(39)有馬家リビング③
「「「「き、強化??」」」」
「ちょ、ちょっーと待って晃君!強化っていったい何!?私にいったい何したの???」
当たり前のように晃が答える。
「今回のような、不測の事態に対応できるようにしました。 」
「ぐ、具体的に。そしていつの間に?」
「神経伝達速度強化。筋細胞基本性能、及び分裂能強化。骨組織構成要素強化。補助脳機能の増設。通信機能の増設。それらを含め、身体メンテナンスの環境整備とホメオスタシスの強化、及び補助機構の増設。と言ったところですかね。実装は、助けた時に飲み薬を渡したと思いますが、あれは、ええと、そうてすね、ナノマシンのようなものだったので、飲み薬の服用時ですね。服用と同時に急ピッチで強化が実装されたはずです。殴られた所はもう痛くもかいくもないでしょう?」
「えええー?晃君、酷い。相談くらいして欲しかった。聞いてると私って人間?ってなるんだけど。」
晃は頷きながら、「そうですね、でも必要なので。もちろん人間ですよ? 」と、事も無げに言った。
「あ、晃!そんな言い方があるか!本人にも、保護者である私達にも何の相談もなく、そんな訳のわからないことをして許されるわけが無いだろう!!直ぐに元に戻すんだ!!」
今度は激昂し始めた基隆が詰問するが。
「そうですね、しかし、恵姉さんが危急の時、ご家族は状況を知ることすら出来ていなかった。だから、危急に対応可能であった僕が動き、対応し、対応可能な准保護者として、今後の対策を行った。元に戻すと言う件てすが、一部に不可逆な部分もあるので、このまま運用することを推奨します。」
と言い、それの何処に問題が有るのかと、言外に込めて晃は基隆を見かえす。
「。。。 」
言葉に詰まる基隆。
「酷い言い草だとは思いますが、それが、僕に関わることになった有馬の家の現実です。つまり、恵姉さんだけのことではないと言うことです。 」
そう言いながら、晃は何処かから、4本のドリンク剤(?)を取り出しリビングのテーブルに置いた。
「これは、恵姉さんが服用したものと全く同じものです。皆さん、ご自身の判断で服用してもらえると助かります。僕はこれから、僕に敵対した馬鹿共を殲滅してくるので、それが済むまでは、このマンションを閉じさせてもらいます。」
「ま、待って、晃君!! 」
立ち去る素振りを見せた晃を、恵が慌てて呼び止める。
「何ですか?恵姉さん。 」
ドリンク剤(?)、恵姉さんはもう飲んだから必要ないでしょ?そう言いたげな感じで問い返す。
「わ、私も、そのうち、角が生えたり羽や尻尾が生えたり、体中毛だらけになったりするの?サメみたいな口になっちゃうの?それは、その、気を悪くしたら申し訳ないんだけど、、そうなるのは、私は嫌なんだけど。。」
一瞬戸惑ったように、凶悪で鋭く尖った歯が並ぶ口を半開きにする晃だったが、ようやく合点がいったように口を開く。
「ええー?!ああ!!それを服用すると、この形態になると思ったってことですね。いえいえ、そんなことにはなりませんから安心して下さい。昆虫とかでは無いですから、発生の時以外には大きな形態変更は難しいです。まあ、出来無いわけではないですが、少なくとも、そのドリンク剤(?)にはそんな機能は有りません。僕のコレは別の身体を用意して乗り換えています。そのドリンク剤(?)は、基本、服用することで、少し身体が早く、強くなって、少し健康になって、少し健康の維持が簡単に出来るようになる。そういうものだと考えてもらえば良いと思います。」
そう言って、再度踵を返そうとしたが、思い出したように立ち止まり、基隆、涼子を見た。
「ああ、言い忘れましたが、遠山興業に投資など行っているのでしたら、早々に引き上げることをお勧めします。遠山興業が、もう終わり、かどうかは判りませんが、創業者一族の醜聞が明るみに出ればダメージは計り知れません。醜聞と言うより、有り得ないレベルの悪行、端的に犯罪ですね。あれだけの犯罪ですから、公表すればダメージも推して知るべしで、楽しみなことです。犯人蔵匿罪、証拠隠滅罪、証人等威迫罪など色々問われるのではないですかね。」
晃は、遠山一族を経営する会社も含め、完膚なきまで叩きのめすつもりらしい。確かに、社長の令息の犯罪歴や、隠蔽の方法を暴露されると、大企業とはいえタダでは済むまい。
「あ!ま、待て、晃。遠山の息子や、その親に対して許せない気持ちなのは判るが、会社に回復不能なダメージを与えるのは考え直してくれ。いや、犯罪を隠蔽しろというわけではないのだが、、、もちろん、投資が惜しいとかでもない。ただ、遠山の企業に勤めるのは、ほとんどが普通の会社員だ。倫理観の欠如した一族が経営する会社に入社した、自身の不明、不運を呪えと言ってしまうのは、あまりに不憫すぎる。しかし、、、」
晃の思惑通りになると、遠山興業の社員は、かなり肩身の狭い思いをすることになるだろう。それだけではなく、職を無くし、路頭に迷うこともありえる。基隆は、他社の社員とはいえ、それはあまりに気の毒だと思ったようだった。しかし、犯罪を隠蔽しろとも言えず、ジレンマに陥っている。
「、、、なるほど、確かにそうですね。まあ、そのことについては少し考えてみます。では、後の対応については適切にお願いします。僕は殲滅に向かいますので。」
そう言うや否や、晃は存在したことが疑われるように消えてしまった。リビングに沈黙が落ちる。
「 。。。私、お風呂入って着替えてくる。」
少しして、恵はそう呟くと、自分の部屋から衣類を持って来てバスルームに消えた。思いの外しっかりした足取りだったが、心配した薫が一緒について行った。
恵と薫が入浴している間、誰も喋らない。基隆は忙しなくノートパソコンを操作して、遠山興業関係の株の売却準備を行っているようだった。取り敢えず、売却はするようだ。崇は何度かリビングを出入りした後、ネットで調べ物をおこないつつ、誰かとチャットで情報交換をしている様子。涼子は無言で考え込んでいる。
入浴を終えて出てきた恵と薫が席についたのを受けて、有馬家の家族会議が再開された。
まずは恵から報告があった。
「歯磨きしていたら奥歯の詰め物がはずれて、歯医者行かなきゃと思って、鏡で見たら、、、治療した跡が無くなってた。」
沈黙で答える家族。
「あと、コンタクト取ったら、隣に居るおネエちゃんの顔も見え難かったんだけど、今、コンタクトしてないけど、普通に見える。多分、近視が治ってるんだと思う。」
これに関しても、皆、頷くに留めた。
その後、恵から今日の経緯について、晃が話したことに対する補足と追認があり、概ね晃が話したことで間違い無かったことが確認された。
しばらくの沈黙の後、薫が口を開いた。
「私は、このリポD飲むわ。リスクも有るのは理解しているけど、何だかんだ言っても晃君は私達を身内と認識して対応してる。そうでなければ恵を助けない。おそらく、このリポDについても、マスト、絶対に必要と思ったから私達に提示したんだと思う。」
手を伸ばそうとする薫を、慌てて基隆が静止しようとした時、何処かで着信音が鳴った。どうやら崇が連絡を待っていた様子で、躊躇無く携帯電話を取った。
「もしもし?え、もう始まりそう?判った。」
そう、短く話をした後、携帯電話を切り、テレビのリモコンを操作して電源を点けた。メニューを操作してネットに接続する。ユーチューブのライブ配信メニューから独立系のニュースサイトを選んで表示した。
「何だ、崇?何かあったのか?」
大事な家族会議の最中に電話に出て、いきなりテレビを点けた崇に、少し苛立ちを滲ませて、基隆が問う。
「晃君『殲滅する 』って言ってたでしょ。それ始めるみたいで、ニュースサイトでニュースになってる。まあ、今はUMAが居るって騒がれているだけだけどね。」
「ユーマ?」
「未確認動物。Unidentified Mysterious Animalsを略してUMA。」
「。。。何で殲滅?を始めたと判る?」
「いや、あれ。あそこに映っているビル、黒水組の本部ビルだから。」
崇が指した先には電柱の上でしゃがみ込み、通りの反対側を見ている異形の存在が映っていた。その視線の先には5階建てで、周囲の建物と何ら変わりのないビルが建っている。3階にサンドバッグが吊るしているのが見えるので、そこには道場でも有るのかも知れない。そこは、ヤクザのビルらしいとは言える。
「 。。。」
有馬家のリビングが沈黙で満たされた。
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