悪ふざけは程々に
西悠歌
第1話 (蓮目線)
こんにちは、はじめまして。救いようのない世界在住、中学3年生の巡間蓮です。以後お見知りおきを。
…誰に対して自己紹介してるんだって思いました?それはもちろん読者の方に向けてですよ。
この物語は、たまにメタい話が混ざってくるタイプの話ではありませんし、なんなら物語ですらないのかもしれません。
『恵まれん』なんてふざけた名前と、現実に起こっているとしたらにわかには信じられない馬鹿みたいな人生から僕が推測したに過ぎませんから。
ただ、もしこの世界がいわゆる現実なのだとしたら、僕と二人の友達はきっと小学校を退学になっています。あれだけ迷惑をかけているのですからまあ当然です。それなのに未だに怖い先生に怒られて終わり、なんてことがまかり通っています。これはおかしい。
…僕の判断の根拠は、だから大したことはありません。ほとんどがフィーリングによるものです。
なので、これはひょっとしたら誰の目に触れることもない、僕の妄想なのかもしれません。ですが僕は自分が誰かによって全てを決定される、物語の登場人物であることに一定の自信を持っています。
僕がそれを自覚したのは、小学生の折り返し地点に立った頃です。それまでは特別なことが無い代わりに酷いことも無く、ごく普通に生きてきました。
やらなきゃいけないことはやって、なにか楽しいことはないかと放課後は遊び回って、自分のことを平均より少し上だと思っているような、すごく月並みな人生だったと胸を張って言えます。最も、ちょっと冷めたやつだったとは自覚していますが。
その平和な日常が徐々に瓦解し始めたことに気が付いたのは、忘れもしない4月1日。春休みの真っ只中、エイプリルフールのことでした。
「れーん!今日何の日かわかってるよな。」
4月馬鹿どころか、常に馬鹿やって騒いでいるクラスメイトの
ちなみにこいつは名前と正反対の性格の問題児で、平和さの欠片も無いような奴だ。行事があるたびに、悪ノリじゃ済まされないぐらいの盛り上がりを見せる。
「エイプリルフールだろ。それがどうかしたの?」
すると、見た目だけはやたらと美形な問題児は唇を左右均等に釣り上げた。
「約束、覚えてるだろ。忘れたとは言わせないからな。」
何かあったっけ?
本当に約束した記憶が無かった僕は脳内を探し回る。それでも約束とやらは見つからなかったので、完全にただの予測で会話をつなごうとしてみた。
「ああ、一緒に純のこと騙そうね。」
途端、和人の作り笑いが本物の笑みに変わった。なんだ、合ってたのか。こいつが単純で本当に良かった。
「なんて言えばあいつ信じるかな?バウムクーヘンの木があったとか?」
「それは流石に有名な嘘って知ってるだろ。純、知識はあるから。」
「えー、そうか?」
今こいつに、うちの庭の木の枝はブッシュドノエルだって言ったら信じるだろうなあ。おめでたい奴だから。なんて考えているうちに、問題児はとんでもないことを思いついてしまった。
「じゃあオレ誘拐されようかな。狂言誘拐。」
本当にやりたいなら僕が計画を立ててもいいけど、責任は全てお前が負うって契約書書いてからな。そう言おうと思ったけど、言ったら間違いなく本気にするから止めておいた。
ってか素直に。
「やめときなよ。親にバレたら通報されるでしょ。」
「良いだろ別に。パパもママもいつもオレのこと叱るばっかりなんだよ。誘拐されて心配させたいじゃんか。」
「目的は純を騙すことじゃなかったのか?大体お前の親も、お前の将来心配してるから叱るんだろ。これ以上迷惑かけられるか!」
「じゃあ蓮が誘拐されろよ。」
うわあ、思わぬ火の粉が降り掛かってきたなあ。まあでも、和人が被害者役よりは良いか。親には自分で連絡しておけばいいし。
こんな呑気なことを考えていた自分を、僕は未だに許していません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます