第6話 (和人目線)
公園のベンチに座って、純に電話をかける。普段は電話なんかしないけど、今は急いでるからしょうがない。純、あんまりスマホ見ないからな。せめて着信は音出る設定だといいんだけど。
レソレソレミシ。
呼び出し中の音が鳴る。まだかなー?
「もしもし和人?」
「遅い、純。緊急事態だ」
「どうかしたの?また先生の悪口言ってるところを本人が通りかかったとか?」
緊急事態を何だと思ってるんだ。それは日常だ。
「落ち着いて聞けよ。蓮が誘拐された」
「え、そんな訳あるか。…犯人お前でしょ?」
よく分かったな。でもここで認めると昨日からの苦労が台無しだ。蓮も辛かったかもしれないけど、オレだって疲れた。まあ蓮からすれば『殴った方も痛いんだよ』みたいな暴論だろうけど。
「ちげえよ」
「じゃああいつの自作自演。昨日エイプリルフールだったよね?準備が間に合わなくて今日になったんだよ多分。そういうとこ甘いよね」
核心を突くな核心を!確かに昨日思いついたから間に合わなかったけど!
純はもう犯人がオレだと思ってないからさらに容赦無いダメ出しを続ける。
「しかもさー、蓮が誘拐されるってシナリオ自体に無理があるよ。あいつは自覚しないようにしてるみたいだけど、よっぽどのことが無きゃあいつの注意深さを出し抜けないだろ?それよりはまだあいつに誘拐を納得させる方が簡単だ。でもそれならお前に渡る情報は『緊急事態』じゃ無いはずだ。全体的に杜撰なんだよ」
これが同い年かと思うとゾッとする。蓮もそうだけど、頭が回るやつと一緒にいると自分の常識を疑いたくなるし、自分だけ駄目な気がして不安になる。だってこれで小4になる前だぜ?ちょっと信じられない。
「じゃあ蓮が適当だったんだろきっと」
「そんなことするかなあ?俺はまだお前が犯人だと思ってるんだけど」
「やってねえよ」
まだ思ってたのかよ。しつこいなあ。何か良い言い訳は…
あ。蓮に手紙書かせたの忘れてた。うわー、やらかしたー。こういう状況になる前に出せって言われてたのに。まあでも無いよりましか?ポケットの中身を探す。…あった。
「純、今ひま?」
「暇じゃない。でも何かやってるなら誘ってよ。俺もやる」
「じゃあすぐに公園まで来い。それから全部説明する」
「りょーかい」
純はあっさり電話を切った。確かあいつの家からここまでは自転車でも10分くらいだから、まだすぐには来ない。ポケットから出した手紙のシワを伸ばして、もう一度スマホをつける。昨日の夜に考えたシナリオを読み返すためだ。
まず何故オレに連絡が来たか。ここを筋道立てて説明出来ないと、純は華麗なUターンを決めて家に舞い戻ってしまう。バレリーナか、と頭の中で何回突っ込んだことか。
え、その数だけ勧誘に失敗してるだろって?細かいことは片っ端からスルーするのが一番いいんだよ。それが幸せの秘訣だと勝手に思ってる。
で、オレに連絡が来た理由。それは簡単だ。
『蓮の親がオレに話を振ってきたから』
これで解決。
なんで純には連絡が行かないんだって思う人もいるかもしれないけど、それも簡単。蓮の親と純は知り合いじゃないからだ。蓮の親は父親も母親も純に会いたがってるんだけど、なんのつもりか純はしれっと逃げ続けている。
多分自分が不真面目な悪友だってことを認めたく…つーか認められたくないんだと思う。学校では感じが良くてちょっと抜けてる優等生だからな。まあそれが頭の良さで何となく作ってみた性格だって知ってるオレと蓮はいつも脳内で笑ってるんだけど、多分その性格が思いの外ハマったんだろう。
だんだん目的とは離れたことを考え始めていると、公園に子供用自転車が近づく軽い音が聞こえてきた。…ヤバい、まだ1個しか考えてない!恐る恐る振り向いて道路を視界にいれる。
制服を着た近くの私立小学校の男子が結構な安全運転で通り過ぎていった。ひとまず胸をなでおろす。あっぶねー、ギリギリセーフ。
純の前に立ってその場で言い訳を考えるなんてのはかなり無謀だからな。いや、蓮ならできるのかもしれないけど。
ともかく、次だ。どこを伏せて、どこを伝えるか。伏せたい情報はよっぽどのものじゃ無い限り、犯人がうまくやっててオレも知らないってことで良いだろう。
百均の腕時計に目を落とす。蓮はオレのことを金持ちの子供だと思ってるみたいだけど、特にそんなことは無いんだよな。
純が来るまであと5分。
悪ふざけは程々に 西悠歌 @nishiyuuka
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