(26)襲撃④
佳純を見送った晃と佐智は、弱々しく呻く玉置達を一顧だにしない。
「佳純さんも少しは気分が晴れたかな?」
「多分ね。嬉しそうだった気がするわ。」
それどころか、少しでも佳純の気が晴れて良かった等と話している始末だ。
「ところで、最初の強烈な羽ばたきとか、風の刃って、魔法だよね。この空間にも魔素を散布してるの?」
「ああ、そうだけど、あの佳純の身体は魔物の身体だから、体内に魔素の結晶を持ってるの。魔法はそこから魔素を得て発動しているわ。少し効率を上げる為に魔法陣を仕込んたりしてるけど。空間の魔素は肺にある器官で吸収されて、結晶に補充される感じかしら。」
「え、それって。」
「そう。魔素は神々の残滓、というか死骸と言ったことがあったと思うけど、魔物は神々の残骸ってところ。」
「へー。それは凄いね。」
そんなことを話ながら何事も無かったかのように帰ろうとした晃達だが、見ると空地に面した道には結構な数の人が群がっていた。
まあ、佳純が車を破壊した時の音はなかなか盛大だったので、何事かと集まってもおかしくない。馬鹿共がぶっ放した拳銃の音も大概だった。
しかし、遠目にも玉置達が質の悪い奴らだと判ったので、遠巻きにしていた、と言ったところだろうか。
そこへ、帰るために空地を出ようとした晃と佐智が近付いて行った。一見、普通の高校生に見えるので、群がった人々は次々と質問してくる。
「ねえ、あなた達、一体何があったの?車が凄いことになってるし、大きな鳥みたいな、ヒトみたいなのが飛んで行ったし。」
「怖そうな人に囲まれてたけど、大丈夫っだたのかい?」
「いや、怖そうだったけど、あの人達、大丈夫なのか?凄く血が出ているようだけど。」
等々、それに対して、さあ?とか、何なんですかね、謎ですね。とか当たり障りのない話をのらりくらりと話していたのが良くなかった。
サイレンを鳴らしながら、パトカーが2台到着してしまった。
晃達に最初に話しかけた年配の女性が、警官に近付き、虫の息のクズ共や晃や佐智を指差し、身振り手振りを交えながら何か説明しているようだ。彼女が通報したのだろう。警官の内、2人が女性の話を聞き、後の5、6人はクズ共の方に走っていく。
「ありがとうございました。ええ、判りました。彼らに話を聞いてみます。」
粗方、年配の女性の話を聞き終えたのだろう、女性にお礼を言った後、警察官が2人、晃と佐智の方に来て、通報を受けて来たと説明した。氏名と学校名を聞かれ、状況の説明を求められた。
「大丈夫ですか?あなた方がヤクザ風の男達に絡まれているとの通報を受けたのですが。もっとも連絡を頂いた時とは状況が変わったと聞いています。通報をくれた女性も混乱している様なので、何があったかあなた方も教えてくれますか?」
顔を見合わせる晃と佐智。私が話すと身振りで佐智が提案し、晃が肯いたところで、クズ共を見に行った警官の一人が青褪めた顔で寄ってきて、晃達と話をしていた雲形巡査部長に小声で話しかけた。聞こえていないと思っているようだったが、晃達には普通に聞こえていた。
『酷い有様です。。。』
『どうすればあんな風に出来るのか判りませんが、全員、手足だけが念入りにぶっ壊されてますね。』
『全員?ぶっ壊されている?』
『ええ。全員、手足がぐちゃぐちゃですね。』
『15人全員が、あ、違いました。1人爆発?したような車の破片が頭部に刺さって、死亡している方がいましたので、その方以外の15人ですね。えーと、手足を二度と使えないほど壊されてます。一概に切られたとか殴られたとか判らない感じです。何度も切られ、何度も殴られた?多分ですが、切除するしか無いんじゃないですかね、あれは。』
『それから、全員が銃を所持していまして、あの場で乱射したようです。ただ、、、弾頭も薬莢と大して離れていない所に散乱してまして、かなりの近距離で乱射してますね。数えては無いですが、薬莢の数と発射された弾頭数が変わらないように見えました。空き地で、壁があるわけもないのに、銃弾をどうやって弾いたんですかね?』
『・・・』
雲形は、女性の話と部下の報告が想定外すぎて、高校生に何をヒアリングするべきか思い悩んているようだった。
「判った。現場を保存して、鑑識と救急の手配など引き続き対応してくれ。」
凄惨な現場を目の当たりにして、気持ちが悪そうにしているので、気の毒ではあったが、職務なので仕方がない。そんな顔をして部下を送り出した後、再び晃達に視線を向けた。
「あー、何と言うか、我々が想定していた状況とは全く違うので混乱していますが、あっちの状況を部下達が確認したところ、君達に絡んできたと思われる男達は銃を乱射した痕跡があります。そして、その男達はかなり激しい暴行を受けています。それらのことについて知っていることが有れば教えてもらえないでしょうか?」
丁寧に話しているが、表情も口調も先程より硬く厳しい。
「ええ、良いですよ。」
にこやかに返し、間髪入れず話し始める佐智。
「あそこで倒れているのは、私達姉弟(きょうだい)を拉致して殺害しようとした、銀杏会系二次団体黒水組の玉置久とその部下達です。玉置久は職業的殺人者なので、殺人を犯す時に死体を残さないようにして、犯罪事実を隠蔽しますから、先ずは拉致しようとしたんだと思います。殺害しようとした動機は、私達の同級生、遠山幹からの依頼。遠山幹は遠山興業社長の息子で、遠山興業社長の遠山樹は、指定暴力団銀杏会組長の丹原司と、銀杏会系二次団体黒水組組長の丹原巧の腹違いの兄です。その繋がりから、組内部でコロシの請け負いをしていた玉置久に私達の殺害が依頼され、ここに来たようです。」
特に気負うこともなく、知っていることを話せと言われたから話していると言った感じで、驚愕するような話をつらつらと語る佐智。
「ち、ちょっと待ってく、ださい。」
予想もしなかった具体的な名前が出た上、地域部自動車警ら課では接する機会が少ないマル暴関連の名前や、地域で知らない者が居ない地元有名企業の社長の名前が出てきて、雲形は目を白黒させる。
「な、何故そんな具体的な話しを知っているんですか?根拠や証拠も無しに他者の名誉を疵付ける発言は、罪に問われることがありますよ。」
「もちろん根拠も証拠もありますよ?証拠が必要なシーンになれば提出しますけど、必要になることは無いような気がします。でも、あそこで呻いているクズ共の身元が判明すれば、ある程度の根拠にはなるでしょ?」
「ク、クズど。。。いや、ある程度の根拠になると言うのは、その通りですね。」
平然ととんでもない話をする女子高生に、雲形は唖然とした。普通、犯罪被害者はもっと怯えているものだが、この高校生達はそんな素振りが全く無い。
当初は可愛らしい高校生に半グレかヤンキーが絡んでいる程度の認識で出動したのだが、実際に来てみれば、確かに絡みたくなるのが分かる美しい少女が居た。しかし、既に絡んだ方は撃退されて、ありえない程にボロボロの有様。
しかも、浮かれて絡んだとかではなく、殺害目的だったとの発言が飛び出し、どう受け止めれば良いか判らなかった。そこで、そのことに関する判断は保留して、他の疑問点について聞いてみた。
「貴女が今話してくれたことは、すぐには裏付けが取れませんから、他のことをお聞きしたい。その、、、貴女達を拉致しようとした男達は、かなり激しく暴行されているようです。誰がそれをやったのか、知っているなら教えて下さい。通報してくれた女性が見た大きな鳥?が、、彼等を暴行したのでしょうか。判る範囲で教えて下さい。」
「。。。う〜ん。詳しく話しても意味がない気がするから、ざっくり話しますね。」
佳純の詳しい話など、苦しみ抜いていた佳純を救えなかった警察に知らせる必要は無いだろう。もちろん、警察には知りようが無かったのは、判っているから責めるつもりもないが、知らせる気もない。
「私達は帰宅途中に突然囲まれ、無理矢理、この空地にいた玉置のところに連れて来られたんです。すごく怖かった。そこに、いきなり何かが空から落ちてきて、玉置達の車の1台が真っ二つになりました。びっくりしましたね。何が起こったか判らず呆然としていると、砂埃の中から鳥のような人?鳥の人?が車をぶっ飛ばしながら現れ、更に驚きました。玉置達は敵だと思ったのか判りませんが、鳥の人にいきなり発砲し始めて。また、びっくりしました。拳銃ってあんな音なんですね。でも何か、全然当たっている感じじゃあ無かったです。だって、鳥の人は平然としてたし、血が出たりしてなかったから。弾が無くなったのか、発砲が止まると、今度は鳥の人から何かが沢山飛んできて、あっと言う間に玉置達はあんな感じになっちゃって、鳥の人は飛んでいきました。そんな感じかな?」
判る範囲で教えてと言ったものの、結構、荒唐無稽な話で、どう解釈すれば良いのかと雲形は思い悩んだ。だか、通報者の目撃したこととも、概ね合致するし、ヤクザ者10数人をこの高校生達がぶっ壊せたとも思えない。
「はぁ〜」
さっきの話とはベクトルが全く違うが、対応に困るのは同じだった。大きく溜息をつき、ありのままを報告して上司から叱責されることを覚悟した。
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