第16話 オーガ

 オーガのいる場所までやってくると、そこは地獄と化していた。

 大量の死体は、どれも巨大なオーガに踏みつぶされたあとがある。

 下級冒険者たちが束になってオーガへ向かっていくが、みんななすすべなく、オーガに引き殺されていく。


 そんな中、一人戦場に立ち尽くす人物がいた。

 赤い短髪の冒険者が、オーガに向かって一人で立ち向かっている。


「ここから先は、この私が絶対に通さないぞ……!」


 最初ボーイッシュな感じで、男かと思ったが、どうやら女性冒険者らしい。

 よくみると、モカにも負けないくらいの美人だ。

 目つきがきつく、性格も男勝りな感じがする。

 女性は、短剣ひとつだけでオーガの群れに立ち向かい、勇敢にも戦線を維持していた。

 まわりで他の冒険者が倒れる中、女性だけは、攻撃を弾かれてもなんどもオーガに向かっていく。

 その勇敢な姿に、周りの負傷した兵士たちも見とれてしまっていた。


「うおおおおおおおお……!!!!」


 女性はオーガの後ろにすばやく回り込んで、オーガの背中を駆けあがる!

 そして、オーガの首の後ろ、うなじの部分に、短剣で鋭い切り込みを入れる。


「くらええええええ!!!!」


 ズシャアアアアアア!!!!


 オーガの首の裏から大量の血が噴出し……オーガはその場に倒れた。

 女性はついに、単騎でオーガを仕留めたのだった。

 その実力はAランク相当に思われた。


「やった……! ついに倒した……!」


 だが、女性は油断したのだろうか。

 その直後、他のオーガに囲まれてしまう。


「っく……ここまでか……」


 こうしちゃいられない。

 俺は女性を助けるべく、オーガの前に立ちはだかった。


「大丈夫か……?」

「あ、あんたは……?」

「俺はトウヤ。カヤバ・トウヤだ。こっちはモカ。俺の彼女だ」


 俺が彼女だと紹介すると、モカは「きゃ……/// 彼女って……」と照れていた。かわいい。


「ふん、戦場に女を連れてくるとはね……」

「お前も女だろ……」

「私は女じゃない。戦士だ。女なんてものはとうの昔に捨てた……! 私はこの街を守る戦士だ! 男に助けてもらう必要はない……!」

「助けがいらないって……? じゃあ、まあ俺は勝手にやるだけだよ……!」


 俺は、剣を抜いて目の前のオーガをなぎ倒した。


「オラぁ……!!!!」


 俺の剣撃は一撃でオーガ15体ほどを絶命させた。

 その姿を見て、さっきの女性は、あっけにとられている。

 そして、あまりの驚きに、腰を抜かしたようで……。


「そんな……オーガを一瞬で……」

「これでも俺の助けがいらないって……?」


 どうやら女性は驚きのあまり腰を抜かして、立ち上がれなくなってしまったようだ。

 女性はその場に座り込んで、驚きの表情を浮かべ、あっけにとられている。

 俺は女性に手を差し伸べた。


「大丈夫か……? 起き上がれるか……?」


 俺が女性の手に触れると――。

 その瞬間。


「きゃ、きゃあああああ……!」

「え…………?」


 女性は顔を真っ赤にして、煙を頭から吹き出し、俺の手を振り払った。


「わ、わわわわわ私に触れるなああああ痴れ者め!!!! は、破廉恥だ……! 未婚の男女が手を合わせるなど……!!!!」

「えぇええええ……!?」


 どうやら、女性はかなりの恥ずかしがり屋のようだ。

 っていうか、恥ずかしがり屋っていう次元を超えている……。

 

『あらら……これは……処女だわね……この子……。これはいい拾い物したんじゃないの? かなり美人だし、ハーレム入り確定ね! この子絶対チョロいわよ! もう今のであんたに惚れたんじゃないの?』


 などと女神がいらぬことを言ってくる。


『黙れ……!』


 俺はもう一度、今度はそっと、女性に手を差し伸べる。


「なあ、手くらいいいだろう別に……? 大丈夫か……? 起き上がれるか……?」

「う、うう……す、すまない……。取り乱してしまった。大丈夫だ。一人で起き上がれる……」


 女性は立ちあがると、かあっと顔を赤らめた。


「ん……? どうしたんだ……?」


 ふと、女性の足元を見ると、そこには水たまりができていた。

 どうやら、あまりの驚きに、失禁してしまっていたようだ。


「み、見るなぁ……! 見ないでくれぇ……! 殺してくれぇ……!」


 俺がそのことに気づくと、女性は顔を真っ赤にして、顔に手を当ててうずくまってしまった。

 これは……フォローが大変だ……。

 でもちょっとかわいい……。

 強気な感じかと思ったが、案外こういうところもあるのだな……。

 おっと、あまりじろじろ見るものじゃないな。


「だ、大丈夫だ……。替えの服ならある」


 俺はなんでもスマホを取り出して、とっさに通販で適当な衣服を注文した。


「そ、そういう問題じゃない……! うう……もうお嫁にいけない……」


 女性は涙目でうずくまっている。


『あんた、もらってあげなさいよ。責任もって』

『うるせえ!』


 女神マジで黙れ。

 すると、今度はモカが口を開いた。


「大丈夫ですよ! お嫁にいけなくなったら、トウヤさんがもらってくれますから……!」


 などと、モカまでおかしなことを言い出す。


「おいいいいいい!? モカさん……?!?!?!?」


 女性冒険者のほうも、顔を上げて


「ほ、本当か……!?」


 などとまんざらでもない様子だ……。

 これ、どうなっちゃうのおおおお……!!?!?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る