第11話 リザルト

「で、では……依頼品の薬草50個、すべて受け取りました。これにてクエストクリアですね」


 フィエルさんは、そう言って薬草をカウンターの下にしまう。

 ハンコを押そうとするフィエルさん。

 俺は手でフィエルさんに待ったをかけた。


「あ、ちょっと待ってください。他にも余分にとってきたので、これも納品してもいいですか?」

「へ……? ま、まだあるんですか? も、もちろん、ギルドとしても助かりますけど……この短時間で……ほんとうにトウヤさんはすごいですね……」


 俺はまず、上級薬草を机の上に置いた。


「こ、これは上級薬草……!? それもこんなに……!?」

「これ、全部買い取ってもらえますか? それを修繕費にあててください」

「は、はい……これだけあれば、かなりの金額になります。トウヤさんなら、修繕費もすぐに返せそうですね……! いい調子です!」

「あ、まだあるんですけど……」

「えぇ……!? まだあるんですか……!?」

「ええ、修繕費にと思って、使えそうなの全部抜いてきました」

「ぜ、全部……!?!??! 正気ですか!?」

「だめでしたか……?」

「い、いえ……ダメではないんですけど……」


 どうもフィエルさんの反応がさっきから大げさだな。

 俺はそんなにおかしなことをしたのだろうか。

 そこに使えそうな草があったら、そりゃあ全部抜くだろう?


「いいですか、普通、薬草を抜くのには魔力が必要なんですよ?」

「へー……?」


 まだ俺は、フィエルさんの言ってることを理解できずにいた。

 ていうか、薬草を抜くときに魔力を消費した記憶なんてないけどな?

 俺にとってはそのくらいの魔力、少なすぎて減ったうちにも入らないってことか。

 たしかに、言われてみると魔力が少し減っている気もする。


「薬草を抜くときに、人間は、その代わりに、大地に魔力を吸い取られるんです」

「なるほど」

「しかも、上位の薬草であればあるほど、取られる魔力も大きくなるんです。普通、こんなに大量の上級薬草をいっぺんにとってきたら、ぶっ倒れますよ……? こんなに抜こうとしたら……どれほどの魔力が……ゴクリ……」

「そ、そうなんですか……」


 たしかに、そう言われてみると俺のしたことがどれだけ非常識なのかよくわかるな……。

 そういえば、抜くときちょっとだけ疲れたやつあったな……。


「あの、こんなのもあるんだけど……これもしかしてすごいやつだったりします?」


 俺はアイテムボックスからとっておきの薬草をとりだした。

 これは結構隠れたとこに生えてたし、レアなんじゃないのか?


「こ、これは……! これは伝説の神秘草!」

「そ、そんなにすごいものなんですか?」

「すごいです! これなら修繕費どころか、億万長者ですよ!」

「へぇ……! やったぁ……!」


 これで修繕費はまかなえるだろう。

 だが、問題は冒険者ランクのほうだな。


「これならきっと、カマセーヌさんも納得してくれますよ!」

「本当ですか! よかった」

「これで修繕費はチャラですし、ランクも……そうですね、これだけの功績があれば、一気にCランクくらいには上がれると思います。私からも、カマセーヌさんをもう一度説得してみますね!」

「はい! ありがとうございます!」


 これにてクエスト完了。

 修繕費も支払えそうだし、カマセーヌとやらにもぎゃふんと言わせれそうだ。


『ぎゃふんとか今日日きかないわね』

『うるせ』


 俺がほっと胸をなでおろしていると――。

 ギルドの入り口から、俺に向かって一直線にやってくる冒険者がいた。

 あれは……この前言いがかりをつけてきた、たしかヘクセとかいう名前のAランク冒険者だっけ。

 モカにひどいことしようとしてたやつだ。


「おいお前! トウヤとか言ったか!」

「俺になにかようか?」

「お前、魔力測定で水晶を壊したそうだな」

「それがどうした?」

「このインチキ野郎め! 水晶は誤魔化せたって、このヘクセ様の目は誤魔化せないぜ!」

「はぁ……?」


 こいつ、懲りずにまた俺に言いがかりをつけにきたのか……?

 この前、あれだけしてやられたというのにな。

 しかも言うに事欠いて、水晶の件がインチキだというのか。

 カマセーヌにしてもこいつにしても、事実を事実として受け入れられないやつがこんなに多いとは……。

 まったく、面倒な連中だ。


「詐欺をはたらいて、ギルドの受付嬢や女冒険者をたぶらかそうってんだろ? そうはいかないぜ! このヘクセ様が成敗してやる!」

「えぇ……なんだそれ……」


 俺があきれていると、その騒ぎをききつけたのか、カウンターの奥から、あのカマセーヌがやってきた。

 やけにタイミングがいいじゃないか……。まさか、こいつらグルか?


「その方の言う通りです。水晶に細工をしたに違いありません!」


 ギルドの内部がざわつき始める。

 これは面倒なことになりそうだな。

 俺はさっきとってきたばかりの、神秘草を見せつる。


「じゃあこれはどうだ? 俺が詐欺師だったら、こんなレアアイテムをとってくることなんてできないだろ? いい加減、俺を認めてくれないか? 証拠もないのに言いがかりはやめてほしい」

「っは! そんなもの、どこかで拾ったか、まがい物に決まっている! この詐欺師め!」

「えぇ……」


 どこまでも俺を悪者扱いしたいようだ。

 これは、話し合いでは解決できなさそうだな。

 それは相手も同じ思いのようだ。


「この痴れ者め! 俺が叩ききってやる!」


 ヘクセはそう言うと、剣を構えた。


「前も負けたのに、本当に凝りない奴だな」


 俺はひょいと奴の剣を取り上げると、足を踏んずけてやった。


「ぎあえええええええええええええ!!!!」

「これでも俺が詐欺師だと?」

「っく……これもなにかのインチキに違いない……! この俺がFランクに負けるなど……ありえない……!」


 くそ、めんどうだな……もういいや。


「じゃあとりあえず、ギルドの表に出ないか? もっと証拠を見せよう」

「ふん、いい度胸だ。死ぬまでやろう」


 それだと死ぬのは俺じゃなくてアンタなんだが……大丈夫か?

 まあ、別に俺は決闘をしようと言ったわけじゃない。

 俺には、策があった。

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