第57話……王都シャンプールでの攻防

「であぇ、であぇ!」


 哨戒中の敵がさらなる敵を呼び寄せる。


「我が道をあけろ!」


 今すぐ逃げたいところだが、秘密通路が見つかるわけにはいかない。

 女王陛下を逃がしつつ、私は待たしていたコメットに跨り、敵哨戒兵2名に突撃。

 愛剣を鞘から振り抜き、続け様に首を刎ねた。


「いたぞ! あそこだ!」


 敵陣から槍を構えた歩兵が、丘陵を駆けのぼってくる。

 やってくる敵兵は多い。

 やはり、手段として逃げるしかないだろう。


「こちらです!」


「うむ」


 私はコメットに女王陛下を乗せ、一気に斜面を駆けのぼっていく。

 それを逃がすように、女王護衛隊の白薔薇隊が敵を食い止めた。


「こいつら、女だぞ!」

「生かして捕えろ! 楽しませてもらえ!」


「いや~!」


 白薔薇隊の奮戦と犠牲もあって、私は敵の勢力圏を離脱。

 自陣へと無事に帰りついたのであった。




◇◇◇◇◇


 陣地にて――。


「よくぞ! ご無事で!」


 必死の形相のスタロン。

 いままで心配をかけたのだろう。


「……悪い。だが女王陛下はこちらにおわす! 陣を引き払え! レーベ城に帰るぞ!」


「はっ」


 私の個人的な目標であった女王の身柄の保護。

 それはどうにか達成できたようである。


「敵の追撃を誘うな! 旗は立てたままにせよ! あたかも人がいるように装うのだ!」


「はっ」


 我が軍はひっそりとシャンプール城の近くから撤退。

 街道に出た頃には、強行軍で我が領地へと走ったのであった。




◇◇◇◇◇


「おかえりなさいませ!」


 城門をくぐり、政庁に辿り着くとイオが出迎えてくれた。

 そして、女王陛下の姿を見るとビックリする。


「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」


「うむ、すまぬが、やっかいになるぞ」


「陛下を頼む! あと皆を呼び寄せてくれ!」


「はい」


 私は政庁に諸将を集めた。

 そして、女王を庇護する方針を伝えたのだった。


「陛下をお逃がししたのを公表するので?」


 スタロンがまず聞いてくる。


「いや、影武者が頑張ってくれる限りは内密にする。皆にもかん口令を敷いておけ!」


「はっ」


「あと、後方攪乱についてはどうなっておる?」


「はっ、ナタラージャ殿がすでに敵の補給隊を急襲している模様。成果はジワジワ出ていくと思われます」


「……うむ」


 侵略地に侵攻した軍隊は、敵地にて略奪し、現地調達を行う。

 だが、今回の共和国軍は約三万。

 共和国本国から、糧秣を補給せねば到底成立出来ないほどの規模であった。



「城の警備以外は、全軍で敵補給路を襲え! 敵に一粒の小麦も渡すな!」


「はっ」


 リルバーン家としては全力を挙げて、共和国の補給線を破壊する方針とした。

 その晩、城の吊り橋が揚げられ城門が開く。

 粛々と各部隊が出撃、分散して闇夜に消えたのであった……。




◇◇◇◇◇


 オーウェン王国の王都シャンプール城。

 その巨大な城壁は二重に施されており、その外側の城壁は城下町全体を囲っていた。


「掛かれ!」


 四方を取り囲んだ共和国軍は、一斉に攻撃を開始。

 共和国の魔法使いの部隊は火球を作り出し、次々に城門へと叩きつけた。


「怯むな、撃ち返せ!」


 城側も弓矢と弩で応戦。

 迫りくる敵軍に向け、雨あられと矢を浴びせた。


「重装歩兵を前に出せ!」


「はっ」


 大きな盾を構えた全身鎧の大男たちが、一列になって城壁に近づいた。

 これには矢も大して効果的ではなく、城側は接近を許した。


「破城槌を出せ!」


 さらに、城門近くに矢盾を備えた破城槌が接近。

 これには城側は巨大な石を落とす。


「梯子を掛けろ! 敵を城壁から追い落とせ!」


 櫓を構える指揮所の各個の命令に際し、伝令が各隊へと急ぐ。

 共和国軍は一斉に城壁に押し寄せ、城壁めがけて梯子を掛けた。



「掛かれ! 掛かれ!」

「押し寄せろ!」


 守る王国軍は三千、攻め寄せる共和国軍は三万。

 衆寡敵せず、王国軍は次第に劣勢になっていったのだった。



「勝鬨!」


「えいえい! おー!」


 共和国軍は攻撃開始から三日間で外側の城壁を陥落させた。

 その為、王都シャンプールの街に共和国軍の雑兵が雪崩れ込んだ。

 家々には兵卒が押し入り、略奪の坩堝となったのだった。


 だが、王城には二番目の強固な城壁が無傷であり、その壁は未だに王宮を堅固に守っていたのであった。




◇◇◇◇◇


 リルバーン伯爵家領北端。

 共和国領境、ジフ村周辺。


「敵の輜重隊を襲え!」

「火を掛けろ!」


「はっ」


 リルバーン家の軍隊は、共和国軍の補給線に殺到。

 時により、場所や仕掛けを替え、次々に糧秣を強奪していったのだった。



「将軍、イシュタール小麦だけでも大変な量ですな」


「ああ、それに矢も沢山手に入ったな」


 私はスタロンと話しながら、手にした補給物資をレーベ城へと運んでいったのであった。



「ラガー! おるか?」


「はっ」


「商人のホップに頼んで、この糧秣をエウロパへと運べ」


「かしこまりました」


 レーベ城に入らぬ量の糧秣は、急いで東の港湾都市エウロパへと運ばせた。

 ここレーベ城は前線から近い。

 万が一のことを考え、後方地帯へ運ぶのは常套手段だったのだ。



「女王陛下、万が一に備え、御身柄を東に移しませぬか?」


「……うむ、良きに計らえ」


 私は、女王陛下にも東に逃れてもらうことにした。

 護衛には白薔薇隊が付いているが、私は護衛責任者にスタロンをつけた。


 スタロンは五感の優れた傭兵だ。

 正規兵には無い良さを備えた護衛だったのだった。

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