第3話

 Dの指さす先に目を向けると、透き通ったてのひらのような物が、フロントガラスの左側に張り付いていた。


「なに、あれ?」

「さあ? 私もさっき気が付いたのだけど……」


 掌は助手席側に張り付いているせいか、運転しているAは気が付かないようだ。


 助手席にいるCは、ロードマップを調べるのに夢中で気が付いていない。


「ねえ、あんた達」


 Dは、前席の男二人に呼びかけた。


「フロントガラスに、変な物が貼り付いているわよ」

「「え?」」


 その時になって、AとCは異変に気が付いた。


「な……なんだ、これは?」「手袋じゃないのか?」

「いや……これは、どう見ても……人の手……」


 そこまで言って、CはAの方を振り向く。


「おまえ、まさか? この車で人をいたのじゃないのか?」

「バカ言え! 俺は今まで無事故無違反だ」 

「じゃあ、この手はなんだよ!? おまえじゃなくても、お前の親父さんが……」

「親父は、免許を持っていない」

「じゃあ、この車の前の持ち主が……」

「これは新車だ!」


 口論している男達に、Bは恐る恐る声をかけた。


「ねえ……車を止めて調べてみたらどうかな? ビニール手袋が、貼り付いているだけかもしれないし……」


 車がトンネルに入ったのはその時だった。


「ひっ!」


 その光景を見て、Bは思わず息を飲む。


 今までは、透き通った掌が貼り付いているだけだったフロントガラスには、血塗れの女が逆さまに貼り付いていたのだ。


 今まで見えていたのは、この女の手だったのだ。


「きゃあああ!」


 Bの横で、Dが大きく悲鳴を上げる。


「うわああ!」「なんだ!? こいつは!」


 前席の男達もパニックに……


 血塗れの女は、何かを訴えかけるような視線を車内で狼狽うろたえている四人に向けていた。

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