第21話 盗賊

 俺たちは次の街へ向けて旅の準備を整えた。

 フィエルさんは、冒険者ギルドでの仕事があるので、ここでお別れだ。


「トウヤさん……さみしくなります……。また、近くに寄ったらぜひいらしてくださいね?」

「はい、もちろんです」


『現地妻ってことね』

『うるせえ』


 俺もフィエルさんとしばらく会えなくなるのはさみしい。

 だけど、いざとなれば転移魔法ですぐに戻ってこれるのだ。

 フィエルさんのことは、俺が養ってもいいんだけど、フィエルさんとしては冒険者ギルドの仕事も続けたいそうなので、俺はそれを尊重した。

 冒険には、俺、モカ、リリシュの三人で旅立つことにする。


「トウヤさん……せめて、愛の証が欲しいです。私を忘れないでいてくれるっていう……」

「愛の証か……」


 俺はなんでもスマホを取り出した。

 そして、通販で指輪を注文する。

 かなり高級な婚約指輪を注文し、それをフィエルさんに渡す。


「こんなものしか用意できませんけど……。どうですか……?」

「トウヤさん……うれしいです。綺麗……」


 フィエルさんにだけだと、他の二人に悪いので、他の二人にも指輪を用意した。


「トウヤさん……ありがとうございます」

「その……ありがとう……トウヤ……」


 みんな、指輪を気に入ってくれたみたいだ。

 さて、じゃあそろそろ出発するかな。


「じゃあ、フィエルさん。お元気で」

「はい。次に会うまでに、私もギルドで出世できるようにがんばります! もしかしたら、ギルド長補佐にまでなってるかもしれませんよ?」

「はは……それはたのもしい。フィエルさんなら、きっと可能ですよ」


 俺たちはフィエルさんを残し、冒険者ギルドをあとにした。

 ここからは、馬車で移動することにする。

 俺一人なら、走って移動できるけど、3人なので馬車でのんびり旅がしたい。

 

 俺たちは街の入り口付近で、馬と馬車を買って、それに乗り込んだ。

 街を出て、草原を走る。


「ふぅ……気持ちいいな……」

「風がさわやかですぅ……」


 なんだかこうしてると、時間がゆっくり流れる感じがする。

 こうして美女二人と異世界をのんびり旅するってのも、いいかもしれないな。

 なににも縛られずに、ただ目的なく旅をする。

 束縛の多い日本社会に疲れていた俺にとっては、この時間は至福のものだった。


 しばらく草原を行くと、今度は森の中へ。

 森の中はすこしスピードが落ちる。

 森の中を進んでいると――。


 突然、茂みから、なにものかが現れた。

 モンスターか……!?

 と思ったら、どうやら人間らしい。

 現れたのは、15人ほどの悪漢。

 森をなわばりとする、盗賊のようだ。

 盗賊たちは、俺たちの馬車を取り囲むと。


「へっへっへ、美人なねえちゃんを連れているじゃねえか」

「これは上玉だな」

「痛い目にあいたくなければ、荷物と女をこっちによこしな」


 ナイフを舌でなめながら、盗賊たちが威嚇してくる。

 だけどそんなの、ちっとも怖くない。


 俺はスキル【百の手】を使った。


「百の手――!!!!」


 すると、盗賊団の後ろから、俺の手が何本も襲い掛かる。

 そして盗賊団の首を絞める。


「ひぃ……!? な、なんだ……!?」

「後ろから手が……!?」

「ば、化物……!?」


 俺は軽く首に手をかけただけだが、盗賊団は恐怖のあまり、それだけで失神して、その場に倒れた。

 倒れなかったものは、ナイフを落として逃げ出した。


「ひ、ひぃいいいいお助けええええええ!」


 ふぅ……他愛もない連中だったな。

 盗賊団は一目散に去っていった。

 

 盗賊団が去ったあとには、彼らの落としていったナイフや荷物が残っている。

 俺はそれを拾って調べ上げる。

 すると、明らかに盗賊団のものとは思えないような、赤くて長い髪の毛がナイフに絡まっている。

 おそらく、このナイフで髪の毛を乱暴に、無理やり切ったものだと思われる……。

 盗賊団はみな髪の短い男で、赤い髪のやつもいなかった。

 おそらくまだまだアジトに仲間がいるのだろう……。

 そしてこの髪の毛はおそらく、女性のものだ。

 状況証拠から考えるに……かなり悲惨な光景が目に浮かぶ。


「考えたくはないが……やつら、人を攫っているんだろうな……」


 俺がそうつぶやくと、リリシュが怒りをあらわにして言った。


「トウヤ、やつらを追いかけよう……!」

「え……? 盗賊を……?」

「そうだ。やつらはここらを縄張りにしている盗賊団に違いない。この道で、何人もの人が襲われて被害にあっているはずだ。それに……その髪の毛……放ってはおけない……。だろう……?」

「まあ、そうだな。リリシュの言う通りだ。追いかけるか……」


 リリシュは正義感の強いところがある。

 俺だって、こんなところを見てしまったら、無視して行くことはできない。


 俺は、失神して倒れて、置いて行かれた盗賊をたたき起こした。


「おい……! 起きろ……!」

「ふぇ……?」

「お前らのアジトに案内しろ」


 ナイフを突き立てて脅すと、盗賊はすぐに口を開いた。

 俺たちは盗賊団のアジトへと向かう――。

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