第4話 街
そんなうざい女神の妨害を受けながらも、俺はなんとか地上へとたどり着く。
レベルも9999あることだし、ダンジョンから地上へ向かう分にはまったく苦戦することがなかった。
「って……ここは……?」
ダンジョンを抜けると、そこは広々とした草原だった。
俺が外に出た瞬間、ダンジョンの扉が閉まり、どこかに消えてしまった。
目の前いっぱいに広がる草原には、スライムや一角ウサギなどの超下級モンスターたちが闊歩している。
おかしくないか……?
だって、ラスダンのすぐそばにこんな雑魚モンスターって……。
『どうやらさっきのは隠しダンジョン的なものだったみたいね』
「マジか……マジでゲームみたいなんだな……」
『運がいいのか悪いのやらって感じね……』
「あとちょっと位置がずれてれば平和な滑り出しだったのにな」
まあいい、気持ちを切り替えよう。
せっかく気持ちのいい草原に出られたことだし、さっそく街でも目指そう。
「なあクソ女神、街の方角とかわかんねえか?」
『うーん、私もその世界のこと、よく知らないのよね』
「はぁ……!?」
『だっていちいち覚えてられないわよ! こっちが一体いくつの世界を管理してると思ってんの!?』
「えぇ……そんなん知らんがな……しっかりしろよ……」
職務放棄しすぎだろこの女神。絶対他の神様はもっとちゃんとしてると思うよ?
『ていうかそんなの私にきかなくても《なんでもスマホ》があるじゃない。せっかく与えたチートなんだから、活用してよね』
「あ、そっか! そんな便利なものが!」
俺はアイテムボックスからスマホを取り出した。
なんでもスマホ――見た目は生前俺が使っていたまんまだが、いろいろと異世界で使うのに便利なように改造がほどこされているらしい。
マップを見る以外にも、攻略wikiを検索したり、現代のアイテムを通販で買ったりもできるようだ。
とりあえずマップを開いて、現在位置と、それから最寄りの大きい街を検索してみる。
「……って、遠……!?」
なんとここから街まではかなりの距離がある。
いや、小さな街とか村ならそこらにもあるんだが……。
やっぱり冒険者ギルドがあるような大きい街を見てみたい。
「なあこれ、空間転移とかって……」
『空間転移は行ったことのある街にしか飛べないわね』
「だよなぁ……くそ、馬車でも通りかからないかな」
『なに言ってんの、今のトウヤなら歩いてすぐよ?』
「はぁ……? あ、そっか」
最初にもらったチートのおかげで、身体能力が大幅に強化されてるんだった。
それに、レベルが上がったおかげで敏捷性もあがっているはずだ。
今の俺が本気で全力ダッシュしたら、かなりの速さになるだろう。
「おっしゃ! 引きこもって以来走るのなんて何年ぶりかわからねえけど、いっちょここは本気で頑張って走ってみますか! うおおおおおおおおお!!!!」
俺はマップを見ながら街の方向に向けて全速力で走り出した。
◇
「……って、いでででででででで……!!!!」
なにも考えずに方角だけ見据えて走り出したせいで、今俺は森の中にいる。
森の中をひたすら直進しているから、木の枝とかが顔に刺さりまくって痛い。
あまりに勢いよく走りだしてしまったので、急には止まれないし、曲がれない。
「まあ、後で回復魔法かければいいか……」
幸い、俺は防御力や耐久面でも優れたステータスを持っているため、木の枝程度では無傷だ。
傷こそつかないが、それでもやっぱり痛いもんは痛い。
そしてそのまま、直進してたら大きな岩場に突っ込んだ。
――ドゴーン!
だが岩場より俺のほうが硬かったせいか、大きなトンネルをあけながら俺は猛スピードで突っ走る。
怪我はしなかったけど、ぶつかった衝撃で鼻が折れるかと思うくらい痛かった。
なんだこの仕様……ステータス上がったら痛みもないようにしてくれよ……。
『まあ痛みを消すこともできなくはないけど……それだと快感も無くなっちゃうわよ?』
「あ、じゃあこのままでお願いします」
即答。
俺はそのまま痛みを我慢しながら街まで一直線に駆け抜けた!
途中すれ違った馬車のオッサンがとんでもなくドン引きした顔で俺を見ていたが、もう二度と会わないだろうから気にしない。
「ふぅ……なんとか止まれた……」
『大変だったわねぇ……』
街の近くの湖にバシャンと突っ込んで、ようやく俺は止まることができた。
おかげで全身ビショビショだ。
でもなんとか明るいうちに街に着くことができたぞ!
さっそく門番に話しかけて中に入れてもらおう。
「あのー」
「うお!? なんだお前めちゃビショビショじゃねえか!」
「街の中に入りたいんですけど……」
「いいけどその前に着替えろよ!?」
「あ、ありがとうございます。てかもっと怪しまれるかと思ったけど意外と軽いんですね……」
「いや普通にその恰好じゃ怪しいより心配が勝つ。なんか顔に枝刺さってるし……」
「あー。なるほど。親切だ……あざす」
門番がいい人でよかった。彼らの休憩小屋に置いてある替えの衣服をくれるというので、ありがたくそれを着させてもらった。
身体も拭かせてもらえたし、暖炉で温まりながらパンとスープも貰えた。
なんだ異世界めっちゃいいとこじゃん。
「いやーほんとありがとうございました」
「まあいいってことよ。それより今度からは湖に落ちないように気をつけろよ! ギルドカード落としたら再発行は大変だからな」
「あ、はい!」
適当に湖に落ちた理由とか枝が刺さってた理由とかでっち上げたから、マジで変なドジっ子野郎だと思われてる……。今度なにかあの人にお礼をしよう……。
親切な門番さんから冒険者ギルドの場所も教えてもらい、今度はそこを目指す。
やっぱり異世界で街に着いたら、まっさきに行くのは冒険者ギルドだよな!
それに、門番さんにも言われた通り、身分証明用のギルドカードも作ってもらわなきゃならない。
今回は厚意で入れてもらえたが、他の街の門番が厳しくないとは限らないしな。
◇
「いや! やめてください! はなして!」
「ぅるせえなぁ! いいじゃねえかちょっとくらい。俺らとクエストいこうぜぇ? へっへっへ……その後は夜のクエストといこうじゃねえか」
ギルドに入ると、真っ先に目に留まったのがそんなやり取り。
ピンク髪の美少女が、いけ好かない男たちに絡まれている。
あーあ、うぜえな。てか夜のクエストってなんだよ気色わりい。
『おやおや~? どうするの? トウヤ』
「決まってる」
俺はそいつらの元へ一直線に歩いていく。
「おいお前ら、嫌がってるだろ! その子」
「あぁん…………????」
チンピラ冒険者たちは俺の方を向いて睨みつけてくる。
だが不思議なことにまったく怖くもなんともない。
それだけ強くなった影響が大きいということだろうか。
万が一にも負けないような相手に、恐れを抱くはずもない。
「なんだぁてめぇ。俺様がAランク冒険者様のヘクセ様と知らねえのか?」
「様様うるせえな……俺は今日ここに冒険者登録しにきたトウヤだ」
「ぎゃははは! きいたかてめえら! 冒険者ランクも持たねえようなクソ雑魚の新人が、このヘクセ様に喧嘩を売ろうってよ!」
ヘクセとかいうクソ野郎が仲間たちにそう言うと、下品な笑い声が沸き起こった。
「うるせえ俺は虐めは大嫌いなんだよ!」
「ひぃ……!?」
――ドン!!!!
ちょっとビビらせてやろうと、俺はヘクセに向かってグーパンで壁ドンをかました。
だが、勢い余ってギルドの壁を拳が突き抜けてしまった。
あーこれ、人間に向けて撃っちゃだめなパンチだ……。自重しよう。
――シーン。
ギルド内が一瞬静まりかえる。
「ご、ごめんなさいぃいいい…………」
ふと下から消え入りそうな弱気な声がきこえてきたので見てみると、ヘクセが座りこんで漏らしていやがった。
さっと俺はヘクセから離れる。あぶねえあぶねえ……。
「あん? なんか臭えぞ? 家に帰って着替えたらどうだ? 今なら屁ってことにしておいてやるからよ」
俺がそう言うと、ヘクセは恐怖と恥辱のあまりにそのまま気絶した。
ヘクセの取り巻きたちが、慌てて彼を担いで逃げようとする。
そして去り際に、しょうもない捨て台詞を残して行った。
「っち……覚えていろよ……!」
「忘れねえよ。こんな間抜けな野郎忘れられるかよ」
とりあえずこれだけ恥をかいたら、しばらくはギルドにもこれまい。
女の子を助けるためとはいえ、壁を壊したのは申し訳ないな。
登録のついでに事情を説明して謝っておこう。弁償もしたい。
俺がその場から離れてカウンターに向かおうとしたそのとき――。
さっきチンピラに絡まれていたピンク髪の美少女が、俺の前に立ちはだかった。
「あの……助けていただいて、ありがとうございます」
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