第2話 (蓮目線)
…それから5分後。
「よーし、今からお前を誘拐する。」
和人が高らかにそう宣言した。僕らは今こいつの部屋にいる。
「じゃあまずは親に連絡させろ。和人が下手やって通報されたら困るから。」
僕は常識を考えてそう言った。なのに、和人は当然のように断りやがった。
「んなことしたら誘拐になんねえだろ。はい、スマホ没収な。」
それはないだろ、と思った。もし何かあったらどうするんだ。
「何かあっても助けてもらえないのが誘拐だろ?違うか?」
正論ではあるけど、子どもの遊びでやって良いことじゃない。
「早く渡せって。」
…色々言いたいことはあるけど、仕方ないので大人しく渡すことにする。だって、和人は僕より力が強いし、変に争ってるとスマホ壊されるかもしれないから。それに、監禁されてからだったら簡単に奪われるだろうし。
スマホを受け取って、問題児は悪魔のように笑った。ああこれは間違えたか、僕が抵抗しないタイプだってわかったから調子に乗ったかもしれない。
…いや、あんまり関係ないか。もとから僕の性格知ってるはずだし。
目の前の悪魔はニヤニヤしたまま自分の机の下に潜り込んで、何かを手に掴んで戻って来た。
「何、それ。」
見れば分かるけど、一応聞いておく。僕の想像が外れている可能性を考えて。
「ロープだよ。見りゃわかるだろ。」
「ロープは分かる。それで何をするつもりなんだ?」
それも見れば分かるけどね、お前の顔を見れば。
「お前を監禁する。まずは手を出せ。」
前で縛られたほうが楽そうだなあ、と思って両手を揃えて和人に向ける。すると和人は
「ちげーよ、前で縛ってどうすんだ。逃げれるだろそれじゃ。」
なんて言いながら僕の手を後ろに回した。
ちょっと痛い。
「じゃあ次は、足だな。」
「わかったわかった。わかったからあんま強くやらないでよ。外す時に急に血が通って痛いらしいから。」
「それじゃリアリティ無いだろ。純に解いてもらって、それで激痛に泣き叫ぶといい。お前の泣き顔見たいなあ。」
そして笑いながら足をきつく縛る。こんなに性格歪んだやつだとは思わなかった。まあ確かに僕はこいつの泣き顔よく見てるけど、自分のは見せたことないかもしれない。そもそもほとんど泣かないし。
「いや、だからって強すぎない?既に泣きそうなんだけど。」
初めからここまで痛いとは思わなかった。この馬鹿力が。
「じゃあ泣いても声が出せないようにしてやるよ。」
もう何も抵抗出来ない僕の口に、和人はガムテープを貼り付けた。
何で人を監禁するのに必要な道具が全部部屋にあるんだよ。ほんとに小学生か?
僕の疑問も虚しく、和人はクローゼットのドアを開けた。一応横になれる程度の広さがあることを確認して、少し安心する。
「蓮が逃げたら純騙せないから、もうちょっと確実に…。」
不気味なことを呟きながら僕を中に押し込む。机の下からもう一本3mくらいのロープを出して来て、僕の足とクローゼットの柱を繋ぐ。
これ純に外せるのかな?
「じゃあ助かると良いな、蓮。純に期待して待ってろよ!」
楽しそうな和人は、クローゼットを施錠して出ていった。
…。こうして僕は和人の部屋のクローゼットの中に監禁された。こんなに本格的にやるか?普通。手と足は縛られるわ、口は塞がれるわ、スマホは取り上げられるわ。それでクローゼットと部屋にも当然のように鍵をかけていったから、ひょっとして僕は助からないんじゃないかとすら思えてくる。
もし口が塞がれていなければ、エイプリルフールっていうのは嘘をついても良い日であって何をしても良い日じゃないってことと、実際にやったら嘘にならないから純を騙すことにもならないってことを懇切丁寧に説明したい。
でも誘拐にノリノリな和人が僕を解放してくれる見込みはないので、せめて体力を温存するために、僕は眠ることにした。
全く馬鹿げた話ですよね。小学生が狂言誘拐だなんて。ひどい世界ですよ、ほんと。
なにはともあれ、僕の人生が本格的に狂い始めたのは、だからこの時ということになります。
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