第5話

 どのくらい走っただろう?


 日頃から運動不足だったBは、前方に停車しているタクシーが見えてきたところで立ち止まってしまった。


 他の仲間は、立ち止まったBにかまわず走り去っていく。


「冷たいなあ」


 周囲を見回すと、誰もいない。


 しかし、もう走る余力のないBは、とぼとぼとタクシーへ向かって歩いていく。


 程なくして、タクシーのところまで行くとCとDがタクシー運転手と話をしていた。

 

 CがBの姿に気が付いて話しかける。


「Bさん、やっと来たか。Aの奴は?」

「え? Aさん? 私が最後じゃなかったの?」


 考えてみれば、Bが立ち止まった時に先に走り去っていったのは二人だけ。


 一人少ない。


 Aはテニス部に所属していると聞いていた。


 少なくとも、帰宅部で運動オンチなBより遅いはずがない。


 Dの方を見ると、タクシー運転手と話していた。


「だから、そっちにトンネルなんてないって」

「でも、私たちさっきトンネルを抜けてきたのですよ」


 ここで仮眠を取っていたところを起こされたタクシー運転手は、やや不機嫌そうだが彼らの話を聞いてくれていた。


 この運転手は、いつもこの辺りを流しているらしい。


 そして彼の話によると、この先にトンネルなどないと言うのだ。


 そしてこの先に別れ道もない。


 ではAはどこに?


 とにかく、いつまで待ってもAが現れない事から、三人はタクシーに乗せてもらい、元来た道を引き返していった。


 しばらくして、ヘッドライトが付けっぱなしの車が見えてくる。


 タクシーを降りて近づいて見ると、ヘッドライトだけでなくエンジンもかけっぱなしだった。


 Aはすぐに見つかる。


 彼は運転席に座っていたのだ。


「Aさん。逃げなかったの?」


 Bの呼びかけに、彼はまったく反応しない。


 ただ、虚ろな目をして、何かを譫言うわごとのようにブツブツと呟いている。


 Aは気がおかしくなってしまったらしい。

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