第54話……レーベ城防衛戦!

 私は海路を急いでエウロパの港に帰投。

 急いで陸路を不眠の強行軍とし、レーベまでたどり着いたのは未明であった。


「お前様どうしたのです?」


「敵が迫っているというのはまことか?」


「はい左様です! 共和国の軍勢は既に国境境を越えたとの事。 村々の者は既に退避しております」


 侍女が慌ててそう言う。

 あの捕虜の情報は正しかったのだ。

 急いでもどってきた甲斐はあった。


 敵に備え、城には篝火が多く焚かれている。

 きっと侍女たちが気を利かせてくれたのであろう。



「城の守りを急ぎ固めよ!」

「跳ね橋を上げよ!」


 兵を急ぎ収納させ、門を固く閉ざす。

 非常時の為に、矢や食料は十分とは言えずとも、ある程度の備えはあったのだ。


「急ぎシャンプールの王宮に使者をだせ! 至急援軍を頼むのだ!」


「ははっ」


 早馬が朝日を浴びて、早馬が駆けていく。

 王宮も王宮で防御の兵が必要だろう。

 あまり援軍は望めないかもしれない……。



「共和国軍、接近!」


 城塔の上の見張りが叫ぶ。

 レーベ城において初めての防衛戦が展開しようとしていたのだった。




◇◇◇◇◇


 統一歴565年7月――。

 フレッチャー共和国は、オーウェン連合王国との不可侵条約を破棄。

 四万の大軍をもってして国境境を越えたのであった。


 共和国軍は、王国領東端のリルバーン伯爵領に北側より侵入。

 リルバーン家の西側の領地の村々に一斉に火を放った。


「なんだあれは?」

「以前は、あのようなものは無かったはず!」


 共和国軍の将官達はレーベの城をみて驚く。

 それは今年に完成した建物。

 知らぬものが驚くのは仕方なかったのだ。


「意外に堅固そうだのう」

「左様で……」


「あのような小城、落としても財貨は期待できぬ! まずは王都を目指すぞ!」


 共和国軍の首脳部は、まずは首都シャンプールへの攻撃を第一目的にし、そこへ主力三万名を差し向け、残り一万名をレーベ城の攻略部隊としたのであった。




◇◇◇◇◇


「一万ともなると壮観だのぅ……」


「はっ、左様で……」


 私は敵の陣地を眺め、副将格のアーデルハイトにそう呟く。

 こちらの城の兵は約二千。

 防御側が三倍有利と考えても、相手が一万ともなると不利は否めないのであった。


 陽がしっかりと上った頃。

 共和国軍は攻撃を開始してきたのであった。


 銅鑼が鳴り、戦太鼓が連打される。

 梯子を担いだ共和国軍の兵士が殺到してくる。


「……し、将軍!?」


「いや、まだだ。引きつけろ」


 一万に及ぶ敵軍の殺到に慌てるアーデルハイト。

 だが、私は反撃を待つ様に指示する。


 そして敵が空堀に足を踏み入れようとした頃合い、私は攻撃を指示したのだ。



「弓隊放て!」


 一斉に引き絞られた矢が放たれる。

 敵は空堀の中なので防御態勢をとれず、多くが矢の餌食となった。


「……ぬ!? 小癪な! 一旦退け退け!」


 共和国の指揮官がそう命じるも、レーベ城の濠は小城にしては意外にも広く深く、進むにも退くにも難しい地形であった。

 そこへ更なる追い打ちの矢が、雨の様に浴びせられる。

 共和国の兵士たちは進退窮まり、ハリネズミのような躯を多く晒したのであった。



「あはは、勇気無き臆病者たちよ、さっさと故郷の母ちゃんの元へと帰れ!」


 私は門の上の櫓で、自慢の大声で、逃げる敵兵を罵倒した。

 それに続き、周りの下級兵士たちも、敵軍に汚い罵声を浴びせ続けた。



「あの様な下賤の者たちに罵倒される事、我慢ならぬ! かかれ、かかれ!」


 意外なことにこの挑発。

 敵の指揮官に対し、大いに成果を出した。

 私の出生の卑しさの勝利かもしれない……。


「放て! 一兵たりとも生きて返すな!」


 敵の再びの攻撃に際し、城郭から矢が雨のように降り注ぐ。

 が、今度は後退の命令がない。

 敵は多大な損害を出しつつも、城壁に梯子を掛けた。


「石を落とせ! 熱湯を浴びせよ!」


 今度は矢に加え、城壁から大きなが落とされる。

 大きな石の下敷きになる敵兵が続出した。


 とくにポコリナの養子であるミスリルゴーレムは、人が持ち得ぬ怪力で次々と岩を落とし、敵軍を恐怖足らしめたのであった。


 レーベ城も堅固であったが、共和国が苦戦するのには他にも理由があった。

 共和国軍は魔法使いの比率が高く、その分、攻城兵器をあまり持たなかったのだ。


 しかも、頼みの魔法使いたちの多くは、シャンプールへ向かった主力に多くが在籍し、このレーベ城攻略部隊にはあまりいなかったのだ。

 そのため、野戦用装備の兵士たちが梯子を頼みに突撃を繰り返し、大損害を出していたのであった。


 攻撃の応酬は日の入りまで続き、多くの兵士たちが犠牲になったのであった。




◇◇◇◇◇


 月が雲に隠れる深夜。

 共和国軍の兵士が寝静まった頃合い。


「狼煙を上げよ!」


 私は魔法の粉の入った狼煙を上げさせる。

 それは、小さな照明弾の様に夜空を照らした。


「掛かれ!」


 この合図に応じたのは、あらかじめ城外の林の中に身を伏せていたナタラージャ率いる100名の竜騎士隊と、スタロン率いる200名の騎兵隊。

 彼等はこの時を待っていたのだ。


 地形に習熟した夜襲部隊は、見張りの少ない敵陣後背より襲撃。

 そして、見張りをまず真っ先に血祭りにあげる。

 さらに、補給物資などに火を掛けつつ、敵本陣を急襲、指揮系統をズタズタにしたのだった。



「我等も行くぞ!」


「はっ」


 奇襲が成功したのを確認し、私は総攻撃の命令を出した。

 レーベ城の吊り橋が降ろされ、城門が開く。

 リルバーン伯爵家の主力部隊は、混乱した獲物に猛獣のように襲い掛かったのであった。

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