第2話
「念のために聞くが、この装置を動かすために膨大な電力が必要などという事はないだろうな?」
「ご心配なく。そのようなオチではありません。単三乾電池二個で稼働します。そして一度形成されたフィールドは一年間消えません」
「それはいい。しかし、それでは今度は我が国の外が寒くなるぞ」
「総理。この氷河期の中、どの国も生き残ろうと必死です。よその国の心配をしている場合ですか?」
「んむ。そうだな」
そして一か月後、極秘のうちに装置が製造された。
全世界が氷河期の中、日本列島だけが温かいフィールドに包まれた。
しかし、日本だけが温かくなっては、他国から怪しまれる。
そのために、文句を言ってきそうな国にも装置を密かに売り渡しておいたのだ。
日本から装置を売り渡された国は、後ろめたさから他国には極秘で装置を使用したのである。
その結果、一部の国だけが温かくなり、その他の国は熱を奪われたために余計に寒くなっていったのであった。
装置を売ってもらえなかった国々は、とうとう背に腹は代えられず危険な原子力を使い始めた。しかし、まともに使いこなす技術のない国々が、そんなものを使って無事で済むはずがない。
各地でメルトダウンが相次いで起きた。
それでも、人々は原子炉の使用をやめない。
使わなければ凍え死ぬしかないのだ。
だが、いくら原子炉を動かしても、国全体は温かくならない。
原子炉の排熱で、多少は氷河期も緩和されると期待したのだが。
「まるで熱が、どこかに盗まれているみたいだな」
ある国の学者がそう呟いた。本気でそう思ったわけではないが、実はそれが正解だったのである。
装置を稼働して一年後、唐突に氷河期は緩和された。
いや、装置を稼働する前の状態に戻っただけで氷河期が終わったわけではないが、それでも原子炉に頼らなくても済むぐらいの気温に回復したのである。
ただ、日本を含め一部の先進国は壊滅状態になっていた。
装置を使っていた国々である。
原子炉の排熱をフィールドはどんどん吸収していったために、フィールド内は大変な高温になってしまった。
しかし、一度発生したフィールドは一年間消えることがない。
フィールド消える直前には、どの国も灼熱地獄と化していたのである。
氷河期 津嶋朋靖 @matsunokiyama827
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