第4話

「みんな! シートベルトは閉めているか?」


 運転していたAが、唐突にそんな事を叫んだ。


「え?」「していないけど」

「ベルトを閉めろ! 今から急ブレーキを踏んで、この化け物を吹っ飛ばす」


 それを聞いて、全員慌ててシートベルトを閉めた。


 それを確認するとAは……


「いいか。みんな、しっかり掴まっていろ」


 車に強い制動が掛かり、みるみる速度は落ちていく。


 Bは、助手席の背もたれを押さえて、Gを堪え忍んでいた。


 Gが弱くなったところで、恐る恐る視線を前に向ける。


 女は、何事も無かったかのように、相変わらずフロントガラスに貼り付いていた。


「だ……だめだ!」「引き離せない」


 フロントガラスに貼り付いている女は、口を動かして何か話しているようだったが、車内に声は聞こえてこない。


「寂しい」


 不意にDが呟くように言った。


「え? どうしたの? Dさん」

「いえ、あの人の唇の動きから見て、そう言っているみたいなのだけど……」


 どうやらDは、読唇術が使えるらしい。


「あの人『一人は寂しい。一緒にいて』って言っている」

「俺達に一緒にいろってか?」「冗談じゃない!」


 Aは再びアクセルを踏み込み、車を急発進させた。


 トンネルの出口が見えてくる。


「いいか。トンネルから出たら、みんなで車を降りて逃げるんだ」


 冷静に考えるなら、この状況で車外に出る方が危険なように思えるのだが、誰もAに反対する者はいなかった。

 

 恐怖のあまり、正常な判断力が失われていたようだ。


 やがて、車はトンネルを抜けた。


 車を路肩に停止させると、Aは叫ぶ。


「逃げろ!」


 その声を合図に、みんなは一斉にドアを開き、車外へ駆け出していった。

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