第62話……免許皆伝!?

 統一歴565年11月――。


 私は師匠であるシュナイダーの元で修行に励んでいた。


「次!」


「はっ!」


 私は以前から備えていた眼の系統の魔法である「眼術」を磨いた。

 練習相手に対し、私は「眼術」の魔法を試す。


「地の聖霊よ、眼に映る敵を心の鎖で縛り給え!」


 そう唱えると相手は気を失い、体は硬直したのだった。


「……まぁ、実際の相手はそう易々と魔法にかからんがの……、まぁ、シンカー。主は合格じゃ」


「有難うございます!」


 私は剣に続いて、魔法も師匠に印可状を貰ったのであった。

 これにて、剣も魔法も師匠公認の腕前となったのである。


「いまだ新しく覚えた『空間転移』の魔法は未熟じゃがな、それ以上を望むなら、ワシ以上の師が必要じゃろうて……。どれ、紹介状をかいてやろう」


「ありがとうございます」


 私は師匠より、魔法の使い手であるエビクロティア殿への紹介状を預かった。

 彼はガーランド商国にいるらしい。

 私は揚揚と足を西へと向けたのであった。




◇◇◇◇◇


 西へ向かう最中。

 オーウェン連合王国支配下の村々を見てまわった。

 どの村々も戦乱による人不足で、農地は荒れ、貧しい惨状が続いていた。


 戦乱は、誰かが強い大きな国を作らねば終わらないと言われている。

 国が大きくなれば、他の国はうかつに戦を仕向けることは出来なくなるのだ。


 よって、オーウェン連合王国も、ガーランド商国にしても、民を安んじるためにより大きな国を目指していることは事実であった。

 まぁ、その根底に、貴族たちの領土欲や商人たちの商圏欲も渦巻いてはいるのであるが……。


 私はポコリナだけを連れ、国交境を西に越えたのであった。


「ポコ~♪」

「お邪魔するよ!」


「はい!」


 旧商国領にはいり、国境の集落の宿に併設された食堂に入る。

 集落には活気があり、今では、ここが王国領であるのも感じさせない……。


 戦時にも関わらず、沢山の項目がメニューに並んでいた。


「牡蠣のグラタンをくれ! あと山羊の温ミルクもな」


「はいよ~!」


 私は運ばれてきた旬のグラタンを食べ、ポコリナに山羊ミルクを飲ませた。

 そうすると、となりのテーブルから冷たい目線が注がれた。


「人でもないタヌキが、山羊乳を啜ってやがる。戦災に遭った子供たちが餓死しているのにな……」


 そういう小声が私の耳に入る。

 確かに、優先すべきは人間かもしれない。

 だが、私の最も大切な戦友はポコリナであったのだ……。


「ポコ?」


「もう行くぞ!」


 私は、惜しそうに皿を舐めまわすポコリナの前足を掴んで、宿に併設された食堂を出た。

 空にはまん丸い月が昇り、肌寒い風が街道に吹きすさんでいたのであった。




◇◇◇◇◇


 王国と商国との抗争地をさらに西へ進む。

 当然ながら、両軍の兵卒に絡まれることは多かった。


「貴様、そこでなにをしている?」


 暗闇を隠れて進んでいても、時には松明を手にした斥候に捕まった。


「怪しい者ではありません!」


「そんなことを素直に言う怪しい奴がおるか!」


 ……確かにそうだ。

 だが、身バレするのはどうも気に食わなかったのだ。


「地の精霊たちよ、我が眼に映る敵を、心の鎖で縛り給え!」


 私がそう唱えると、私の両眼に紅い紋章が浮かび上がり、即座に相手の体の自由を奪った。

 ズサッっと、相手が気絶し倒れるのを確認。

 さらに私は進路を西へと進めたのであった……。



 今回の私はタダの修行の身。

 王国にも商国にも籍を持たない。

 いわば、一傭兵にもどった心持ちであった。


 私は二つの集落で宿を取り、三つの森で野宿。

 開けた街で馬を借り、そこから二日の距離を走って、目的地である要塞都市サラマンダーに着いたのであった。

 ついた頃には夕方で、陽が沈みかけていた……。


「通行手形を見せられよ!」


 門を守る衛兵にそう言われ、近隣の商人から買った偽の通行証を手渡す。


「はい」


「通れ!」


 この要塞都市、上を見上げるとかなり高い城壁がそびえ立っている。

 二重の門の作りも丈夫そうで、著しく堅牢な構えを備えていた。

 流石は、要塞都市を冠する備えといえるだろう。


 中へと入ると、活気ある声があちこちで聞こえる。

 たくさんの商店が通りを賑やかにし、人通りは多かった。

 きっと、この城塞都市の管理者は上手いこと政治を行っていることが予想された。


 私は少し裏手の通りの宿屋にはいる。

 一階に併設された食堂は、多くの肉体労働者でにぎわっていた。


「良く冷えたエールを一つと、麦粥を2つ。あと乾燥羊肉を一つくれ」


「あいよ」


 私はポコリナと空いた腹を満たす。

 そして、久々にのんだ酒も旨かった。

 すこしほろ酔いになった頃に、給仕の娘に尋ねる。


「ひとつ尋ねたいのだが、エビクロティアという魔法使いについて知らぬか?」


 そう尋ねると、娘はビックリした顔をする。


「魔法使いのエビクロティア様といえば、この要塞都市サラマンダーのご領主様ですわよ!」


 ……なんだと!?

 それは初耳であった。


 私は宿で一夜を明かし、翌日政庁を尋ねる事にした。

 政庁は頑強な造りで、衛兵も屈強な男たちが務めていたのであった。


「……あの、これが紹介状なのですが。エビクロティア様に御目通りが叶いますでしょうか?」


 私は丁寧に衛兵に聞いてみた。


「少し待たれよ」


 そう言われ、私は5分ほど待たされたが、


「ご城主様がお会いになられる。参られよ!」


 私は、魔法使いエビクロティア殿に謁見できるのを楽しみに、政庁の廊下進んだのであった……。

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