(31)逆鱗②

「え?」


 田所は、現在、敵対組織(笑)を迎え撃つ準備中だと晃は認識していたが、それとは別に、晃たちに影響する何らかの画策を始めたのだろうか。


 ミカに「どう言うこと?」と先を促す。


「主が、本物の動坂下晃だった場合の保険として、有馬恵を拉致する計画をたてて、その実行を指示したの〜。」


 ミカ達の情報だと、田所達の中で、晃は、敵対組織(笑)が仕立てた偽物との結論になったと思ったのだが、そうでない可能性も残していたらしい。


「え?有馬基隆は、遠山興業の上得意じゃあなかったの?直接の顧客じゃあなくても、組長達の兄である遠山興業社長の上得意先の家族を拉致るのは、さすがに不味いのでは?恵姉さんは、僕のような婚外子ではないのだから大騒ぎになるよ。」


「う〜ん。勝つためには、あらゆることを考慮する必要がある〜って言ってた〜。敵のことが何も判らないから、凄く危機感があるみたい〜。どんな仕事でも、はい・そさえてぃ〜な顧客を得るには、信用が凄く大事なんだけど、今回、それを台無しにすることになっても仕方無い〜とも言ってたの〜。一応、自分達が関係ないってことにするために、無関係な半グレを用意したみたい〜。自分達が、預り知らないところで、馬鹿者が女の子を拐って、イタズラするっていう、ありきたりなシナリオなの〜。主が本当に有馬に縁があるなら、確保した有馬恵を盾に対応するの〜。シナリオの最後は、半グレも、有馬恵も、気持ち良くなる為に使った、コカインの急性中毒で死んじゃうってことになってるの〜。」


「。。。」


「これで、田所は保険を確保出来て〜。万が一の不測の事態にも対応出来るし、不幸な事故が起こっても、悪い影響は起きないって言ってたの〜。」


 晃は、ミカが話す田所の身勝手な計画にあ然とした。と同時に激しい怒りを覚えた。


 晃は今の状態になって、自分が変わったと言う意識はあまりないのだが、以前のように精神的に動揺することが無くなったのは自覚していた。また、怒りや悲しみと言った激しい感情が湧くこともなかなか無い。


 違うと感じることは有る。それは、確定的に妥協が出来なくなったことだった。仕方が無い、難しい、悪目立ちできない、色々考慮して、などと思っても、そんなことは知ったことでは無いと自然に切り替わってしまう。


 おそらく"災厄"の属性と言うのか、性質と言うのか判らないが、その類の方向付けに反する為、妥協の類は、キャンセルされるのだと思っている。


 それは、晃にとって恐ろしいことだった。自分の意思と"災厄"の属性乃至性質のバランスに、倫理観がどれほど影響を与えられるか判らないからだ。今度のような場合は良い。倫理観は後押しすらするかもしれない(?)。


 しかし、そうでない場合、倫理観が行動の方向性に関与出来なければ、元の"災厄"よりも、なお悪い怪物になってしまうかもしれない。


 とは言え、今はそのことを考えても仕方が無いと切り替える。今は忌々しい田所のことだった。


 田所が自身の保身のために、保険と称して危害を加えようとしているのは晃の異母姉だ。確かに、これまで全く交流は無く、異母姉が居ると知ったのも最近でしかない。顔を合わせたことすら一度だけだ。つまり、ほとんど関わりも愛着もない。


 しかし、晃の側に属する人間であるのは、間違いない。無茶を承知で言って見れば、晃のモノだ。取り立てて大事だという思い入れはないとしても、クズに壊されて良いものでは決して無い。


 そう考えると、更に怒りが湧く。田所は晃のモノに薄汚い手を伸ばそうとしている。それどころでは無い。絶望の淵に落とそうと画策しているのだ。そんなことが許されるのか?許されるはずはない。


「ちょっと出かけて来る。ミカ、ナビしてくれるかな。」


「は〜い」


「佳純姉さん。遠山のことはお願いしますね。後で合流するつもりですが、佐智がナビしますから。佐智頼んだ。」


 佳純と佐智が声を揃えて「はい。」と返事をするや否や、晃はミカ共々、霞のように消えた。自分の空間に移動したようだ。


「佐智さん。晃さんは何処に?」


「掃除?」


「。。。」


 詳しくは判らないが、デーモンによる殺戮が行われることになるのを二人は了解した。


**********



「きしょ!!きしょーい!!さ、触るなーー!!」


 恵の怯えを含んた甲高い声が激しく拒絶を訴えるが、取り囲む柄の悪い男達(まだ10代に見えるので、少年達と言うべきだろうか。恵と殆ど違わない年齢で、中には年下も居るかもしれない。)は、ニヤニヤしながら恵の手足を掴み、無理矢理制服を剥ぎ取ろうとする。


 学校帰りに街に出て買物をした。その帰り道でイキナリ路肩に停まったバンに引き摺り込まれた。後部座席をフルフラットにした車両に、あっと言う間に引き摺り込まれ、口を塞がれた。バンは国道を人気の無い方へ、無い方へと走り続け、気が付けば信号もないような田舎道を走っていた。


 本来、良家の子女である恵は、何時もであれば警備会社の送迎がある。しかし、今日は友達と買物に行くために断っていた。


 お気に入りのショップで買物をして、カフェで取り留めのないお喋りに興じ、先程、ようやく最寄り駅まで戻って来て、駅で友達と別れた。その帰り道での出来事だった。有り得ない間の悪さ。


 そして、今。既に全く人気が無い道に入ったことを見定め、少々騒がれても問題無いだろうと、口を塞いだ手を放し、衣服を剥ぎ取ることに注力し始めた少年達に対して、恵は必死で抵抗している。その真っ最中だった。


 バンとは言え車中で、いくらフルフラットにしていてもそれほど広くもない。運転している少年以外の3人と恵がそれぞれ占有出来る空間はごく狭い。つまり逃げ場は殆ど無い。


 恵の左側に居る少年は恵の左腕を掴み、胸を鷲掴みにしてワサワサと卑猥に揉みしだく。右側に居る少年は恵の右腕を掴み、髪の毛の匂いをフガフガと嗅ぎながら、柔らかい胸を押し潰して感触を堪能している。恵の正面に居る少年は必死で閉じようとする恵の脚を力任せにこじ開けようとしつつ、滑らかな太腿をいやらしく撫で擦って楽しんでいる。


「い、いや!放せー!は、放しでぇーーー!さ、触らないでよーー!!お母さん!お母さん!!!!だすげてーー!!!!」


 恵は恐怖と嫌悪で本気で泣き叫んで手足をバタつかせようとしているが、纏わりつく少年達の力には叶わず、衣類はどんどん乱れ、既に半裸な状態になっている。


「おい!お前ら、最初にヤルのは俺なんだからな!向こうにつく前、俺の車を汚すようなことをしやがったらぶっ殺すぞ!!」


 運転席から妙に甲高い声の恫喝が飛ぶ。


「ひひっ、判ってるよ。お前が直ぐハメれるように剥いてるだけじゃあねーか!」


 恵のスカートを脱がそうと奮闘していた少年が運転席からの声に反応して軽口を叩く。


「女の服を剥ぐ約得くらいあっても良いだろ。文句言ってんじゃあねぇ!?グエッ!!?」


 軽口を叩いている間に恵を押さえ付ける手元がお留守になっていたようだ。無我夢中で暴れる恵の足が少年の拘束を逃れ、股間を強かに打ち据えた。


「☓☓☓!☓☓〜〜!!」


 股間の痛みに声にならない叫び声をあげて転げ回る少年。運転席の少年を含め、少年達3人はゲラゲラ笑っている。


 少し痛みが引いて何とか動けるようになった少年は、脂汗が浮き出る顔を真っ赤にして、「クソが!」と叫びながら恵に飛びかかるや、馬乗りになって激しく恵を打擲した。何度か殴打され、ぐったりする恵。


「はぁ〜、はぁ〜、ふ、ふざけやがって!!思い知ったか、クソ女!使えなくなったらどうしてくれるんだョ!!お前はおとなしくヤラれてりゃー良いんだよ!!」


 恵に馬乗りになって興奮している少年に、運転席から再び怒声が飛ぶ。


「おい!てめー!それ以上は許さねーぞ!ボコボコにしてジャガイモみたいになった女なんて、やってても楽しくねーんだよ!!!」


運転手はそう言った後、突然「うぉ!?」と、驚愕の声を上げ、「あっーーー!!」と叫んだ。と同時に、大きな音と衝撃が車体を襲い、車は急停車した。


「ドーーン!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る