……嫌だな。

 同級生と先輩だったら個人的にだけど同級生の方がなんか知らないけど付き合いやすい。

 この気持ちわかってくれる人いるかなー。

 まぁ、それ以前にいきなり知らない人と付き合えってなるこのカップルあみだなんて全面的に反対だけどね。

 ましてや、好きな人がいるぼくが、好きでもない人と付き合うなんて無理でしょ?

 だから、カップルあみだを反対しているし、絶対にやらない。

『でも、知らない人と付き合うんだろう? そんなの嫌だなー』

 よくぞ言ってくれた。廊下にいる見知らぬ男子生徒Bよ。

 ぼくと同じ意見だ。

『いやいや、おまえ分かっていないなー。カップルあみだで可愛い女子と付き合えたりすんだぜ』

『いや、それでも……』

『ここだけの話、おまえの大好きな副生徒会長様が応募しているぜ』

『それ、ほんとかよ‼ 桃香様が参加してるって‼』

『ああ、このサイトで誰が応募をしているのか閲覧ができるんだ——ほら、見ろよ』

『うわ! ほんとだ‼ 桃香様が応募してる!』

 えー⁉ あの副会長も参加してるのかー?

 それは驚き。

 学園で一番可愛いと言われ、他校からも可愛いと評判があり、男子生徒から絶大の人気を誇る副会長は簡単にどんな男だって付き合える女。なのにもかかわらず、なんでカップルあみだに応募しているんだ?

 まぁ、どうでもいいか、そんなこと。

 あいつのことは嫌いだから。

 所詮、カップルあみだなんて子供のお遊び。

 すっかりとカップルあみだに興味を失くしたぼくは帰り支度を始める。

『他には誰が応募しているんだ?』

『他には——』

 次の瞬間、胸の高鳴りを抑えきれずぼくの心臓が破裂するんじゃないか、と思われるぐらい衝撃的な言葉が耳に入る。

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