第4話 (蓮目線)

…しばらく考えた末、またドアを叩く。

「今度は何だ?」

一回ガムテープを外してほしい。でないと何も話せない。


ドアを叩き続ける。

「何だよ?」

ドンドンドン。

「一回開けるぞ」

流石にちょっと心配そうな声がした。


ドアが開いて和人が顔をのぞかせる。約8時間ぶりの強い光に無性に安心した。

「どうした?」


「ガムテープ外せ」

なるべくそう聞き取れるようにうなる。

何回か繰り返していると和人が理解した顔になった。それから楽しそうな表情になる。こいつ多分Sだ。


和人は僕の顔に手を伸ばすと、勢いよくガムテープをはがした。

「痛いなあ」

「何でそんなに反応薄いんだよ」

「そんなことよりお前、僕の親に連絡したのか?」


…「あ」

『あ』じゃねえよ。どうすんだ、今から言い訳すんのかなりキツイぞ。誘拐だ警察に通報したら人質の命はない、とか言ったら間違いなく通報されて大事になるし。


「お泊り会は?」

一応提案はしておく。でも

「そしたら蓮が言えってなるだろ。でもお前は人質だから、人と接触させるわけにはいかない。だから無理」

和人は当然のように却下する。


「じゃあもう言っちゃえよ、狂言誘拐だって。許可を取らなくて申し訳ないけど、純を騙すまでは蓮は返せないって」

「言えるかそんなこと」

じゃあやるなよ馬鹿が。まあでも伝えることは伝えといてやろう。


「僕の親こういうの好きだから、多分大丈夫だよ。行き過ぎたいたずらとかさ」

僕はあれを反面教師にしようと思ってたんだけどな。

「それが今では立派な後継ぎか。面白いな!」

「何も面白くないよ。跡継ぎでもない。どっちかと言えばそれはお前だろ」


和人は意外にもちょっと寂しそうな顔をした。

「そうかもな」

うわあ、こわ。何なんだろうこの意味深な動きは。そう思ったけど口にはしない。

「そろそろ電話しろよ。いい加減通報される」


「じゃあなー。ちゃんと許可もらって帰って来るから」

僕の口にガムテープを貼り直すことなく、和人は部屋を出て行った。


それにしてもどうしよう。流石にこの強さで2日縛られていると体に悪い気がする。確か圧迫されてたのを一気に外すと体中に毒が回るとかテレビでやっていたから。和人が戻って来たら交渉しようかな。あと、ガムテープもなくしてもらえると助かる。意思疎通の方法がないのがこんなに面倒でストレスが溜まるとは思わなかった。


それから、食べ物と、自由にトイレに行く権利が欲しい。あと、薄い掛け布団も。まあここまで来たら明日も誘拐され続けることになるんだろうけど、それならもう少し基本的人権を尊重してもらわないと困る。


こんな事を考えてドアの外を見つめていると、和人が笑いながら帰って来た。そろそろこいつの笑顔、トラウマになりそうなんだけど。


「お前の親すごいな。『楽しそうだねー、蓮わりと丈夫だから明日までは大丈夫だよ、まあ怪我とかしないようにねー、あ、違う、やっぱりしてもいいけど後遺症残らない程度にしときなねー』だって」

…だと思ったよ。なんなら蓮の泣き顔見られたら写真撮って送ってとか言ったかと思った。


「ああ、それも言ってたよ」

ひどい親だ。それと、ひどい友達。

「ところで和人。ちょっと話し合いしないか?」

「いいよ、人質」

誘拐犯から許可が出たので、僕はさっき考えていたことを伝える。


誘拐犯は少しだけ考えて、

「毒ってどれくらいなんだ?」

と言う。

「下手したら死ぬって」

テレビを思い出しながら答える。


途端和人は目の色を変えて僕のロープを解き始めた。いや…。

「お前話聞いてたか?急にほどくとまずいんだから、一旦キープするのが普通だろ。何なの、事故を装って殺そうとしてるの?」

「ごめんごめんごめん!違うよ!ただ解いた方が良いかと思って!」

まあ別にいいけどね。


…って言うかめちゃくちゃ痛いなこれ。さっきまでの比じゃない。今この瞬間に限るなら、多分死んだ方がましだ。一回和人にやってみたい。リアクション目当てで。


「じゃあ僕を殺しかけた罪滅ぼしってことで、他の条件は全部飲め」

「わかったよ」

意外と素直だった。もうちょっとモメる場面かと思ったのに。


「じゃあお休み、問題児」

「ああ、また明日、後継者」

「いや、仮に僕が跡継ぎだとしても、お前のでは絶対に無い」


電気が消えた。取り敢えず手足が自由になったから、まだ眠れる気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る