第56話……秘密の地下通路

 東国の雄、フレッチャー共和国。

 その名の通り、共和制の国家である。


 だが近年、執政官のアーネスト=コレットが現れ、三期連続の当選を果たし、いわば元首といった感じの地位についていたのだ。

 そして共和国の耕地は大きく、イシュタール小麦に換算して180万ディナールという農業大国である。


 だが、その貴族たちの独立意識は強く、また平和的であり、歴史的に共和国は他国に進行することは稀だったのだ。

 その点、今回の侵攻劇は、コレットが執政官になったことによる変化は大きかったのかもしれない。




◇◇◇◇◇


「あそこに陣を敷け!」


「はっ」


 私が布陣したのは王都シャンプールの北東にある高地であった。

 敵に遭うことは避け、尚且つ味方が見える地点を探し当てたのだ。


「柵を築け! 敵を寄せ付けない陣地を築くのだ!」


「はっ」


 我等が高地をとったが、さりとて数は約一千。

 敵三万は我等を無視するように、王都の城壁を取り囲んでいたのであった。



「掛かれ!」


 共和国軍は王都シャンプールを囲み、攻撃に出た。

 魔法使い達の魔弾が弾け、弓兵の矢が空を覆いつくしたのであった。


「……いかん」


「どうしました?」


 私が思わず漏らした言葉にスタロンが反応。


「見たところ、敵は三万。城に籠る味方は三千と言ったところ。これでは長く持たぬ。なんとかせねば……」


「……かと言いましても、我等一千が加勢したところで何が変わるということもありますまい!」


 しがない傭兵であった私を、貴族まで出世させてくれた女王陛下を助けたい。

 その一心で寡兵を率いてきたのであるが、その行動は無力と言って等しい戦力差であったのだった。




◇◇◇◇◇


 高台に陣を敷いて二日後の夜半。

 私は周囲の地形を調べていた。

 もしかしたら、形勢を挽回できる策が閃くのではないかと……。


「ポコ~♪」


 ポコリナが勢いよく崖を降りていく。

 私はおっかなびっくり、足元に気をつけながらに降りていった。


「……ポコ?」


 そうして、王都シャンプールを包囲している敵軍の陣地まで、あとすこしと言ったところ。

 ポコリナが指し示したのは、古い大きな井戸だった。


「……」


 ポコリナとは話が通じない。

 だが、彼女は執拗に井戸の周りを走り回る。


 ……降りていくべきだろう。

 私は意を決して、井戸の中に降りていくことにしたのであった。




◇◇◇◇◇


 私はポコリナを抱きかかえ、ゆっくりと古井戸を降りていく。

 古井戸はもう既に水は長い期間、枯れているようであった。


「よいしょっと」


 私は井戸の底に足をつける。

 目の前にある網格子を外すと、立派な石畳の通路が現れたのだった。


「精霊たちよ、我が願いに応えよ! 暗視!」


 私は暗視の魔法を唱え、石畳みの通路を奥へ奥へと進んだ。

 突然現れるネズミやコウモリなどに怯えながら、気が遠くなるほど長い地下通路の先へ進む。


 何度か曲道を経た後に、上から光が差し込む場所に出た。

 光の差し込む天井を押し開けると、そこはどこかの室内であったのだった。




◇◇◇◇◇


「ぬ? リルバーン将軍ではありませぬか?」


「……ぇ?」


 地下通路の先に出てきたのは、王国の宰相閣下のお部屋。

 宰相殿も、地下通路の存在を知らなかったようで、眼を白黒させていた。


「将軍はどこからここに?」


「いや、城外の古井戸からここに辿り着きまして……」


「ふむう、王家の先代たちがお造りになった地下通路やもしれませぬな。ちょうどよいところに来られた。これから軍議じゃ!」


「……はっ!」


 私はなし崩しに、シャンプールの王国軍の軍議に参加することになったのであった。




◇◇◇◇◇


 シャンプール城、王国軍大会議室。

 会議室の大きさに対して、出席者の数は少ない。

 それはまさに戦の劣勢を証明していたのだった。


「いまや城の運命は明らか! 城を枕に討ち死にすべし!」


 王城の守備隊長が過激な論調を展開する。


「待たれい、国土の大半は無事なのに、女王陛下も道ずれにするおつもりか?」


 女王護衛部隊、白薔薇隊の隊長が反論。


「確かに、それはそうだが、食料も矢も備蓄が少ないこの城に籠っても、そうもちこたえられるものでもありませぬぞ! そもそも侵攻部隊はなぜもどらぬのか?」


「……まぁまぁ、とりあえずは、陛下の無事がまず第一。そこから考えていこうかのぅ……」


 話を纏めるように宰相殿が発言。

 その提案とは、女王に影武者を立て、本人には私が見つけた地下通路から脱出してもらうということだった。


「そのようなものがあるなら、ぜひそうして欲しい」


 その案に白薔薇隊の隊長も、王城の防衛隊長も賛同。

 女王陛下には、私が案内して城外に連れ出すことになったのであった。



「他の者は全力で王都を守れ! 王国の民を守り抜くのじゃ!」


「「応!」」


 女王陛下の心配がなくなったことで、諸将の意見は一致。

 出来るだけより長く、城を守り抜くことになったのであった。



「陛下、こちらへ!」


「はい」


 女王陛下は一兵卒のようなみすぼらしい鎧を着せられ、私の後に続く。

 さらに、後ろから女王の護衛隊である白薔薇隊が続いた。


「こちらでございます」


「うむ」


 私は松明を手に、女王陛下を地下通路に案内。

 無事に地上へとたどり着いたのであった。


 ……だが、井戸から出た頃には、朝日が昇っていたのであった。



「怪しい奴がいるぞ!」

「出会え、出会え!」


「……ちぃ」


 我々は、運悪く敵に見つかったのであった。

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