第10話 クエストクリア
冒険者ギルドに到着するなり、俺はものすごい注目を集めてしまう。
転移スキルで降り立ったとたん、みんなが一斉に俺のほうを振り向いた。
中には飲んでいた酒をこぼす者もいた。酒場のウエイトレスさんなんかも、運んでいる途中の酒を落としてグラスを割ってしまったりしていた。
もしかして、俺またなんかやっちゃったのか?
困惑している俺に、受付嬢のフィエルさんが話しかけてくる。
「すごいですトウヤさん。転移魔法まで使えたんですね……!」
「転移魔法って、そんなに珍しいんですか?」
「それはもう! 国に一人いればいいというほどですよ! それがあるだけで、億万長者になれますからね。修繕費もすぐに払えると思いますよ! そんなすごいトウヤさんをFランクにしてしまって……本当に申し訳ないです……」
フィエルさんは心底申し訳なさそうに頭を深々と下げた。ちらっと胸の谷間が見えてしまったのは内緒だ。
『えっちめ……』
『うるへ』
まあ女神にはバレバレだけど……。
「いえいえ、フィエルさんのせいじゃないですよ。あのカマセーヌとかいう男を納得させれば、済む話です。俺、頑張りますから」
「さすがはトウヤさんですね! 私も、受付嬢として陰ながら応援してます! トウヤさんほどの人ならきっと、すぐにAランク冒険者になれます!」
「ありがとうございます」
「それで、今日はどうされたんですか?」
「え……?」
「え……?」
フィエルさんは不思議なことをきくもんだと思った。
だって俺は数時間前にクエストを受けて、それから戻ってきたわけだ。
ってことは、もちろんクエスト完了を知らせにきたに決まってる。
なのにフィエルさんは本気で俺の要件がわからないといった感じの顔で、きょとんと首をかしげている。かわいい。
「あ、もしかして薬草が採れる場所がわからなかったとかですか? それか、薬草がどんなのかわからなかったとか……? なんでも手助けできることなら、言ってくださいね!」
「え、いや……そうじゃなくて。クエストの完了報告に来たんですけど……」
「え…………?」
「え……?」
俺たちはまたも顔を見合わせて困惑した。
「ちょ、ちょっと待ってください……。トウヤさん、さっき出て行ったばかりですよね……????」
「さっきっていっても、数時間前ですね」
「それで、もうクエスト完了したんですか……!?」
フィエルさんはやけに大げさに驚くなぁ……。そんなにおかしなことなのか?
「なにか変ですか?」
「いえ……だって、このクエストの期限は一週間なんですよ????」
「へ…………?」
「普通薬草50個といったら、Aランク冒険者でも丸一日、BランクやCランクなら3日はかかりますよ。だからFランクでは1週間の期間があるんですけど……それを数時間って……」
「あー、そういうことなんですか……」
どうやら俺はまたおかしなことをやらかしてしまったみたいだ。
うーん、常識がわからん……。あのポンコツ女神も女神で、女神のくせに自分の管理してる世界の常識とかぜんぜん把握してないからなぁ……。そのせいで俺まで非常識なやつみたいになってしまう。もうちょっといい塩梅のチートスキルならよかったんだが……。
「でも、それだったらFランクのクエストじゃなく、Aランク冒険者に頼めば早いんじゃないですか?」
「それが、Aランク冒険者は薬草採りなんて面倒なことやりたがらないんですよね……。Aランク冒険者に依頼するとお金も高くなるし、薬草採りと考えると、採算も合わないんですよ」
「あーなるほど、たしかに」
「なので、多少時間はかかってもFランク冒険者の入門用のクエストに設定されてるんです」
それを俺は、ものの数時間でやってしまったってわけか……。
でもそれなら、モカもあの短時間で15個も集めてるから、かなり優秀ってことになるな。
まあとりあえずそういうことで、俺はクエスト完了の手続きをしてもらうことにした。
「ほんと、トウヤさん……こんな早い仕事をする人は初めてですよ。私もけっこう受付嬢やってますけど、びっくりです」
「ははは……まあ、たまたまラッキーだっただけですよ」
「えーっとそれで、その肝心の薬草はどこに?」
「あ、はい。今出しますね」
「え…………?」
俺はアイテムボックスから、薬草50個を取り出してカウンターに並べた。
すると、またもやフィエルさんは言葉を失った。ていうか、ドン引きされてないか? コレ……。
「あ、あのートウヤさん、今のは……?」
「え。アイテムボックスですけど……」
「はぁ……もう、どこまで突っ込めばいいのやら……」
「え…………」
「アイテムボックスなんて、今まで人生でみたこともないですよ!? 転移だけじゃなく、アイテムボックスまでつかえるなんて……トウヤさん、本当に何者なんですか!? 大賢者さまの生まれ変わりとかなんですか!?」
「い、いや……違いますけど……」
まさかここまで驚かれるとはな……。ていうか、モカはそこまで驚いてなかったような気がするけど、もしかしたら内心はドン引きされてたりとかしたのかな。
フィエルさんはちらりとモカのほうを見やる。
「わ、私も最初はびっくりしたんですけど……トウヤさんならもう、なんでもアリなのかなって……」
「はぁ……まあ、そうですね。もう何があっても驚きません。ほんとに、もう絶対驚かないですからね!」
そんなことを言うフィエルさんは、数秒後に、もっと驚くことになる。
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