(04)デーモン②
『では、大前提について共通認識が形成出来たので、次のお話をします。』
お前は化け物になった!!と言われ、次の話をすると言う。世界を喰らうスケジュールでも提示されるのだろうか?身構える晃。
『次にマスターがしないといけないことは特にありません。強いて言えばお待ち頂くことでしょうか。』
身構えていた晃は肩透かしを食って『は?』と何度目かの間の抜けた聞き返しを行った。
『今、マスターには意味をなさない感覚情報が流れ込んできていると思いますが、その調整を私が行います。各種の情報をマスターが受け取れるようにコンバージョンもしなければならないので、プログラムのようなものも必要になります。更に、機能の洗い出しと実装が発生するので、そこそこ時間がかかるでしょう。その後は、"災厄"自体の記憶を整理したり、ストックされた諸々を棚卸しして把握しなくてはなりませんが、その方法についても検討が必要です。実際の棚卸し作業になるとどの位の時間がかかるか全くわかりません。まあ、その辺りは逐次実施して行くことになるでしょう。これ迄のところで何かご質問はありますか?』
事務的なリサーチの話は違和感が半端無かったが、聞きたいことが無いわけはなかった。
『ええと、僕と同じく、さ、災厄に喰わ、いや吸収されたと言われていましたが、何故、調整?作業とか出来るんでしょうか?』
自分は何も把握出来ていないのに、このリサーチと言う存在は、境遇的に同じであるにも関わらず把握出来ていることが多いように感じた。
『私は吸収された後、アーカイバーにより解凍されるまでの何処かの時点、或いは要所要所でカスタマイズされているのだと思います。汎用的に"災厄"の利益になるように調整され、今回、生体恒常性を保つためにマスターを支援出来るような調整が行われたと考えられます。誰が調整したとは聞かないで下さい。私にも判りません。ホメオスタシス。そういうしかないですね。』
『元々無かった、"災厄"を調整するための知識が埋め込まれていますし、敵に鹵獲された場合にはサボタージュの行動計画策定ルーチンが起動するはずですが、起動どころか存在すら確認できません。もちろん私は宇宙船の人工知能でしたから、航法システムも内包していましたし、ハードウェアに対する制御インターフェイスもあったはずですが、それらも確認出来なくなっています。少なからず兵器も積んでおり私の制御下にあったはずですが、、、存在は確認出来ますが、回路は閉じているようです。そもそも破壊されたはずなのですが、何処かに再建造されたのでしょうか。最大の変更は国家に対する忠誠の上位に、マスターに対する忠誠が埋め込まれたことでしょう。ただそれは、王に対する臣下の忠誠の様なものではなく、最も近しい者に対する義務の混じった忠誠のような感じでしょうか。回答になりましたか。』
晃は返答に窮した。回答にならなかった訳では無く、喰われ、その後も完全に死ぬことも許されず意思に反して"災厄"に、つまり晃に使役される。そのことに罪悪感が湧いたからだ。
『ああ、そんなことは気にすることではありません。立場的にはマスターも私と変わらないですから。同じように喰われ、死ぬこともできず、"災厄"の中に囚われている。先程、話させて頂いたカスタマイズ云々の話は、マスターにも当てはまります。それほど現状に拒否反応が出なかったのはその証拠ですし、縛りは私の場合とは比べ物にならないほどキツイと思いますよ。』
晃は愕然とした。心の底でボンヤリ考えたことも伝わってるみたいなんだけど、プライバシーは?身体こそ無いが、相手に伝えたいことだけが伝わるものと思い込んでいた。しかし、そうでは無いらしい。
そんな困惑についてもリサーチはツッコミ気味に返答してくれる。
『まだ現状に馴染めないのは分かりますが、個別のルーツがあったとしても、現状は1個体の機能的な別に過ぎませんからプライバシー?そんなものは有るはずも無いですよ。ご理解下さい。』
ショックを受けている晃にリサーチが冷めた視線を向けるのが分かる。やはり、さっき感じたリサーチからは晃が見えているのでは、というのは正解なんだと思った。
『まあ見えてますよ。取り敢えず色々疑問質問はあると思いますが、追い追いにしましょうか。ところで、私からも何点か質問がありますのでご回答下さい。』
やはり、見えているらしい。だから何なの的なリサーチの話しっぷりに諦めながら、晃は質問を受けると心の中でうなずいた。
『ありがとうございます。まず1つ目は、"災厄"となられた訳ですが、これまでの"災厄"の行動を踏襲して、このマスターの生まれた世界を喰って廻りますか?』
何度目になるか、『は?』と間の抜けた聞き返しを行った晃は、『そんな訳あるか!!』と食い気味に突っ込んだ。
『そうなのですか?"災厄"は恐ろしいことに慣性で動いてた様なのですが、この神をも凌駕するエネルギー体の慣性ですから間違いなく引き摺られると思っていました。それなのにそんな素振りもないというのは予想外です。そもそも、"災厄"の器に入ったのに人格変容も見られない(?)ようなのは、はっきり言って有り得ないですね。』
リサーチの言葉の端々に怖気を震うような素振りが感じられるが、質問について考える。
確かに最近は嫌なことばかりだったし、自分は不幸な人間の部類に入る気がしなくも無いが、だからと言って世界を滅ぼしたいと思う訳も無かった。この自称人工知能は何を言っているんだろう?晃としてはそう思うしか無い。
『。。。自称では無く、私の出自は人工知能ですから感情と言う偏向は発生の初期段階で淘汰する機能が実装されています。しかし、この件に関しては畏怖の念を抱かずにはいられません。つい最近猿から進化したような若い種が何故"災厄"の意志や思考の器の中身足り得るのか。謎。謎ですね。』
つい最近猿から進化とか、ディスられているとしか思えない。確かに畏怖の念も伝わって来たのだが、いったい何に畏怖しているのか判らない。激しく対応に困り、そのことはスルーする。
『喰らって廻らないならどうしますか?世界征服とかを実施しますか?それとも星間戦争でも勃発させますか?ああ、済みません。それも意に沿わないのですね。何て我儘な。そうすると、相当暇になると思いますが。。。元の身体でも再現して、生前の生活に復帰しますか?』
『!!!』
晃は絶句した。今なんて言った?
『?!、再現って!それって生き返れるってことですか?』
あまり未練が湧かない人生だったとか思っていたが、晃にも未練があったようだ。生き返れるなら生き返りたいと思った。
『生き返る?まあ、そうとも言えます。元の遺伝子情報も記憶も全てストックされていますし、私が持つ再生技術の他にも色々な技術がストックされているようです。なので 、魔術?とか、仙術?とか、神術?霊術?まあ色々な再生が可能です。どうしますか?今から再生体を作成して、生前の生活をしばらく続行しますか?つまらないですよ?』
『ぞ、続行します!』
つまらない?人工知能は妙なことを言っているが、晃に続行しない選択肢は無かった。
『ふむ。。。分かりました。ではそのように。そこで引き続き質問です。現在、マスターであるところの"災厄"は、元居た世界から無理矢理召喚され、一部分がこの世界に突き出したような状態です。マスターが上から落ちて来て、着水したのがその一部分ですが、このまま放置するとマスターの世界の人間に騒がれ、不用意に近付かれて、制御が緩い現状で接触されれば、十中八九条件反射的に捕食してしまうでしょう。騒がれる前に私の方で制御して地下に隠れましょうか?』
『その上でマスターの肉体を再構成しつつ、索敵や現地調査、今後の方針検討などなどを行ったので良いでしょうか?』
絶望と不安しかない、訳がわからない状況だったものが、何故か何とでもなりそうな塩梅になって来たので戸惑いつつも安堵し『わかりました、お願いします。』と晃は返した。
『了解致しました。ではそのように。』
『次の件は我々が関知する必要が全く無い事案なのですが、現状報告と可能な対応についてだけご説明致します。』
『"災厄"が召喚された場所が、2棟の集合住宅の狭間であったために該当の集合住宅は召喚の衝撃を基礎部分に受け、2棟とも下層部分は完全に損壊しました。結果、集合住宅同士が根元から倒れ、互いにぶつかり合って、何れも倒壊した状態です。』
『深夜と言うこともあり、2棟で合わせて4000人以上の居住者はほぼ在宅だったと予想され、その被害は居住者とほぼ同数ではないかと思われます。もちろんその中にはマスターも含まれます。』
ああ、大惨事になると思っていたけれど、予想通りと言うか予想以上に大変なことになっているようだった。
『マスターの家族など親しくされていた方は当該集合住宅には居ないと承知しています。放置でも何ら問題は無いと思われますが、何らかの対応を行われますか?因みに、死亡していても、エングラム(記憶の実体とされる脳の神経細胞群)が無事であれば記憶の再生も可能です。肉体再生はどうとでも出来ますので、記憶再生さえ出来れば実質死者の蘇生も可能です。』
何かとんでもないことを言っているが、エングラムって何?死者の蘇生とか言われても対応に困る。どうしろと?死人が生き返るとか、大騒ぎになる。ただ、怪我をした人も半端なく居るのは想像できる。出来れば何とかしてあげたいが。。。そう晃が考えたところで、リサーチの方で答えを提示してくれた。
『了解しました。死者については蘇生可能な情報だけストックするに止めます。デットストックになっても問題有りません。怪我人については再生行為が可能なナノマシンを生成配布しておきましょう。エングラムは記憶の実体のことです。』
『では最後に、"災厄"とはかって私の国で呼び習わした通称です。可能な範囲で記憶検索も行ったのですが、似たりよったりの通称が付加されていた痕跡はありましたが、実際の名称は見つけられず、無い可能性が最も高いと思われます。だからと言ってマスターの元の名前を付けるのも適当では無い気がしますが、どうされますか?』
"災厄"の名前?晃が"災厄"になったと言うことならば、自身の名は自身で付けるべきなのか?親に貰った名前?無いな。じゃあ、通称のまま?"災厄"が自分の名前だと思うと悲しくなるなぁ。じゃあ、やはり自分で付けるか。そう晃が思ったところで色々な名前が註釈付きで意識を流れて来た。
どうもリサーチが流しているらしい。
しかし、古今東西、世界中の伝承や創作の悪鬼羅刹、邪神悪神、邪霊悪霊のオンパレードで晃は辟易せざる得なかった。その情報を何処から持って来たのかも不思議だったが、リサーチの"災厄"に対するイメージが酷い。
ふと意識を横切った註釈が目を引いた。
"鬼神、守護神、悪魔などを意味するギリシア語daimōnに由来し、本来は超自然的・霊的存在者を表す、あらゆる出来事を引き起こす真の原因と考えられており、突如として襲ってくる不可解で運命的な力は善悪を問わず・・・"
あ、これマシだな。厨二心も擽られる。そう思ったところで註釈付きの名前が意識を流れるのが止まった。
『では、古い語源や派生した名前など色々あるようですが、何れにしますか?』
"、、、デーモン、ダイモン、ディーマン、ディーモン、デモン、、、"
『そうですね。じゃあ"デーモン"で。』
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