(35)2週間前の家族会議①

 有馬基隆は、2週間ほど前から非常に具合が悪い。別に体の具合が悪い訳ではない。メンタルが疲弊しており、家庭内での立場が無いと感じている。


 もちろん原因は、晃が有り得ない方法で、押しかけて来たからだ。(婚外子をもうけたことこそが根幹たが。)


 そして、都合の悪いことに、勘が良い妻の涼子に、晃が隠し子であることをズバリと指摘されてしまい、上手く誤魔化すことが出来なかった。具合が良いはずはない。


 それに晃自身のこと。あいつは一体何なんだ?


 あの夜、晃が霞のように消えた後、急遽家族会議が開催日された。基隆と涼子、次女の恵、偶々在宅していた長女の薫はもちろん、独立して実家に寄り付かない長男の崇もTeamsを使ってネットワーク越しに参加させられた。


 基隆はその傲慢さから、有馬本家の人間だと誤解されることが多いが、実際には、有馬一族ではあるが血はかなり薄く、辛うじて親族?と言える程度の家の出身だった。ただ、その優秀さで、グループ企業で頭角を現し、本家の長女である涼子と縁が出来て、結婚に漕ぎ着けた。つまり婿養子だ。そして、今では幾つものグループ企業で社長を勤めている。涼子の父親である有馬ホールディングス会長の信頼も厚い。


 ただ、婿養子だから恐妻家と言うことはなく、どちらかと言えば亭主関白の部類だった。これは涼子が非常に出来た女性だったから、その一言に尽きた。本家の長女だと言うのに涼子は、謙虚であり驕らない。中国に「ただ謙のみ福を受く(人は謙虚にして初めて幸福を受けることができる)」と言う古典があるが、それを地で行くような女性で、結婚する前も後も基隆を立て、支えてくれる良い恋人、良い妻であり続けた。


 しかし、涼子は謙虚で驕らないだけの女性でも無かった。こうと決めた時には、声を荒げようと、懐柔に走ろうと、頑として受け入れること無く意志を貫く。そう言う強さをも併せ持った女性だった。


 家族会議は晃のことを有耶無耶のままにはしないという意志の現れだったのだろう。


**********

有馬家家族会議(2週間前)


 開口一番、涼子は「有馬家に次男が居ることがわかりました。」と言った。長男の崇向けの説明だったが、涼子は端倪すべからざる女性なので、唐突に過ぎる嫌いがあった。


 実際、唐突過ぎて、Teams画面の○に"有崇"タグの付いた動画の中で、口を半開きにした崇が言葉に窮している。


「ママ、いきなり過ぎて、兄さんが困ってるわよ。」


「あら?そうなの。」


『あ、ああ、母さん、いったいどう言う話?まあ、父さんの顔色を見れば、何となく想像出来るけど、もう少し細かい説明をして欲しい。』


 涼子は、薫にたしなめられて、その日、起こったことをかいつまんで崇に説明した。


 とは言え、細かい話では無く、マンション倒壊事故の被害者で、基隆がお世話していた少年が、新居の手配のお礼に来たが、実は隠し子だったことが発覚した。程度の話だったが、それだけでも大変な話であり、家族会議が行われる理由としては十分だった。


『へー、そんなことがあったのか。じゃあ、その晃君は、そこに引き取ることになるのかな?、、、あと、父さんと母さんは離婚するの?』


 崇の言葉にきょとんとする涼子だったが、崇の言葉を吟味すると、酷く一般的で普通の反応であることに気付き、言葉を足した。


「ああ、そうね。普通はそんな話になってもおかしくは無いわね。ちょっと、普通じゃあ無いことがあったので、崇の言葉にびっくりしちゃったわ。離婚の話だけど、私は離婚するつもりはありません。パパのことを愛していますし、どうやらお相手は随分前にお亡くなりになっているようですから、時効と言えなくも無いようですし。」


 その言葉を聞いて、とっさに父親の顔色を見た兄妹三人だったが、普段は鉄面皮の基隆の表情が若干揺らぎ、血の気がさしたのを、それぞれ確認した。


「すまん。。。ありがとう。」


 涼子の言葉に、基隆は言葉少なく、謝罪と感謝を表して、頭を垂れた。


「うん。まあ、どんな経緯でとか、細かい説明はこの後二人の時に聞くわ。何れにしても暫くはチクチク嫌味位は覚悟してね。」


「ああ。」


 涼子はそう基隆と言葉を交わした後、改めて崇に向かって言葉を続けた。


「で、今のところ、晃君をウチで引き取る話はないし、彼もそれを望んで居ないと思うわ。何でかと言えば、びっくりするほど落ち着いた感じで、普通の人間とは思えないから、色々と詮索されたく無い秘密があると思うの。同居人が居ると説明が面倒になるから同居はしないんじゃあないかな。まあ、変な理由だと思うし、本人が望めばウチで引き取っても良いのだけど。」


 あっさり、心配された家庭崩壊の危機が終了した後、続けて出た母親の言葉に、姉妹はウンウンと頷いている。


 崇はと言えば、同じように家庭崩壊の危機が終了したことには安堵したものの、腹違いとは言え、自分の弟はどんな人間なのかと不安になった。


 父親同様に有能で鉄面皮と評判で、将来を嘱望されている青年だったが、家族の中では不安を隠す必要も無かったので、ストレートに不安気な顔をしている。


『何なのそれ。僕の異母弟はどんな奴なの?』


 母親と娘達がお互いを見つめ合い、長女の薫が口を開いた。説明は薫に任せたと目線で合意したらしい。


「超能力者?のようなものだと思うけど、どんな類の力で、何が出来るかは良く判らない。一端は垣間見たけど、何の負担も無い様子だった。私の勘でしかないけど、出来ることはあれだけじゃあ無いと思う。マンションが倒壊して、新しく住むことになったあの家とか、ちょっと前まで廃屋って感じの建屋だったはずなのに、契約したばかりで、今日見た時には新築みたいになってたのも何らかの力を使ったんだと思う。どんな力を使えばあんな新築のようになるか判らないけど。パパが別人のように人が変わったと言ってたのも気になる。パパの口ぶりだと前はもっと普通の少年だったようだし。後、気になるのは、血縁と知る前に私が結婚して欲しいと言ったことに対してママが、兄妹だから駄目って言った時、子供が出来て、遺伝子エラーがあっても簡単に直せるから問題ないと言ったこと。それって超能力とかの範疇じゃあ無くて、超科学とか?、超医学とか?何なのいったい。って感じ。」


『は?』


 崇には妹の言葉自体は理解出来たのだが、真っ当な社会人が真面目に口にするような内容とは思えなかった。取り敢えず、実際に体験したらしい『垣間見た』ことについて聞いてみた。


『その、、、『垣間見た』のはどんな能力だったんだ?』


「テレポーテーション」


『え?』


「テレポーテーション」


『、、、それを見たのかい?』


「ううん。見たんじゃあなくて、自分達を移動してもらった。いきなりリビングに入って来たから、どうやって入ったって話になったんだけど、説明が面倒臭いから話したくないとか言われたのよ。それでもはっきりさせないと、セキュリティ上問題だってことで、実演しろって話になって、家族皆で実演に立ち会った。」


『立ち会ったって言うのは、実際に移動したってこと?』


「そう。ここから西山町にある晃君の家までテレポテーションで移動して、晃君の家からここまでテレポテーションで帰ってきた。」


『、、、薫、冗談を言ってるのか?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る