第5話 (蓮目線)
夜、目が覚めた。
さっき、手足の拘束が弱くなったから眠れる気がするとか言ってから、多分1時間も経っていない。まだ時計とかは取り上げられたままだから確実じゃないけど、そんなに遅い時間じゃないと思う。
よし、もう一度寝るかと思って目を閉じる。流石にこのまま起きていると、暗闇に耐えられなくなる気がしたから。目をつぶりながら明日のことを考える。
明日は何時くらいに帰れるかな?純が早く助けてくれればいくらでも早く帰れるんだろうけど、知識はあっても応用力に欠けるタイプの純が上手くやってくれるとは思えない。長い一日になりそうだ。
あー、眠らないと。
そう思うのに体は元気で眠れる気がしない。だんだん焦りが増してくる。眠らないと、早く寝ないと、休まないと、意識を落とさないと。
眠れない眠れない、眠れない。
そのうち、恐怖が僕の脳内を支配し始める。僕はあとどれくらいこうしていれば良いんだろう。ここから逃げて明るいところに行きたい、でも和人のせいで逃げられない。
いやだなー、こんなくだらない状況、誰も面白がってくれないよ。…誰に話すつもりも無かったのに、当時の僕はこんな風に思っていました。自分の恐怖から目をそらすのに、丁度いい気がしたのです。
30分後。僕はまだ眠れずにいた。恐怖感が薄まることは無く、本当にそろそろ限界なんじゃないかと思っていた。所詮小学4年生だ。自覚はある。
「なんでもいいです、誰か助けてください」
誰にも届かないと分かっているのに、そう言わずにはいられない。
「誰も助けてくれないよ。でも大丈夫、お前は大丈夫。だって感情から逃げるの得意じゃないか。」
そんなことを自分に言い聞かせてみる。一応、事実だった。僕はこのころから感情に向き合わずに適当に切り離して生きているようなところがあった。そしてそれを便利に使ってもいた。
「そうだね。なら僕は恐怖から逃げようと思う。」
「良いと思うよ。おやすみなさい、いい夢を。」
自分と自分で会話して、僕は眠りにつくことができた。ひょっとすると、昼間さんざん寝たからだけじゃなくて緊張してたからって言うのも眠れなかった原因なのかもしれない。
翌朝、いい気分で目を覚ます。まあまだクローゼットの中なんだけどね。和人も目を覚ましたみたいで、
「おはよう蓮。そろそろ純が助けてくれるぞー」
なんて言いながら部屋を出て行った。朝ご飯を食べるんだと思う。
いいなー、僕も何か食べたい。昨日の朝ご飯以来、何も食べていないから、お腹が空いたのを3回くらい通り越して吐きそうだ。気分がいいのはあくまで気分だけの話。和人がなにか分けてくれることに期待する。
「じゃあ今から純を騙してくる!」
僕の体感で15分くらい後、和人は高らかに宣言した。いや…
「おいちょっと待て誘拐犯。せめて水を置いていけ」
でも、僕の必死の叫びは和人には届かない。必死さが足りないのかな?
「いやー、誘拐だから。人質甘やかしてどうするんだよ?」
お前こそ、友達苦しめてどうするんだよ?そろそろ狂言誘拐って設定も危ういぞ、これだと。
「それにお前の親も、お前は丈夫だから明日までは大丈夫だって言ってたしな」
いくら僕の親でも、何も食べずに1日過ごせるなんて言うわけ…ああ、あるかもしれない。
「どころか飲まず食わずで3日は大丈夫だとか言ってたぜ」
やめて。普通に無理だから。いやまあ人間の構造的に考えれば死なないのかもしれないけど(よく知らない)、確実にどこかが壊れる。
「わかったよ、水だけだからな」
多少不機嫌そうな顔で和人は階段を降りていった。ちょっとして水筒を持って戻って来る。
「これ以上はなにもやらない」
言いたいことは色々あるけど、取り敢えず水があれば大丈夫だろう。
あとは。
「なあ犯人」
「何だ被害者」
「純に僕が誘拐されたって言っても、多分お前が犯人だって思われるだろ。だから僕が助けてって手紙を書いた方がいい気がする」
まあそれでも信じてもらえないと思うけどね。僕が誘拐されたとして、自分に助けを求めてくることは無いって思ってるだろうから。
「それ良いな!」
何も考えていないのか、和人は即答した。そして紙とペンを持ってくる。
「これに書け」
いつもより雑な字で、なるべく純が来てくれそうな字を書く。
「はいこれ。証拠求められる前に出せよ。じゃないとわざとっぽさがすごいから」
「サンキュー」
和人は手紙をポケットに突っ込む。大丈夫かな?あの雑さだと純、信じない気がするんだけど。
「じゃ、トイレは部屋の中の以外行くなよ」
…そうだよなー、こいつ自分の部屋にトイレあるんだよな。他にもテレビとかこたつとか。ちっちゃい冷蔵庫まである。金持ち?それかホテルでもやってんのかな?
「今度こそ行ってくる」
金持ち疑惑、狂言誘拐計画立案者兼犯人の問題児は僕の口に再びガムテープを貼り付けると部屋を出て行った。
静けさが訪れる。
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