第22話 罠

 盗賊団のアジトへやってきた。

 盗賊団のアジトは、森の中の洞窟に、鉄の扉が付けられているというものだった。

 だが、おかしい……。

 見張りがいてもいいはずなのに、それらしき人影は見当たらない。

 盗賊団はみんな中にこもっているのか……?

 作戦会議中なのか……?


 わからない……。

 とりあえず、中に入ってみることにしようか。

 なぁに、オーガとかに比べたら、盗賊団なんか所詮は人間だ。

 俺たちの相手じゃない。

 俺はまったくの無警戒で、アジトの扉を開けた。


 中に入ると、真っ暗な空間が広がっていた。

 しばらく無音が続く……。

 誰も襲ってこない……?

 どうなっているんだ……?

 そのときだった――。


 ぱっと灯りがつく。

 そして俺たちの目の前に、現れたのは――。


 真っ赤な長い髪に、するどい牙、大きな目、太った肉体に、超巨大な顎――。

 それはまさしく、化物と呼ぶにふさわしい異形の存在だった。


 洞窟の真ん中に置かれた椅子に、そいつは鎮座していた。


「な、なんじゃこれええええええええ……!?」


『化物ね……』


 おそらくその怪物は女性、なのであろう。

 大きく膨らんだ胸と、長い髪が非常に不気味だ。

 そして、その怪物の周りには、先ほどの盗賊団たちが恍惚の表情を浮かべて倒れている。

 盗賊団それぞれの肉体には、怪物から伸びた長い触手のようなものが刺さっている。

 これはいったい、どういうことなのだろうか。

 ここは盗賊団のアジトではなかったのか……?


 すると、その怪物はゆっくりと口を開いた。


「げへへへへへ。まんまとひっかかったわねぇ~。かわいい冒険者ちゃん」

「冒険者ちゃん……!?」


 俺は思わず、心の中できもっと思ってしまう。

 怪物の声は、しわがれたおばちゃんの声だった。

 いったいなんなんだこいつは……!?


「あたしはサキュバスのエミールよ~ん」

「サキュバス……!?」


 この怪物のどこにいったいサキュバス要素があるのか、甚だ疑問だ。

 こんなデカい唇の化け物に誘惑される男なんかいるのか……!?

 すると、俺の横で、モカが震えているのがわかった……。

 あまりのキモさに震えている……っていうわけじゃなさそうだな。

 モカは恐怖で震えているようだった。


「ど、どうしたんだモカ」

「だ、だって……サキュバスですよ……!? サキュバスって、魔族の一種です」

「魔族……?」

「魔族は言葉をあやつれる、魔物よりも上位の存在。その強さは、あらゆる魔物よりも上です……!」

「見かけによらず、強いってことか……」


 俺は鑑定スキルを発動させた。


~~~~~~~~~~~~~~

 サキュバス Lv7999

~~~~~~~~~~~~~~


 なるほど、なかなかつよいな……。

 

「盗賊団を乗っ取って、冒険者ちゃんをおびき寄せる……。我ながらすんばらしいアイデアだわ~ん」


 サキュバスは自分の髪の毛を愛おしそうに撫でながら、言った。

 そういえば……あの髪の毛……。

 盗賊団のナイフに絡まっていた髪の毛と、同じ色だ。

 俺は手に持っていた髪の毛を見る。

 

「ようやく気付いたわね~ん? そう、それは私の髪の毛よ~ん。冒険者ちゃんをおびき寄せるために、わざと盗賊団たちに持たせていたのよね~ん」

「なるほど……そういうことか……」


 なかなか頭の回るサキュバスのようだ。

 盗賊団が冒険者を狩ることができれば、そのまま冒険者を洞窟まで連れてこればいい。盗賊団が上手くいかなかった場合は、髪の毛をヒントとして置いて逃げる――。そうすれば、こうやって獲物のほうからアジトにやってきてくれるから、それをサキュバスが狩ればいいって、そういう作戦か。

 たしかにこんな見た目の怪物が白昼堂々襲ってきたら、みんな一目散に逃げるだろうからな……。

 アジトにおびき寄せてしまえば、簡単に狩れるってわけか……。

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