第6話:妹じゃダメですか、兄さん……

「兄さん……この部屋、少し寒いです」


 暖房は23度の自動に設定してある。


 羽毛布団なので、それ以上にすると寝苦しくなるのだ。


「いつもこのくらいだけど。寒いなら、温度上げるけど」


「いえ、ワガママは言いません。その代わり、もっと寄りますね」


 そう言うと、さらにすり寄ってくる。


 コアラのように腕に抱き着くと、二の腕は体温に包まれた。


「兄さん熱が染み渡ります」


 モコモコのパジャマと、その下の膨らみ。


 柔らかな弾力。


 これって……。


「ん……ぁっ、だめです……兄さん、そんなトコさわっちゃ」


 艶めかしい声。


 察するに、やはりそのようだった。


 妹と添い寝なんてするんじゃなかった……。



「ひけらかすように変な声出さないの」


「あら、何を想像しているんです? さすがは兄さん、むっつりスケベですね」


「全部、分かっててやってるだろ……まったく、むっつりはどっちなんだか」


 ぎゅぅと拘束が強まる。


 下着は着ているみたいだけど、それにしたってこれは……。


「どうしたんです? 兄さんはいつもおかしいですけど、今日はいつにもまして挙動不審ですよ」


「それはこっちのセリフだ。普通の兄妹は添い寝なんてしないだろ……」


 拘束が緩む。


 いつでも抜け出せたが、何となく憚られる。


 やがて、つかえながらも話し始めた。


「最近、眠りが浅くて……。いろいろ調べた結果、添い寝はリラックス効果が期待できるみたいで……。なので、試してみたくて……」


 再び、ギュッと抱き寄せ、二の腕に頬ずりする。


 足まで太ももで挟まれ、すっかり抱き枕になってしまった。


 ◇◇


「なんたってこんな……これじゃまるで……」


 くっついているせいか、全身がポカポカで……。


 だんだんと、まぶたも重くなる。


「言ったはずです。兄さんの初めては、すべて私がもらいますって。添い寝も恋人プレイの一環です」


「プレイって……。でも、こんな機会はもう」


「知ってますよ。兄さんは、異性が怖いのでしょう。恋愛恐怖症……なんですよね」


「どうして。それを――」


「でも、私には触れられる……。当然ですよね、私は家族で妹ですから。生物学上、異性ではあっても、兄さんにとって恋愛対象ではありませんもの」


「だって、それは、当たり、前だろ……」


 次第に意識が遠のき、ぼんやり薄目を開く。


 眉根を寄せ、目が細まる。


「兄さんには私だけいればいいんです。女は怖いですよ、きっと男子が思う何十倍も……」


 指が鼻先に当たる。


「その点、私はウラオモテがないので安心です。兄さんが望めば、いつだって……」


 曖昧に微笑む。


 ついに真っ暗になる。


「――ですが、私も鬼ではありません。だって、初めては一度きりですもの。性交渉は、兄さんが本気でしたくなった時までとっておきます」


 悲しげな顔が残り、声だけが聞こえる。


「癒すはずが長々と……。今話したことは、忘れてください。ただ私は、兄さん以外考えられませんので。兄さん次第で、私は気娘のまま一生を終えそうですけど。別にそれでも――」


 唇が潤う。


 ――おやすみなさい、兄さん――


 そう、言われた気がした。

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